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日本心理学会創立80周年記念講演2006年10月1日(日) 場所:東京・赤坂プリンスホテル |
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【思ったこと】 _61010(火)[心理]日本心理学会創立80周年記念講演(1) 10月1日(日)の13時30分から、東京の赤坂プリンスホテルで表記の講演会があった。講演者は
ところで、この80周年だが、こちらの沿革に「日本心理学会は、心理学の進歩普及を図ることを目的として1927年(昭和2年)4月7日に創立された」と記されているとおり、これはあくまで心理学会の創立から80周年という意味。 日本における心理学研究の歴史はもう少し古く、西周が1875年から1876年にかけて日本で最初に「心理学」というタイトルの本を訳出したことがルーツとされているようだ。このあたりの話題は文学部公開講座(1998年10月9日、こちらに概要あり)や、日本理論心理学会第50回大会シンポジウム:日本発の理論を考える(こちらに感想あり)で取り上げたことがあった。 ついでながら、学界では、日本心理学会は「The Japanese Psycological Association」の頭文字をとって「JPA」と略されることが多いが、ウィキペディアによれば、「JPA」という略称は他にも
今回の講演は、心理学研究の歴史ではなく、御両名とも組織、事業に関する内容であった。特にOvermier氏の講演では心理職の資格問題についても詳しく取り上げられていた。 ちなみにこの資格問題は、心理学関連学界ではいまホットな話題の1つとなっている。来月の日本心理学会第70回大会では 心理学界が目指すべき資格制度のあり方−心理職の国資格化をめぐって− という特別シンポジウムが行われるほか、この日記でも何度か取り上げた全心協(ぜんしんきょう)の「医療心理師」国家資格化に向けた活動がある。また10月27〜28日に姫路で開催される第42回 日本臨床心理学会大会でも、1日目午後に ●国家資格について という総合討議が行われる予定であるという。 なお、資格問題についての私の考えは、こちらや、こちらのFAQのほか、私設サイト連載にも詳しく述べてある。ご参考にしていただければ幸いです。 さて、第一講演者のOvermier氏はSeligmanらとともに「Learned Helplesness」の研究者の一人として知られる。私自身の手持ちの文献コピーの中には他に
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【思ったこと】 _61011(水)[心理]日本心理学会創立80周年記念講演(2)日本と米国の心理学会 昨日の日記で書き忘れたが、Overmier氏の講演に先立って、織田理事長から簡単な挨拶があった。その中でもふれられたことだが、米国や中国の心理学会はアンブレラ方式をとっているという。これは中心となる総合学会があり、分野別学会や地域学会を、同じ傘(アンブレラ)の中におさめて密接なつながりを持たせていくという方式である。 心理学関係者にはよく知られているように、米国にはthe American Psychological Association (APA) という巨大な連合組織がある。こちらの紹介によれば、 Based in Washington, DC, the American Psychological Association (APA) is a scientific and professional organization that represents psychology in the United States. With 150,000 members, APA is the largest association of psychologists worldwide.となっている。 いっぽう日本心理学会のほうは、こちらの紹介によれば、 日本心理学会は、心理学の進歩普及を図ることを目的として1927年(昭和2年)4月7日に創立された、全国規模の心理学の総合学会では最も歴史のある学会です。基礎領域から応用領域まで広い専門領域にわたった会員を擁し、一貫して日本の心理学の発展に貢献してきました。任意団体でしたが1994年(平成6年)9月20日には、文部省から社団法人認可を受けました。 2006年4月末現在の正会員は、7,079名となっています。となっている。これらをよく読むと
