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Third International ABA Conference: Beijing, China


2005年11月25日(土)〜27日(月)
場所:Kerry Centre Hotel in Beijing

目次
  1. (1)とりあえずの帰国報告
  2. (2)Opening Reception
  3. (3)マロット氏と佐藤方哉氏の講演
  4. (4)Achieving the positive life through negative reinforcement.
  5. (5)Understanding Cultural Change.
  6. (6)The Economics of Choice
  7. (7)スキナーの娘婿さんの発表.

【思ったこと】
_51128(月)[旅行]国際行動分析学会北京大会(1)とりあえずの帰国報告

 Third International ABA Conference: Beijing, China(11/25〜11/27)に参加のため北京に行ってきた。

 北京に滞在するのは今回が4回目となるが、過去3回は、パミール横断旅行東チベット縦断厳冬のタクラマカンと南新疆、というように、いずれも観光ツアーの帰りに帰国の都合で立ち寄っただけであり、市内のホテルの3泊して個人で歩き回るというのは今回が初めてであった。

 北京は、とにかく、来るたびに高層ビルが増えていて、その発展ぶりに驚かされる。岡山に戻った時は、「岡山はやっぱり田舎だなあ」というコントラストを強く感じた。

 滞在中のホテルでは、NHKのワールド、BS1、BS2が常時視聴できた。ちょうど、マンションやホテルの耐震強度偽装問題がトップニュースで伝えられている時期でもあり、滞在先のホテル(7階)の耐震性が少々気になったが、北京では震度5強の地震は滅多に起こらないのだろう。

 北京と関空の所要時間は3時間程度(行きは3時間20分、帰りは2時間40分)であり、搭乗時間自体は北海道や沖縄に行くのと大して変わらない。しかし、空港までの移動、空港での待ち合わせ、チェックインや出入国手続の際の行列などを含めると、3倍近い時間がかかってしまう。28日の帰国時も、11時に北京のホテルを出て岡山駅に戻ったのは20時15分であった。やはり、海外はくたびれる。


【思ったこと】
_51129(火)[心理]国際行動分析学会北京大会(2)Opening Reception

 Third International ABA Conference: Beijing, Chinaにも説明されているように、今回の会議は
The Association for Behavior Analysis International (ABA), in conjunction with the LiYuan Hospital of the Tongji School of Medicine, Hua Zhong University of Science & Technology, is proud to co-sponsor ABA’s 3rd international conference in Beijing, China.
という形で開催された。そのこともあって、25日夕刻のOpening Receptionには100〜200人規模の参加者があったように見えたが、26日以降になると、各発表会場の人数は10〜20人規模に大幅に減少した。私が参加したセッションに限って言えば、参加者はほぼ全員が外国人ばかり(おおむね、米国、中南米、日本人)で、中国人の研究者の姿は殆ど見かけなかった。おそらく、自閉症関係のシンポのほうに集中してしまったものと思う。基礎的、理論的領域のほうに参加が少なかったのはまことに残念であった。

 この種の国際会議というのは、重大な発見を初めて公式に披露するというより、著名な研究者と直に接して、コミュニケーションをはかることに意義があるようだ。発表内容は玉石混淆というか、最新の研究成果をコンパクトにまとめた発表もあれば、単に自分のアイデアを披露しただけのもの、さらには、自分では殆ど喋らず、BGMつきのパワーポイントでイラストや写真を呈示するディック・マロット先生のような発表もあった。

【思ったこと】
_51130(火)[心理]国際行動分析学会北京大会(3)マロット氏と佐藤方哉氏の講演

 この会議に出発してから早くも一週間が経過しようとしている。今回はノートパソコンを持参しなかったため、参加の感想を当日夜にまとめておくことができなかった。記憶が失われないうちに、印象に残ったことを早めに書き留めておくことにしたい。


 11月26日の朝には
●Cultural Versus Biological Determinism というPaper Sessionがあった。話題提供は
  • Are Women, People of Color, Asian’s, and Southern European’s Inherently Inferior to the Rest of Us? (Theory). Dr. RICHARD W. MALOTT (Western Michigan University)
  • East is East, West is West: A Behavior Analysis of Cultural Difference (Theory). Dr. MASAYA SATO (Teikyo University)
という2題であった。

 9時台に時間が空いていたので、早めに会場に座っていると、まず、マロット先生(RICHARD W. MALOTT、通称“Dick Malott”)がノートパソコンの設定にやってきた。しばらくすると、Executive Director/Secretary Treasurerをつとめておられる、Maria E. Malott先生が入ってきて、設営の様子を尋ねていた。このお二人はだいぶ前に離婚されたと伺っていたが、別に喧嘩しているようにも見えなかった。アメリカでは個々人の自主独立の生活が原則、日本みたいに、離婚したら口をきかないというような険悪な状態にはならないようである。私が聞き取ったお二人のフレンドリーな会話の中味については、個人情報に関わることなのでここでは記さない。

