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2月18日午前に開催された「なぜタバコがやめられないのでしょう?」講演会(岡大・保健管理センター主催)。大教室ながら座席の8割方が埋まる盛況であった。 |
【思ったこと】 150219(木)タバコがやめられない理由(1)タバコとドーパミン 2月18日(水)の午前中、一般教育棟で、保健管理センター主催の、 タバコを吸う人も吸わない人も「なぜタバコがやめられないのでしょう?」 という講演会が行われた。講師は、禁煙センセイとして知られる、岡山済生会総合病院・がん化学療法センターの川井治之(かわい・はるゆき)先生。 この種のタイトルの講演会は、非喫煙者は自分には関係ないのでわざわざ行かないし、また喫煙者はそういう話を聴いても楽しくないのでやはり行かない、となると結局、参加者10数人程度に終わってしまうのではないかという危惧をいだいていたところであったが、実際に教室に行ってみると大教室ながら8割方は席が埋まっていてびっくり。どうやら、教養教育科目とリンクしていた模様。 さて、喫煙問題というと、まずは健康被害が大きく取り上げられるが、今回はもっぱら、なぜ喫煙が習慣性、依存性につながるのかといった話が中心となっていた。 川井先生によれば、その一番のカギは、ニコチンが脳の側坐核に作用し、ドーパミンを増加させることによって起こることにある。【医学的な知識が無いので一部表現が間違っているかもしれない。念のため→】喫煙によって血液に入り込んだニコチンは、わずか5〜7秒で脳に到達しニコチン受容体を刺激する。この速度は注射よりも速いという。また、このようにして脳内報酬回路に働く機序は、他の薬物依存とも共通しているとのことであった。 これだけの話であれば、タバコの健康被害(発がん性や呼吸器疾患)が全く無かったと仮定した場合、ニコチンの純粋作用は、やる気、快楽、意欲を増大させ、健康にプラスに働くように思えてしまう。しかし、実際にはその逆で、ニコチンによって普段から無理やりドーパミンを出している人は、タバコ以外の楽しみがあってもドーパミンが出にくい体になってしまう。要するにニコチン依存症というのは、「タバコでしかドーパミンが出せない症候群」ということになる。そうなってしまうと、美味しいものを食べても、何かの目標を達成できても、あるいは山登りの際にやっとのことで頂上に達することができても、それだけでは物足りない体になってしまう。食後や仕事を終えたあとの一服で満足するのは、本来ならタバコ無しでも十分に喜びを感じる瞬間にあるべき時に、タバコの助けを借りないとその感動が味わえないという体になっていることを意味している【そう言えば、かつて、タバコのコマーシャルに「今日も元気だ たばこがうまい!」というCMがあった】。 タバコ肯定論の中に、喫煙がストレス解消につながるという主張があるがこれも科学的には根拠が無い。喫煙者の精神状態は常に「離脱症状(禁断症状)によるイライラ状態→喫煙直後のゼロ状態への回復→離脱症状(禁断症状)によるイライラ状態→喫煙によるゼロ状態への回復→...」を繰り返しており、常にマイナス状態とゼロ状態を行き来しているだけにすぎない。しかるに、喫煙直後に急激なプラス変化が得られるため、タバコはストレス解消につながると錯覚してしまう。 また、そもそも、仕事や人間関係上のストレスというのは、その根本原因を取り除かない限り決して解消できないものである。タバコを吸えば吸うほど人間関係が改善するなどということはありえない。けっきょく、 ●タバコはあなたをリラックスさせるものではなく、ストレスとなるのです。 という結論に達する。 |
【思ったこと】 150220(金)タバコがやめられない理由(2)習慣的依存 昨日取り上げたように、ニコチンには脳の側坐核に作用しドーパミンを放出させる効果がある。この作用にはわずか5〜7秒という即効性があり、喫煙者はこれによって、「喫煙の直後に脳内報酬」を体験する。行動分析学で言えばこれはきわめて強力は行動随伴性ということになるだろう。 しかし、喫煙行動が強化されているというだけでは、依存症を説明したことにはならない。川井先生によれば、この依存は、3つに大別される。
