インデックスへ |
日本行動分析学会第25回年次大会2007年8月4日(土)〜5日(日) 立教大学・新座キャンパス |
|
【思ったこと】 _70806(月)[心理]日本行動分析学会第25回年次大会(1)全体的な特徴 日本行動分析学会第25回年次大会に参加感想の実質1回目。 この学会の大会は、毎年、2日間+1日(公開行事)という日程で行われることが慣例化している。しかし年度によって、プログラムの内容はかなり違っている。今回の場合は、個人発表は午前9時20分から10時50分までの時間帯に設定されたポスター発表のみとし、11時から17時の時間帯は、特別講演、招待講演、シンポジウム等に充てたところに特徴があった。 個人発表をポスター発表化してしまうという方針は、私が実行委員長を務めた2003年・岡山大会の時と同様である。しかしその後の2004年〜2006年大会では、再び、口頭発表が復活していた。ポスター主体と、口頭発表重視のどちらが良いかということは、大会の規模、発表者の数、予算などに依存する部分が多く、一概には決められない。参加者が数千人規模の学会となると、もはや口頭発表の会場と時間を保証することが困難になる。日本心理学会などの大規模大会では、だいぶ前から個人発表はすべてポスターで行われているようだ。 さて、今回の大会では、講演者として、メリーランド大学のCatania(カタニア)先生が招待されていた。Catania先生が来られるという話を聞いた時にまず驚いたのは、いったい、おいくつになられているのだろう、ということであった。 右の表は、私が1975年度に提出した卒業論文の引用文献表の一部であるが、その中にはすでに、Catania先生の1963年の論文が引用されている。1963年刊行というと、今から44年前。この時すでに注目を浴びるような論文を多数発表されておられたというのは、今から考えると驚きである。今回の招待講演では、今なお、Operant Reserveの概念を復興させた新しいモデル作りに取り組んでおられるということであり、行動レベルでは40〜50歳代の若々しさを感じさせてくれた。 そのほか、発達障害支援に関わる個人発表やシンポが多かった反面、他の心理学会に比べると、高齢者支援、環境問題、リスク管理などに関する発表はあまり見当たらなかった、という特徴があったようにも感じられた。また、基礎的実験研究の比率もかなり減っており、「日本行動分析学会」ではなく「日本応用行動分析学会」ではないかと、という皮肉も聞かれるほどであった。 こうした背景には、全国の大学における心理学関連の教育・研究組織が、かつての「心理学専攻」、「心理学科」といった包括的な名称から、臨床心理学主体、社会心理学主体、自然科学的方法と融合した認知心理学、...というように改組されつつあり、その中で、行動分析学が、発達障害支援に活躍と貢献の場を確保しているという事情があるのではないかと思ってみたりする。 今回たびたび言及された「ADHD」(注意欠陥・多動性障害)なども、行動の発現と密接に関わっていればこそ、行動分析学の知見が活かされる得意分野ということになるのかもしれない。もちろん、高齢者支援やリスク管理、ソーシャルスキルの問題なども、同程度あるいはそれ以上に行動分析学が活躍できる場があるとは思うのだが、ある程度以上の数の研究者が揃わないと話題が盛り上がらず、単発的な研究発表のみで終わってしまうことになる。 |
【思ったこと】 _70807(火)[心理]日本行動分析学会第25回年次大会(2)科学と宗教における言語行動(1) 大会1日目の昼前に、Catania先生による表記の特別講演が行われた。講演時間が1時間に限られていたこともあって、言語行動の概略、言語行動が科学や宗教に果たす役割についての概略を論じるにとどまったが、いくつか貴重な示唆を得ることができた。 講演ではまず、 Words are behaviorという基本命題?が提示された。これは行動分析学的な言語観、世界観を良く言い表していると思う。「初めに言葉ありき」ではないし、また、「神による創造」には全く触れられていないところが大きな特徴である。 さて、言語行動の根本機能の1つに「他者の行動を変える」ということがある。座っている人を立たせようとするには、物理的に抱きかかえて持ち上げなくても、「立ってください」と言うだけで立ってもらえる。もちろんそうした「依頼」が成り立つためには、「立ってください」という言葉が弁別刺激として機能する必要があるし、「立つ」行動ことは何らかの強化されなければならない。これらすべてが、言語行動の成り立ちに含まれていると言ってよいだろう。 言語行動にはこの他にも、コミュニケーション、真理の記述、論理などさまざまな機能があるが、それらはすべて、「言語行動は他者との関わりを通してのみ有効であり続ける」という根本機能からの派生物であり、今述べた根本機能を通してのみ意味を獲得する、というのが第一の論点であった。 言語行動は3つのプロセスで淘汰(選択)され、進化してきた。すなわち、系統発生的な選択、個体発生的な選択、そして、文化的あるいはmemeticな選択である。このあたりは教科書的な解説と言ってよいだろう。講演ではさらに、言語行動をVerval Governance、Replication、 Differential Attention、Verbal Shaping、というように弁別刺激や反応などの機能から4通りに分類しそれぞれについて解説された。なお、これらは言語行動のそれぞれのプロパティであって、理論ではない点に留意する必要がある。 |