もう1つ、これも書き忘れたが、臨床心理士資格認定で知られている日本心理臨床学会でも10月9日に東大・安田講堂で ●心理専門職に関する国際シンポジウム〜国家資格化をめぐって〜 という大規模なシンポが開催された模様である。このシンポの後援団体には日本心理学諸学会連合が加わっており、森正・日本心理学諸学会連合理事長の挨拶が含まれていた。ちなみに、この国際シンポは「ヨーロッパ各国からのスピーカーを招き」となっており米国は含まれていない。また参加申込み資格が ●日本心理臨床学会員及び後援団体会員 となっていることから、非会員である私は参加することができなかった。ちなみにこの日本心理臨床学会は、こちらには 日本心理臨床学会は、昭和57年、「心理臨床の業務にたずさわるもの相互の連携協力によって心理臨床科学の進歩と、会員の資質向上、身分の安定をはかる」ことを目的として設立されました。平成18年4月現在の会員数は正会員12,022名、準会員5,537名の計17,559名であり、日本の心理学界では最大の会員数を持つ学会です。と紹介されている。日本心理学会を遙かに凌ぐ会員数を誇っていることが分かる。 日本でなぜAPAのようなアンブレラ方式が成立しなかったのか、このあたりの経緯はよく分からない。上にもちょっと触れた日本心理学諸学会連合というのがあると言えばあるが、独自の個人会員を擁しているわけでもないし、APAのような学会誌を出しているわけでもない。理事長の挨拶を拝見しても 連合としては、今後も心理学(界)の調和ある発展に必要と思われる施策を検討・実行し、社会のお役に立てる心理学(界)を目指して努力を重ねていく所存です。というように、「調和ある発展」を目ざすという控えめな表現にとどまっているようだ。もっとも加盟学会は40学会にのぼっている(こちらに詳細あり)。それぞれの学会の年次大会にすべて参加すると、各大会の期間を平均2.5日間として、年間100日間も大会が開かれていることになるわけだから、これは相当なものだ。 |
【思ったこと】 _61012(木)[心理]日本心理学会創立80周年記念講演(3)心理学専門家のTraining Models だいぶ脱線してしまったが、いよいよ、Overmier氏の講演についての感想。 Overmier氏によれば、心理学関連の専門家を養成する時の考え方としては、スキルの修得を重視したモデルがある一方、Boulder Model(Scientist-Practisioner Model:科学者実践家モデル)という考え方がある。そのどちらを採用するのかは、国によっても、米国内の州によってもマチマチであるが、米国内では後者の考え方のほうが優勢であるようだ。前者の場合は、あらかじめ定められたカリキュラムに基づいてトレーニングを受け、さらにスーパーバイザーのもとでの一定期間の実践経験や国家試験などを受けて資格を取得するというのが一般的であろう。いっぽう、後者の場合は、とにかく、大学院に進学し、修士号や博士号の学位をとった上で実践家として活躍することになる。Boulder Modelの紹介の中で、「JAPAN: adopted in 1966」というような文字があったのでおやっ?と思ったが、これは、1996年に「Hiroshi Imada氏によって初めて日本で紹介された」という意味であったようだ(但し通訳では今田先生のお名前は挙げられていなかった。関連記事がこちらにあり)。 講演では、Boulderモデルのほか、
Overmier氏は、資格制度の導入にあたっては
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【思ったこと】 _61013(金)[心理]日本心理学会創立80周年記念講演(4)心理学会の予算規模 Overmier氏の講演の感想2回目。 講演の後半ではAPAの活動の紹介、心理学の社会的貢献などについてのお話があった。 まず、APAの規模であるが
にも関わらず、APAの会費はおおよそ275ドルにすぎない。これに会員数15万人をかけると4125万ドルであるから、予算額の40%程度、もっとも、学生割引や未納分を考慮したのだろうか、講演では、会費収入は予算額の20%未満であると言っておられた。これは要するに、APAの活動が多岐にわたり、莫大な事業収入を挙げていることを意味している。 このことに関連して、わが社団法人日本心理学会の予算規模を調べてみた。これらはネットで簡単に検索でき、こちらに公開されていることが分かった。それによれば平成18年度の場合、会費による収入は7330万円、事業収入は1億5500万円、当期収入合計は2億3500万円余、繰越を含めた収入合計は4億8100万円余りとなっている。1ドル120円とした時のAPAの予算規模は120億円であるから、日本のほうが桁違いに少ないことが分かる。 なお、社団法人日本心理学会の事業収入1億5500万円のうち、認定心理士資格審査・認定料収入が1億1200万円にのぼっており、当期収入全体2億3500万円の約半分を占めているということには留意しておく必要があるだろう。これまで述べたことにも関連するのだが、学会認定資格というのは、それがある程度認知され、申請者が増えた時には、かなりの収入源になるということだ。少し前にも、正体不明の団体が、ネット上で某心理士資格認定の宣伝をしているのが目に留まったが、いわゆる「サムライ商法」の餌食にならぬよう十分な注意が必要である。 ちなみに、日本心理学会の資格認定業務費としては8000万円が計上されている。収入が1億1200万円であるとすると3200万円が純益ということになる。 余談だが、同じ支出の部には創立80周年記念事業経費として500万円が計上されていた。そうか、今回の講演会が高級ホテルで行われ、(私はさっさと帰ってしまったが)記念式典パーティの参加費も含めて参加費無料ということを耳にした時、いったいどこからお金が出ているのかと思っていたが、ちゃんと予算が計上されていたのね。 |