素朴には、ニコチン依存というのは生理学的に説明可能な薬物依存症の一種であると考えてしまいがちであるが、それだけであれば2週間も治療をすればそこから脱却可能であるという。タバコをやめられない真の理由はむしろ、心理的依存に関係している。 心理的依存はさらに、習慣的依存と狭義の心理的依存(認知の歪み)に分けられるが、今回の講演では、習慣的依存についてはあまり説明が無かった。あくまで私の推測になるが、これはおそらく、「唇が寂しい」、「タバコを指ではさんでいないと落ち着かない」といった身体感覚に伴う習慣性、仕事を始める前や休み時間といった時間を弁別刺激として規則的に生じる行動、さらには、同僚や友人どうしで連れだって喫煙所に足を運ぶ、毎日決まった時間に喫煙所で談笑する、仕事を完成したあとに一服しながら休憩する、散歩時の歩行喫煙、自転車を運転しながらの喫煙、運転中の喫煙、...などが挙げられるのではないかと思われる。 大学構内に喫煙所を残すべきか、それとも敷地内全面禁煙を実施するべきかという議論があるが、少なくとも喫煙所を設置している限りは、喫煙者の習慣的依存を改善することは困難であろう。ニコチン依存者のために喫煙所を設置するというのは、アルコール依存者のために、大学構内にアルコール飲料の自販機や酒場を設置するのと同様である。 このほか、非喫煙者にも社会的依存という現象があるという。要するに「喫煙者がイライラしているなら吸わせてあげてもいいじゃないか。」という風潮である。サークルの集合場所などでも、誰かが喫煙していてもそれをとがめようとはしない、職場で喫煙のためにひんぱんに離席する職員があっても容認するといった風潮である。本当に当事者のことを考えるなら禁煙を勧めるべきところだが、せっかくの和やかムードを壊したくないとか、そんなことで関わりたくないといった配慮から、そのまま黙認してしまい、結果的に、習慣的依存を続けさせてしまっているように思う。 |
【思ったこと】 150223(月)タバコがやめられない理由(3)認知の歪み(1) 前回の日記で、タバコを止められない理由には、大きく分けて身体的依存と心理的依存があること、心理的依存はさらに、習慣的依存と認知の歪みに分けられることを記した。 このうち、習慣的依存については、(認知)行動療法、代償行動の強化、行動パターン変更などが有効なセラピーとなるという。 いっぽう、認知の歪み(狭義の心理的依存)というのは、喫煙者が、自分の喫煙行動を正当化しようとして、都合の良い情報だけを受け入れる一方、喫煙に都合の悪い情報を遮断したり一方的に否定したりすることを言う。こうなってくると、喫煙の有害性についていくら筋道立てて説得を続けても、なかなか受け入れてもらえないようになる。有効な方法としては、認知療法、禁煙セラピー、リセット禁煙法などがあるというが、禁煙を達成するのはなかなか厄介であるようだ。 川井先生によれば、代表的な認知の歪みとしては以下の3点がある。
敷地内全面禁煙からまもなく1年が経過する岡大でも、未だに隠れ喫煙をする人、何時間おきかに席を離れて敷地外まで移動して喫煙する人が数十人〜100人前後おられるようである。ニコチン依存がそれほど強くなかった喫煙者、あるいは、セルフコントロールのスキルを身につけている喫煙者の多くは、すでに、(少なくとも勤務時間帯あるいは登校中の)禁煙に踏み切っていることからみて、いま残っている喫煙者たちは、もはや、ポスターやチラシ1枚程度の説得が通じない人たちばかりになっている可能性がある。 巡視員を増員して、敷地内喫煙を徹底的に取り締まれば、とりあえず喫煙行為は減っていくかもしれないが、それでは根本的な解決にはならない。やはり、ニコチンに依存しなくてもドーパミンが適切に放出され、かつ、ストレスを根本的に解決して精神の安定が保てるような、環境作り、体作りを目ざしていくほかはあるまい。 |
