じぶん更新日記1997年5月6日開設Y.Hasegawa |
970724(木) [心理]クイズの続き さて、企画倒れになってしまったクイズコーナーで出題を予定していた、もうひとつの問題というのは次のとおりである。お暇な方は考えていただきたい。 まず、『頭の体操第2集』(多湖輝、カッパブックス)の問題10を引用する。 二人のけちな酒飲みがいる。形の違うコップが2つだけあり、そのいっぽうに酒がつがれている、この一杯を、2人で分けて飲もうということになったが、両方から絶対に文句の出ないように酒を分けるにはどうすればよいか。元の問題には何も書かれていないが、この問題を解くには次のような暗黙の了解がある。
で、この答えは次のように記されている(ここをマウスでなぞれば読めるはずです) まず、1人が、自分をどっちをとっても文句がないと思うまで、じっくりと酒を2つに分ける。つぎに、もう1人が、その2つのうち、自分のほしいと思うほうを1つ選ぶ。そして残ったほうを、はじめの男がとれば、両方から文句の出るはずがない。これをもとに私が考えた問題は次の2つである(但し2番目のほうは、自分でも完全な正解を出していない)。
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970803(日) [心理]文句が出るとはどういうことか(7/24出題のクイズの答え、その1) きょうは、7/24に「出題」したクイズのうち、第一問目について、説明させていただきたいと思う。その前に、そもそも「文句が出る」とは、どういうことなのか、ちょっと考えてみたいと思う。 ひとくちに「文句」と言っても、わがままに基づく「文句」、不公正に対する「文句」、権利侵害の「文句」など、いろいろな種類があるが、元の問題では、おそらく、次の2つの権利が侵害されないことが、文句の出ない必要十分条件であろうかと思う。
さて、第一問に話題を移そう。畑を分割するということが、上に述べた「分割権」、「選択権」、それと元の問題では考慮する必要のなかった「自分の手で分割する権利」を侵害しないか、一方の権利喪失を他方の権利行使で100%補えるとするならば、同じ方法を実行すればよいだろう。もし、何らかの文句が出るとしたら、どちらに「分割権」を与えるか、つまり「自分の手で分割する権利」の喪失が「選択権」行使で補いきれない場合があるということを意味する。 ここで、考えられそうなのが、畑の形、地形、水利など、お酒では考える必要のなかった別の要因である。 例えば、畑全体の形が、こういう形をしていたとする。そして、Aさんは、大型のトラクターだけを持っていて、なるべく長方形の土地を手に入れたいと考えていたとする。一方Bさんは、小回りのきく小型のトラクターだけを持っていたとする。こういう場合、もしBさんが分割権を手に入れたとすれば、Aさんの弱みにつけこんで、この図形の土地に水平線を引いて、上下に分割。そのさい下半分の長方形部分を相当少な目に分けることができる。Aさんは、長方形の畑でないとトラクターが使えないので、泣く泣く、図の“Y”の部分を選択する。この場合、「分割権」を侵害されたことに文句を言うだろう。もちろんAさんに「分割権」が与えられた場合でも、BさんにYを選ばれたら困るので、上半分の面積が多少広くなるような分け方をして、BさんがXのほうを選ぶように仕向けることは確かであろう。しかし、Bさんほど露骨に差を付けることはないだろう。Bさんは、もともと少しでも広い土地が欲しいから、ちょっとでもXのほうが広ければそちらを選ぶはずである。 上に述べたケースは、土地の形の問題であったが、畑全体が山の斜面などにあって、低い土地が田んぼに適している場合なども、上と同じような「分割権」侵害の問題が起こりうる。例えば、Aさんは、稲作専業農家、Bさんは稲作と酪農の兼業農家であったとする。この場合も、Bさんが「分割権」を得れば、稲作しかできないAさんの弱みにつけ込んで、低い土地が極端に狭いような分割をすることができる。 要するに、「分割権」と「選択権」が相互に、補完相殺しあう権利であり、当事者のいずれに分割権を与えても問題が生じないような場合では、元の問題の方法が有効である。お酒のように、分割が量の操作しかできない場合がこれに相当する。 それ以外の場合では、相手の弱みにつけこんで「自分の手で分割する権利」を行使すると不公平が生じる恐れがあるので、この方法だけでは文句が出る恐れがある。こんな例も思い浮かぶ。 2つの民族が紛争回避のために領土を分割するような場合でも、残念ながら元の問題の分割法だけでは紛争解消にはつながらない。一方が遊牧民で他方が農耕民であるとか、隣の国に同一民族がたくさん住んでいて交流をする必要があるという場合などが、複雑な要因が絡むからである。ほかにどんなケースがあるだろうか。よい例がみつかったら、長谷川までお知らせください。 |