【思ったこと】 _61014(土)[心理]日本心理学会創立80周年記念講演(5)心理学の社会貢献/心理学関連資格のこれから Overmier氏の講演の感想3回目。 講演の後半では、APAの社会的貢献についてのお話があった。すなわち、「Promoting Psychological Knowledge fot the Advancement of Public Welfare」。具体的内容は
講演の最終結論としては
統一基礎資格は「教育の質保証」、また、学歴の弊害を取り除く(=資格さえとれば、どの大学を卒業していても待遇や昇進で不利な扱いを受けない)という点ではメリットがある。その反面、統一カリキュラムに拘束されることによって、ユニークな教育が行いにくくなるというデメリットがある。専門技術の修得だけを目ざすならばマニュアル教育で事足りるが、心理学教育はそれでよいのかという別の問題がありそうだ。 また、産業界からは資格取得の要請が強いと言われるが、これって、けっきょくは、オンリーワンの価値や能力ではなく、胸につけている勲章の数や種類で人を評価してしまうことにはつながらないだろうか。いっぽう、主体的・能動的な勉学に取り組むことが苦手で、かつオンリーワンに自信がない学生ほど、マニュアル型の努力で勲章(=資格)の数を増やすことに専念しようとする。そりゃ何もせずに目先の快感を追い求める人生に比べれば、種々の資格取得に向けて日々向上をめざすほうがいいには決まっているが、世の中、マニュアル的対応だけではやっていけない。資格が1つもなくても「私自身という存在とポートフォリオ」だけを携えて自分を売り込めるような人生をめざしたいものである。 資格問題については10月下旬から11月上旬にかけても複数のシンポが予定されているので、できる限り参加したいと思っている。 |
【思ったこと】 _61015(日)[心理]日本心理学会創立80周年記念講演(6)中国の心理学 講演の2番目は、張 侃氏(中国心理学会会長、中国科学院教授)による ●中国的心理与中国心理学会 という内容であった。 余談だが、日本には「中国銀行」、「中国新聞」、というように、中国地方に由来する固有名詞がたくさんあるが、心理学会に関しても「中四国心理学会」というのがあり、ネットで検索すると、第62回大会の御案内(11月25〜26日)というのが掲載されていた。私自身はかつて岡山大学が当番校になった時にお手伝いをしたことがあったが、入会しておらず、どういう活動が行われているのかは全く知らない。 さて、中国のほうの心理学であるが、張氏はまず、孔子や孟子の像を映し、中国では古くから人間の心の問題について知見が蓄積されていることを指摘された。しかし、科学としての心理学が初めて紹介されたのは19世紀の終わり頃のことであった。 興味深いのは、中国語では当初、「Psychology」のことを「心霊学」と訳していたことである。スライドによれば、1875年4月に日本で文部省発行の『心理学』という書籍が刊行されたのに対して、1889年に刊行された中国語の書籍のタイトルは『心霊学』となっていた。その後「心理学」という名称が広く使われるようになったのは日本の影響によるものらしい。ちなみに、日本では当初、「性理学」という呼称も使われていた。ウィキペディアには、日本最初の心理学者である元良勇次郎は、同志社英学校で「性理学」の授業を受けたと記されている。「心理学」という訳語を発明したのは、西周。 さて、今回の講演で興味深かったのは、中国における近代心理学の歴史を
現在の中国心理学会の部門は
私が聴き取った範囲では、中国心理学会は日本心理学とほぼ同規模。といっても日本の10倍の人口があるのだから、今後はもっと大きくなることだろう。そういえば昨年11月にも北京で国際行動分析学会北京大会が開催されたばかりであった。 講演の最後のところで、日本発の心理学の中で、中国の心理学に大いに貢献する領域として「森田療法」と「箱庭療法」が挙げられたが、うーむ、これはちょっとガッカリした。もっともそれ以外の心理学を学ぶのであれば、有能な研究者はたぶん米国に留学するにちがいない。けっきょく、日本の心理学の大部分は米国依存であるという表れと言うべきだろうか。 中国の心理学研究が今後どのような方向に進むか分からないが、当分は、日本と同様、米国発の心理学理論の「輸入」が中心となるのであろう。しかしいずれは、孔子や孟子、さらには朱子学や陽明学などを含めた東洋的発想に基づく心理学を発展させる力も生まれてくるであろう。高齢者福祉関連の研究ではしばしば「全人的」という言葉が使われるが、もともと人間の行動は全人的に研究されなければならず、そこでは、西洋医学よりは東洋医学の発想のほうが有効である場合が少なくないからである。 |