【思ったこと】 150224(火)タバコがやめられない理由(4)認知の歪み(2)操られる情報 昨日取り上げた「認知の歪み」は、もっぱら、喫煙者自身に起因したものであった。認知的不協和を回避するために、自分に都合のよい情報のみを利用し、都合の悪い情報には耳を貸さない、というように自ら情報を操作しているのであった。といっても、それが能動的な行動と言えるのかどうかは定かでは無い。実際には「ニコチンモンキーに操られている」、「操られているあなたから、自由なあなたへ」【国立がんセンター】と言うべきであろう。 いずれにせよ、これとは別に、タバコ会社などによってさまざまな情報操作が行われていることにも注意を向けなければならない。 今回の講演では、
このうち1.の「プロダクト・プレイスメント」は、タバコ以外の宣伝でもしばしば使われているように思う。サザエさんのアニメでは東芝の電化製品が描かれていたり(←一社提供でなくなった現在は、それほどではないらしい)、韓流ドラマでスマホの新機種が使われていたり、また、ウィキペディアによると、映画『男はつらいよ』シリーズの中でも、とらやの冷蔵庫に森永マミー、雪印牛乳、ペプシ、サッポロビール、サントリービール、キリンなどが使われていたというが、実際にどこまで意図的に起用されていたのかは不明。 講演では、喫煙シーンが「プロダクト・プレイスメント」であるかどうかは、映像の中で商品名が出ているか出ていないかで区別できるというお話があった。もっとも、日本では、銘柄が何であれ、喫煙シーンを見ることでタバコを吸いたくなるという人がいるなら、それだけでもJTの宣伝になるとは思う。 JTに関してはこのほか、昨年11月18日の日記でも取り上げたことがあった。なお、JTは最近になって飲料製品の製造販売事業からの撤退を表明しており、今後どのような形で好イメージ形成戦略がとられるのかが注目される。 3.に関しては、自分の信念に基づいて喫煙肯定論を唱えているだけであれば御用学者とは言えない。タバコ会社やその関連団体から頻繁に講演料を受け取っているような場合は御用学者と呼ばれても当然となるだろう。 |
【思ったこと】 150225(水)タバコがやめられない理由(5)まとめ 講演会では、このほか、タバコに関するいくつかの俗説やトリックなどの話題も紹介された。 まず、喫煙者のほうが自殺率が低いとか、喫煙していると認知症にならないといった俗説がある。各種データの中で都合の良いものだけを取り出せばそういう主張もできるが、それに反対のデータも多数ある。ここからは私の考えになるが、仮に喫煙者のほうが非喫煙者より平均で10年早く死亡すると仮定すると、そのぶん、高齢になってからの自殺率や認知症になる率は少なくなることはあり得るとは思う。要するに、タバコを吸わなければもっと長生きすることで、そのなかから、自殺したりや認知症になる人たちも出てくるが、高齢にならないうちにタバコを原因とした肺疾患などの病気で死亡すると、相対的にそれ以外の原因による死亡率は低下するというような現象である。【あくまで長谷川の推測】。 次に、喫煙習慣は、実は子どもの習慣であるということ。講演で示された某県のデータによると、喫煙を開始した年齢は、18歳までで50%、20歳までで90%、28歳までで98%などとなっていた。法律上は20歳以下の喫煙は禁止されているのにもかかわらず、喫煙者の多くは、かなり若い時期から喫煙を始めており、そういう意味では、家庭内や中高校での禁煙指導が不可欠となってくる。なお、このことに関連して、「喫煙は大人になってから」という標語ではなく、「子どもの習慣である喫煙をやめて真の大人になりませんか」という標語のほうが実情を反映しているという見方があるようだ。 もう1つ、ニコチン・タールを減量したタバコというのがあるが(かつてのマイルドセブン)、実際の量の調節は成分ではなく、紙巻きの途中の空気穴の数で調整されているとのことである。これは、タバコを機械的に吸引するという測定方法が国際的に決まっており、結果的に、途中の空気穴から漏れ出す分、吸い込まれるニコチン・タール量は減ることになる。しかし、タバコを持つ時に指で押さえれば含有量は増えるし、周囲に居る人たちへの副流煙の影響は全く変わらない。 講演終了後には活発な質疑が行われた。だいたい以下のような内容であった【長谷川の記憶に基づくため不確か】。
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