【思ったこと】 _70808(水)[心理]日本行動分析学会第25回年次大会(3)科学と宗教における言語行動(2) 大会1日目のCatania先生の講演では、
●社会的な強化子(好子や嫌子)は、個々の効果は小さいが、長期間にわたって継続的に影響を及ぼし続ける という重要な特徴を持っている。この点は大いに納得できる。そのことによって、我々の行動は、概ね一貫性を保ち、その社会に適応したり貢献するように強化されているのである。 さて、いよいよ本題?の科学や宗教との関係。まず、言語行動は非言語環境=自然環境)にきめ細かく左右されており、その表れが自然科学の営みであると言うことができる。文学や宗教のような社会的営みも、ある程度まで非言語環境に左右される。さらに言語行動がもたらす資産(=言語的な記録)は、人間行動に重大な影響を与える。ここでCatania先生は、冒頭の Words are behaviorに対照させる形で Words are behaviorという命題を提示された。そしてこの言葉が、1時間余りの講演の結論であるように思われた。講演の最後でCatania先生は、Beliefの集積として、「I Ching」、「Dialetics」、「The Koran」、...「The Declaration of Independence」、「The Little Red Book of Chairman Mao」という21の信念のリストと「The Calculus」、「Godel's Proof」、「Booolean Logic」、...「The Periodic Table of the Elements」、「The Integrative Action of the Nervous System」という21の科学的業績(スキナーの『The Behavior of Organisms』もちゃんと入っていた)を提示された(順番は時代順ではなく、文字数の少ない順)。 |
【思ったこと】 _70809(水)[心理]日本行動分析学会第25回年次大会(4)行動の流暢性をめぐる議論(1) 大会1日目の午後には、 ●“行動の流れ”を制御する〜時間的行動指標を用いた応用技法の紹介と基礎研究からの提言〜 というシンポが行われた。キーワードの1つは流暢性(fluency)、つまり、発達障害児などにおいて、流暢な反応を強化・維持することの効用、そのための技法、また基礎研究からの提言などが行われた。 ここでいう流暢性というのは、一口で言えば、単位時間あたりの正反応の出現率を高めることである。例えば、1時間という勉強時間の中で簡単な計算問題を解くという課題を遂行する場合、できるだけ多数の正解を出せば流暢性が高いと判断される。反面、正解率が高くでも解答数が少なかったり、計算に集中できずに他のことに気をとられていた場合は、流暢性が低いということになる。ある程度の流暢性を高めておくことのほうが、より有効な支援が可能になると言われている。 シンポではまず、2人の方から、発達障害児を対象に行った流暢性訓練の事例が報告された。 1番目のS氏は、まず流暢性とは何か、に関連して、計算の獲得をスムーズに行うためには単に正答率を達成基準とするのではなく、ワークシートやフラッシュカードを使って、数字列の読み書きを1分あたり100回、というようにある程度のスピードを身につけさせることが有効であるという研究事例を紹介された。 次に流暢性指導の対象となる行動を「コンパウンド・レパートリー」、「コンポーネント・レパートリー」、「ツールスキル」に分けて、ジャズ演奏やアイススケートの例で説明されていたが、うーむ、このあたりは、ツッコミどころがあるような気がする。 なお2007年度の国際行動分析学会では、「Fluency-based」「precision teaching」、「flash card」をキーワードに含む研究発表が増えており、指導や支援の指標として流暢性を取り入れる動きが広まってきているとのことである。 さて、流暢性は、一口で言えば「単位時間あたりの反応数」、つまり高反応率と同じような意味になるが、
ということもあって、1.のケースと2.のケースは明確に区別して議論したほうがいいのではないか、とシンポ終了時にも質問させていただいた。要するに、ラットにレバーを押させるような実験では1年たっても強化子(好子)の餌粒が特段美味しくなるわけではない。いっぽう、ピアノの鍵盤を流暢に叩くという訓練を続ければ1年後には、より難易度の高い曲を弾けるようになるわけで、1年前とは、強化子の質が明らかに変わっているのではないか、というような趣旨である。そのあと、行動分析学の大家のS先生からも、同じような趣旨の御指摘があった。 |