970804(月) [心理]n人で文句が出ないように分ける方法(7/24出題のクイズの答え、その2) きょうは、2番目の問題: n人(n≧3)がn個のコップを使って酒を分ける場合にも、絶対に文句が出ないような方法はあるだろうか。について説明させていただく。これについては、稀Jrさんのお答えが、まことに簡潔で的確なものだったので、まずは、そのまま引用させていただく。 方法は、この方法は、適当な順に「分割権」を与えられた者(合計n-1人)に残ったコップを取らせるという操作を繰り返すことによって、最後は2人まで減らしていくという、数学的帰納法的な拡張を行ったものである。 この「稀Jr法」は完璧と言えるだろうか。お酒を分けるメンバー全員が独立的に最大量のお酒の獲得を目ざしている限りはたぶん完璧だろう。しかし、中に派閥があれば、上記2.の段階で多少のズルをすることができるかもしれない。 まあ、「世の中に、派閥の種はつきまじ」ということだろう。こういうトラブルを解消するには、 こんな事後交渉をすれば、派閥があっても文句が出ることはないだろう。但し、無限ループに陥る可能性がないとは言えない。 派閥がなかった場合でも、「稀Jr法」は、非常に時間がかかる。そこで、例えばビールを分ける場合であったら、分割を繰り返す中で、生ぬるく気が抜けたビールへと変化していくだろう。こういう場合は、先に抜け出すものほど美味しいビールを飲めるという不公平が生じるだろう。 では、もっと時間を短縮する方法はないだろうか。上にも述べたように、各自がいったんお酒を手にした段階で、自分のコップの量に不平がなく、かつ誰からも「多すぎる」という文句をつけられない人は、直ちに抜け出してよいだろう。これで、繰り返しの回数を大幅に短縮できる可能性がある。 「稀Jr法」と全く異なる正解があるのかどうか、私にはわからない。急に思いついたという方があれば、ぜひ長谷川までお知らせください。 |
970805(火) [心理]文句を出させない工夫(7/24出題のクイズの発展) 8/3と8/4の日記では、ゼッタイに文句が出ないようにお酒を分ける方法について考察した。こういう方法は、机上の空論、あるいは、理屈をこねるお遊びだと思われたかもしれない。しかし、集団で生活する限り、文句のタネは尽きないものだ。そこでヒトは、文句が起こりにくくなるようなさまざまな方法を考案してきた。きょうは、これについて考えてみたい。
じつは、民主主義も活用の仕方を誤ると、単なる「文句を言わせないための道具」に陥ってしまう。ほんらい民主主義は、全員が参加して知恵を出し合い、少数意見も尊重しながら最良の解決の道を探っていることにある。そのプロセスを無視して決定ばかりを急ぐと、「多数決」が横行することになる。独裁者が決定したことには文句を言えるが、「多数決には従え」という主張に対しては文句を言いにくい。【だから、ずるがしこい独裁者は、自分では決定を下さない。議会を巧妙に操って、「多数決で決まったことを尊重する」という形で思い通りの政治をする。】 民主主義の中でも特に議会制民主主義は「文句を言わせない道具」として活用されやすい。世論調査では賛成が40%、反対が30%、棄権が30%というように意見が激しく対立している議案があったとする。これを国民投票で決すると、4割が賛成するかもしれないが、圧倒的支持を集めたとは言いにくいので文句が出やすい。ところが、小選挙区制だけで議員を選ぶようにすれば、支持率40%の(この議案に賛成している)政党は8割の議席を占めることが可能である。そこで、国民投票ではなくて議会で多数決を行えば、「圧倒的多数」で可決されたことになり、文句が出にくくなる。 もっとも、こういう制度は、いちがいに悪いとは言えない。特に、世論の形成が未成熟な社会では、目先の利益ばかりを優先した政策、あるいは八方美人的な人気取り政策が多数の支持を集めやすい。長期的視点に立った政策を実行するには、ある程度の我慢も必要である。こういう時、文句ばかり噴出して何も決められずに時機を逸するよりは、「文句を言わせないための制度」を最大限に活用して押し切ってしまったほうが、よい結果をもたらすこともある。とはいえ、これは、独裁国家にも道を開く危険な制度である。だからこそ、徹底した情報公開と自由な言論活動、それと構成員全員の主体的な関与が必要になってくるのである。 |
この連載は、さらに続きます。 |