じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 天人菊。テヘランからイスファハンに至る道路沿いの公衆トイレ前にて。

8月26日(木)

【イランで思ったこと(7)】
990826(木)[旅行]車検、シートベルト、ヘルメットの効用を考える
[イランの写真] [イランの写真]  旅行前の予想に反して、現実のイランは平和で安全そのものであった。そんななか、あえて1つだけ怖いものをあげるとすれば、それは交通事故であろう。

 じっさい、どの都市に行っても物凄い車の量だった。必ずしも日食見物の車というわけではない。日祝日を問わず、とにかく車であふれかえっている。横断者は平気で動く車の前に飛び出してくる。テヘランの大きな交差点では、信号待ちの車を目当てに花や新聞を売る人達も見かけたが、こういう人達は車が動き出してもなお、その隙間をくぐり抜けて物売りに専念していた。これだけイスラムの戒律を守る国なんだから宗教に基づいた交通安全対策も可能ではないかと思うのだが、現実には神罰と結びつけて交通ルールを守らせようというような取り組みは全くなされていないように見えた。

 車が多い原因の1つは産油国としてのガソリンの安さにあるように思う。ガイドさんの暗算が正しければ、1リットルあたり約6円とのこと(ただし、車自体の価格は15万円ほどの中古車から税率100%の300万円の外国車まで各種あり物価水準からみてかなり割高であるようにみえる)。ガソリンが安いのは政府主導でコスト割れの低価格に設定されているため。余談だが、主食のナーン(平たいパン)も1枚1円程度に押さえられているという。

 歩行者優先が守られず、これだけ車が多いとなればさぞかし交通事故死者も多いのではと、複数のガイドさんに事故死者数を尋ねてみたが、正式な資料は持ち合わせていないということだった。大学教官をしているという方の非公式の推定では年間7000人ぐらいであろうという。車どうしの接触事故などは日常茶飯事みたいで、たいがいの車には傷や凹みがあったし、毎日、1〜2件は観光バス乗車中に衝突現場を目撃した。

 ガイドさんに確認したところでは、イランでもシートベルト着用、バイクのヘルメット着用などが義務づけられているとのことだが、私が毎日見た限り、それらを守っている人は誰一人居なかった。人口6000万人に対して交通事故死者が本当に7000人程度であるとすると、日本の交通事故死者の比率より多めであるとはいえ、それほどの大差が無いようにも見える。考えてみれば、シートベルト、ヘルメット、あるいは最近のエアバッグ、ABSなど種々の安全具は、事故が起こってしまったという条件の下で死に至る確率を下げるうえで効果を発揮するものばかり。事故が起こらなければそういうものはあってもなくても関係ない、ということになるのだろう。もっとも、イランと日本では国土の広さも道路事情も大きく異なるので、両国の比較だけから安全装備の効用を論じるには限界があるとは思うが。

 イランではかなり古い車をみかけた。いちばん凄いと思ったのは、ボンネットや側壁が無くなっていてエンジンむき出し、ドア無しという、解体現場から持ち出してきたような車まで走っていたことである。雨が降らない国なので、あまり支障は無いのだろう。ガイドさんにイランでは車検は無いのかと尋ねてみたが、制度としてはあるし、違反すれば罰せられるとのお答え。これが本当だとすれば、警察の裁量いかんでは半分以上の車が車検不履行の取締の対象になりそうな気がした。

 周知のように、日本国内の車検制度は、車自体の安全性確認という本来の意義とは別に、その高額な費用のため、結果的に車の買い換えや廃棄を促進する効果をもたらしていると言える。これに対してイランでは、どんな古い車でも使える限りは使うということのようだ。そのせいか、街角や郊外のハイウェイの路側帯では、ボンネットを開けたりタイヤを取り替えるなど、修理をしていると思われる車をよく見かけた。砂漠の真ん中までJAFなどがすぐに駆けつけるはずは無いから、自力で直すことが基本となるのだろう。きわめて大ざっぱだが、故障車を見かける確率は日本の10〜20倍程度であるような印象を持った。日本の厳格な車検制度が大事故の予防や故障車減少にどの程度貢献しているのか、調べてみたい気がした。

 なお、今回は夏のいちばん暑い時期に訪れたため、他の季節以上に冷却系統の故障車が多かったという可能性もある。車検を守らないから路上の故障車が増えているとは一概には言えない点を付け加えさせていただく。

※写真左は、走行中の車の前を平気で横断する人々。写真右は道路の混雑状況。強引な車線変更による接触や追突事故は日常茶飯事であるように見えた。
【新しく知ったこと】
【ちょっと思ったこと】