【思ったこと】 _70810(金)[心理]日本行動分析学会第25回年次大会(5)行動の流暢性をめぐる議論(2)/まとめ 大会1日目の午後に行われた、 ●“行動の流れ”を制御する〜時間的行動指標を用いた応用技法の紹介と基礎研究からの提言〜 というシンポの感想の2回目。 まずお断りしておくが、流暢性に関する研究は、流暢性を増すことが発達障害児等の支援に有用であるという前提で進められている。しかしこれは、一般論として流暢性の高さを肯定するものでは必ずしもない。スローライフを志向する向きもあるし、セカセカと反応するより、1つ1つの行動の意味をじっくりと噛みしめることのほうが大切だという考えもあるだろう。ここで行われている議論はあくまで「流暢性を高める」ことを前提とした議論であって、その前提を受け入れるか否かは、それぞれの人自身のニーズ、価値観、ライフスタイルによって異なっているという点に留意していただきたい。 さて、昨日の日記でも指摘したように、発達障害児を対象とした流暢性研究と、動物を被験体とした反応率(反応レート)に関する研究では、反応を強化する仕組みがかなり異なっているように思われたが、それはそれとして、基礎研究に関する指定討論はなかなか興味深い内容であった。 1つは「変化抵抗(resistance to change)」という概念である。これは 定常状態となったオペラント行動に、反応を減少させる操作が加えられた場合のオペラント行動の減少の割合として定義される。但し、昨日も指摘したように、流暢性訓練における強化子(好子)は、第三者によって付加されたもの以外に、課題遂行自体に伴う結果、1つのセッション内での達成具合、累積的結果、結果の質がスキルの上達に伴って変化する可能性などがあり、変化抵抗の概念をそっくりあてはめるにはちょっと無理があるように思った。 もう1つは、反応率の微視的分析に関する指定討論であった。いっぱんに、反応率というと、5分間、30分間、...というような1つのセッションにおける総反応数だけから計算してしまいがちであるが、微視的に観ると、じつは、レバー押しやキーつつきのようなタイプの反応は、のべつ幕無しに起こっているわけではなく、反応期と休止期に分かれており、一口に高反応率と言っても、休止期が短くなっている場合もあれば、休止期は変わらないが反応期内の反応速度が速くなっているという場合もある。そして
さて、種々の学会年次大会や各種シンポジウムに参加した時は、遅くとも2週間以内にその感想をWeb日記に書くよう心掛けているところであるが、あいにく、11日夜から一週間ほど旅行に出かける予定となっている。旅行後に続きを書くわけにはいかないので、以下、大会2日目のシンポ、招待講演について簡単な感想を述べ、今回はこれをもって打ち切りということにさせていただく。 まず、2日目午前中には ●エビデンスに基づいた発達障害支援の最先端 という学会企画シンポジウムが行われた。このことに関して、別途、紀要論文で取り上げる予定であるので、ここでは省略。紀要論文下書きを兼ねて、旅行後にボチボチと考えを述べていくことにしたい。 2日目午後には、Catania先生による ●Delay of Reinforcement、the Operant Reserve, and ADHD (強化の遅延、オペラント貯蔵、そしてADHD) という招待講演が行われた。私自身は、卒論研究の頃に、このテーマに近い研究をまとめていたこともあり、その後の発展の様子を興味深く拝聴することができた。 講演内容を一口でまとめさせていただければ、種々の強化スケジュールにおける反応の出現パターン(累積記録のカーブの形)は、Operant Reserveを含む法則といくつかの前提によって、ほぼ確実に予測できるというもの。じっさい、コンピュータシミュレーションによる累積記録と、動物実験の結果は驚くほどに酷似していた。Catania先生ご自身から直接そういうお話を聞けて、30年数年前の学生時代に戻った気分になり感無量。 オペラント貯蔵の程度が、ADHDの「AD(注意欠陥)」の部分と「HD(多動性障害)」の部分に影響を及ぼすという仮説もたいへん興味深いものであったが、うーむ、仮にそれが正しいとしても、ADHDの改善にどう貢献するのかについてはよく分からないところがあった。また、基礎研究の範囲内においても、シミュレーションにあたっての前提が厳しすぎると結局、予測は限定的となるし、前提の数が多すぎると、簡潔な基本法則化には結びつかず、複雑な周転円で惑星の動きを説明しようとする天動説みたいになってしまうような気がした。ま、それはそれとして、とにかく、Catania先生ごからオペラント行動の講義を直接拝聴できたということだけでも大満足、今回の学会年次大会に参加したことは十分意義深いものであったと言える。 |