 いつもそうだが、マロット先生の話題提供は、パワーポイントによるイラスト・写真つき、BGMつきののプレゼンに終始する。発表時間中、自らが口を開くことは殆ど無い。内容は、2000年12月のInternational Congress on Behaviorism and the Science of Behaviorの時の話題提供とさほど変わらないという印象を受けた。

 マロット先生は、私と同様、写真好きで知られている。話題提供が始まる前の時間に、いくつかの写真をスライドショーで披露していただいたが、どうやら前々日あたりから北京に来られていて、一人で自転車に乗ったり、案内板やトイレの便器の写真を撮ったり(←以前、トイレで、便器の写真を撮っておられるところを目撃したことがあるが、何かの研究テーマにしておられるらしい)、いろんな体験をしておられたようだ。




 マロット先生に続いて、佐藤方哉先生の、“East is East, West is West: A Behavior Analysis of Cultural Difference”という話題提供があった。こちらも、何となく、2000年の国際会議の時と似ているとの印象を受けたが、新たな視点として、

木を見る西洋人 森を見る東洋人思考の違いはいかにして生まれるか

が引用されていた。この本が刊行されたのは2003年(訳本は2004年)であったから、2000年のご発表内容に新しい視点が入っていたことは間違いない。おや、この本の訳者が村本由紀子さんだとは今まで気づかなかった。

 ちなみに、「木を見る、森を見る」という視点の違いは、個人主義的人間観と関係性重視の人間観の違いにもつながる。このあたりのことは、昼食時に、佐藤先生にも直接お伺いしてみたところであるが、私信の範疇なのでここでは記さないでおく。


【思ったこと】
_51201(火)[心理]国際行動分析学会北京大会(4)Achieving the positive life through negative reinforcement.

 11月26日のDick Malott先生の話題提供のあと、

●Notes from an introspective behaviorist: Achieving the positive life through negative reinforcement. Journal of Organizational Behavior Management, 2005, 24, 75-112.

という論文の別刷を頂戴した。

 Dick Malott先生は、「好子消失阻止の随伴性」つまり「○○をしなければ△△を失う」というルールで自分自身の行動を管理し、それによって生産的に仕事を続けておられる。しかし、こういうパフォーマンスマネジメントでは、働き過ぎとなり体をこわす恐れがある。これに対しては、義務的な統制は排除して、自然に伴う結果(natural contingencies、行動内在的強化随伴性とほぼ同義)だけで行動が強化されるような生活をしていったほうがpositiveな生活が実現できるという立場もある。これらについてのintrospectiveな考察をしたのがこの論文であったが、なかなか興味深い。

 もっとも、どっちがpositiveかを判断する絶対的な基準は無い。その人の年齢、仕事の内容、収入などによってどちらもアリということになるだろう。私の場合は、日々、締切に追われているので、好むと好まざるに関わらず、義務的な行動にあけくれているが。




 26日は、午前中もう1件発表を拝聴したあと昼食、そのあとは、連名口答発表があった。私たちの発表の時間帯には7つの会場が同時進行となっており、しかもそのうちの1つは

●Behavior Analysis Around the World

という大規模はInvited Symposiumであった。そんなこともあって、ひょっとすると誰も聴衆が来ないのではないかと危惧されたが、どういう経緯か、上記のシンポが予定時刻より1時間も早く終了したとかいうことで、私たちの会場のほうに、著名な研究者がぞろぞろと移動して来られた。ま、そんな状況ではあったが、筆頭発表者は上手に喋ってくれて、質問や意見も複数いただくことができた。




 その後16時半まで2セッションの発表を聴講したが、早口の英語で喋りっぱなしという発表は聴き取るのが精一杯で、メモをとる余裕がなかった。
【思ったこと】
_51204(火)[心理]国際行動分析学会北京大会(5)Understanding Cultural Change

 最終日27日の朝は、まず、

●Understanding Cultural Change
Chair: DR. Maria E. Malott (Association for Behavior Analysis)

Cultural Behavior, Cultural Practices and Cultural Groups. DR. LINDA J. HAYES (University of Nevada, Reno)

The Selection of Cultures: A Behavioral Approach to Complex Social Systems. DR. INGUN SANDAKER (Akershus University College)

Laws and Contingencies: Changing Cultural Practices. DR. JOAO CLAUDIO TODOROV (Universidade Catolica de Goias)
というシンポに参加した。お目当ては、LINDA J. HAYES氏とJOAO CLAUDIO TODOROV氏のお話をぜひとも拝聴したいと思ったからである。

 Hayes(LINDA J. HAYES)と言えば、ABAのPast Presidentとして知られているほか、これまでにも数々の論文を拝見したことがあるが、直接お話しを伺うのは今回が初めてであった。ノートパソコンを操作しておられたので、パワーポイントを使うのかと思ったが、画面を早口で読み上げるだけとなった。

