970708(火)
[心理]血液型と性格をまじめに考える(11)A型はスイカをキッチリ食べるか、スイカをキッチリ食べるのがA型か?
このシリーズを始めるきっかけとなったTV番組のホームページがあることを教えてもらいました。こちらから直行できます。番組そのもののHPのURLはこちらです。
きょうは、6月下旬で中断していた血液型性格判断の話題に戻ろうと思う。血液型性格判断では、しばしば、「XX型はYYという特徴がある」と言う。これが仮に正しかったとして、「あの人は、YYという特徴があるからXX型だ」というような“血液型あてっこ”は、どの程度確実にできるものなのだろうか。
この問題は、ベイズの公式により計算することができる。初めに、統計学の入門書から代表的な問題を引用しよう。
ある臨床検査は、病人に対しては98%の確率で陽性反応を示すが、正常人に対しても5%の確率で陽性を示す。別個の情報として、この病気になる確率は1%であるという。
さて、病院を訪れた1人に、この検査を実施したところ陽性反応が出た。この人が真にこの病気に罹っている確率はどのくらいか?(佐和隆光『初等統計解析』新曜社、1974年を長谷川が要約)。
この問題では、病人の場合は98%の確率で陽性になるということから、陽性反応が出ると98%、少な目に見積もっても70-80%の確率で自分はその病気にかかっているのではないかと落ち込んでしまう。しかし、“病人が陽性になる確率”と“陽性になったものが病人である確率”は全く異なるのだ。ベイズの公式に従って計算してみると、分子は0.98×0.01=0.0098、分母は0.98×0.01+0.05×(1-0.01)=0.0593となり、0.1653という値が導かれる。つまり、真に病気である確率は、思ったほど高率ではない、ここでは16.5%程度であるということがわかる。
それでは、タイトルのスイカの問題を同じように考えてみよう。先日のテレビの番組では、A型の幼稚園児だけが、きっちりと、赤いところを残さずにスイカを食べたと紹介されていた。ここから、次のような問題を作ってみる。
A型者の60%はスイカをキッチリ食べる。それ以外の血液型の者では、キッチリ食べる比率は40%にすぎない。A型者の比率は日本人全体の40%であることがわかっている。さて、ある人が、スイカをキッチリ食べた。この人の血液型がA型である確率はどのくらいか?
同じように確率を計算してみると、分子は0.6×0.4=0.24、分母は、0.6×0.4+0.4×(1-0.4)=0.48、よって、この人がA型である確率は0.24/0.48=0.5、つまり50%であるということになる。もともと、何の情報がなくても「あなたはA型でしょう?」と言って当たる確率は40%あるから、精度が四分六から半々に上がった程度。仮に血液型性格判断が正しいとしても、80%や90%の精度で、行動の特徴から血液型を「あてっこ」するのは難しいことがわかる。
これがAB型を当てるとなるともっと難しい。先日のテレビの番組には、AB型は“二面的”であると書かれている。仮にAB型で二面的な人の確率を80%、それ以外の血液型で二面的な人を20%としておこう。日本人のAB型の比率は10%として計算する。
すると、分子は0.8×0.1=0.08、分母は、0.8×0.1+0.2×0.9=0.26となり、二面的な人がAB型である確率は0.08/0.26=0.31となる。これでは“あなたはAB型でしょう”と言っても7割は外れてしまう。
“血液型あてっこ”は当てにならないという理由をまとめると次のようになる。(もちろん、これは血液型性格判断が正しいという前提に立ってもこうなるという意味であって、血液型性格判断そのものを認めるかどうかは別の議論である。)
- 特定の血液型だけで見られる特徴があった場合は、その情報を入手すれば100%の精度で血液型をあてることができる(例えば、どういう血液型の人から輸血されても重大な凝固反応が生じないという情報を入手すれば、その人の血液型はAB型であると当てることができる)
- しかし、現実の行動的特徴は、特定の血液型だけに限ったものではない。例えば“スイカをキッチリ食べる”ことからその人がA型かどうかが分かる可能性というのは、
- A型者の何%がキッチリ食べるのか
- それ以外の血液型者の何%がキッチリ食べるのか
- A型者は、日本人の何%を占めるのか。
という3つの比率に依存することになる。そこで期待される可能性は、我々が主観的に考える大きさよりも、かなり小さい場合が多い。
- “血液型あてっこ”が、かなり当たると受け止められるのは、“あなたはA型でしょう?”という“当てっこ”が結構当たるためかもしれない。なぜなら、全くでたらめに相手の血液型をA型であると予測しても、40%程度は当たってしまうからである。“あなたはAB型でしょう”という予測ばかりする“当てっこ屋”が現れたとしても、あまりにも外れが多いので、じきに廃業してしまうことだろう。
最後に、条件付確率を大きめに見積もるという錯覚は、血液型ばかりで起こるものではないことを指摘しておきたい。
例えば、傷害行為で補導される生徒の80%が暴力シーンを含むビデオを見ていたとする。補導経験のない生徒も20%は暴力的ビデオを見ていることがわかっている。この地域で、生徒が補導される比率は0.1%であった。暴力シーンを含むビデオを見ている生徒が、補導される確率はどのくらいか?【ここに挙げた数値は、すべて仮想のもので、現実を反映したものではない】
これも同じように解くと、分子は0.8×0.001=0.0008、分母は0.8×0.001+0.2×0.999= 0.20
よって、暴力シーンを含むビデオを見ている生徒が傷害行為を起こす確率は、0.0039、つまり0.4%にも満たない。
“ある犯罪者が**を好む”ということが報じられると、すぐ、“**を好むと犯罪を犯す”というように主張したがる人がいるが、そういう人はたぶんベイズの定理を理解していない。持論を正当化するために、都合のよい出来事を利用しているだけである。
[※2005年7月17日追記]
読者の方から、上記の仮想の事例では「傷害行為で補導される確率」と「傷害行為を起こす確率」の区別が曖昧であるとの御指摘を受けました。「補導される確率」は、その地域の取り締まり方針によっても大きく変わりますので確率計算の事例としては好ましくなかったと考えます。傷害行為のほうも、確率事象としては独立性に問題があるように思います。ということでこの仮想事例は参考になさらないようにお願いします。