 ブラジルのTodorov先生のほうは、私がかつて、ハトを被験体として卒論研究をやった時に、最も中心的に引用した論文を執筆された方である。私が卒論を出したのは1975年、そのころのTodorov先生はまだ若手で売り出し中の研究者であったようだが、30年経って、高い地位についてご活躍の様子がうかがえた。

 私自身もヘタな英語でひとこと発言をさせていただこうかと思っていたところであったが、Todorov先生の講演がギリギリまで長引いたため、質疑無しで終了。これに限らず、この国際会議では、50分程度で終了となるセッションが多く、私が参加したところではあまり活発な質疑に至る機会が与えられなかった。

【思ったこと】
_51206(火)[心理]国際行動分析学会北京大会(6)The Economics of Choice.

 最終日27日の朝、2番目のセッションとして

●The Economics of Choice: A Simplified Model of Demand and Human Polydrug Self-Administration
  • Chair: Dr. Ralph Spiga (Temple University School of Medicine)
  • Discussant: Dr. Michael Davison (University of Auckland)
  • A Behavioral Economic Analysis of Human Polydrug Self-Administration. Dr. RALPH SPIGA (Temple University School of Medicine)
  • Consumer Demand: A Simplified Model. Dr. STEVEN R. HURSH (Johns Hopkins Department of Experimental Biology)


に参加した。じつは、今回の国際学会で拝聴した発表の中では、このセッションが一番、研究発表の紹介らしい内容となっており、かつ分かりやすかった。この領域の論文をいくつか読んでいたことも理解の助けになっていたようだ。

 演題は、薬物依存における入手行動の特徴と、その治療・改善の取り組みについての紹介であったが、興味深かったのはvalueをどう分類し、どのように測るかという部分である。薬物ばかりでなく、一般的な商品の購入行動にもあてはまりそうな話題であった。

 Spica氏の発表の終わりのほうで、essential valueについて、いくつかのキークエスチョンが提示されていたので、備忘録がわりにここに記しておきたい。
  • What is most important to you?
  • What do you consider non-essential?
  • What makes a difference to you?
  • What will motivate hard work and sacrifice?
  • What do you value?
単に主観的感想として答えるのなら容易だが、科学研究の対象とするからには、これらの問いに対して、どういう数量モデルを作るかが大切であるという結論であった。

【思ったこと】
_51208(木)[心理]国際行動分析学会北京大会(7)スキナーの娘婿さんの発表

 27日のセッションの中で印象に残った話題提供としては、他に、

●# 60 Paper Session
The Triad Model of Education and Instructional Engineering.
Dr. ERNEST A. VARGAS (B. F. Skinner Foundation)

この、ERNEST A. VARGASは、スキナーの娘婿にあたる方である。ちなみに、奥さん、つまりスキナーの娘にあたるJULIE VARGASさんは、26日朝に

●# 2 Invited Event English/Manda
Opening Event: B. F. Skinner’s Scientific Discoveries and Their Technological Derivations
Dr. JULIE VARGAS (B. F. Skinner Foundation)
Dr. Julie Vargas’s presentation describes B. F. Skinner’s childhood and touches briefly on his discovery of operant conditioning with its distinctive features. The talk gives an overview of applications derived from the science along with a couple of examples. Skinner’s humanitarian concerns will end the presentation.
というスピーチをされている。

[今日の写真]  もとのERNEST A. VARGAS氏の講演のほうだが、予定時刻になってもなかなか始まらない。奥さんのJulieさんと、ノートパソコンの前で何やら奮闘されているものの、パワーポイントのスライドがビデオプロジェクターでうまく映せない模様であった。

 そのうち、Vargas氏は、操作を諦め、「昨今の科学技術の発展は目覚ましいものです。このプロジェクターは旧式であったため、ノートパソコンの画像信号を伝えることができませんでした。影絵でもやりましょうか。」などとジョークを飛ばし、それから、何も原稿を見ずに50分近く喋りまくった。

 講演の趣旨は何とか理解できたものの、スライド無しはやはり辛い。後で聞いた話だが、Vargas氏が持参した最新のMacは、デジタル映像信号端子しか無いとのことであった。いっぽう、ビデオプロジェクターのほうは、アナログ端子しかない。従来、デジ・アナ変換器を介することでこの問題は解決していたのだが、最新のMacでは、双方向の信号が入らないと映像を送ることができないらしい。専門的なことはわからないが、とにかく、Macを持参してプレゼンをされる方はご留意されたい。

 さて、この国際会議が開催された11月25日(金)から早くも2週間が過ぎてしまった。何かの学会やシンポに参加した時の感想は、なるべく1週間以内、遅くても2週間以内に日記に記すという原則を守ろうとしているのだが、なかなか時間がとれない。中途半端ながら、今回も本日をもって最終回とさせていただく。