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1月19日(月)

【思ったこと】

980119(月)
[心理]センター試験に出題された心理学の問題、テロル(後編)

 昨日に引き続いて、センター試験で出題された心理学の問題をとりあげたと思う。問題を参照しながらコメントをしていきたいと思うので、できればブラウザの窓を2つにして、この日記と昨日の日記の画面を対照させながら見ていただきたいと思う。

 まず、初めにおことわりしておくが、こういうジャンルの問題が英語に出題されたこと自体は、まことに結構なことである。英文学ばかりが英語ではない。今年は他に、虫歯の位置と症状を問う問題もあったが、こういう多彩な英文読解の力を高校時代から磨いておけば、大学入学後も大いに役立つであろう。
大学の英語教育というと、担当教官の好みから、とかく英文学の読み物が教材になりやすい。少なくとも、私が大学教養の時の英語は英文学の教授が担当していたため、D.H.ロレンスやH.ジェームズなどの小説ばかりが教材になっていた。それなりに面白かったけれど、そこで学んだことは英語の専門書の速読みや英語論文執筆には何の役にも立たなかった。もっとも最近の大学改革によって、専門や日常会話に役立つ英語教育が行われるようになってきた。英文学専攻の英語担当教官には申し訳ないが、これはまことに好ましい傾向だと思う。
 さて、本題に入るが、英語の設問自体は、記述を正しく読みとっているかどうかを問うものであるから、英語力を調べる問題としてはそれなりの妥当性があると思う。ただ、心理学の立場から見ると、問題文でのデータの扱い方、あるいは根本的な実験計画のあり方には、疑問を感じざるを得ない。

 まずデータについては、群別の正答数の見かけの大きさではなく正答比率を、統計的検定にかけたうえで比較すべきものであろう。イメージ群のほうが絵提示群より正答が2倍多いと言ったところで、正答が1個対2個の場合もあれば5個対10個の場合もある。単なる正答の絶対数の比をとっても意味をなさない。比較するならば、あくまで正答比率(「目覚まし時計問題』であれば、0/35、2/35、3/35の比較)に有意差があるかないかを検討すべきである。この点で、心理学としては少々妥当性を欠く問題と言わざるを得ない。

 最後の設問では、本文または表の内容と合っているものを選ぶことになっている。正解は3.ということであるが、3.はデータを見なくても読みとれる内容である。どうせなら、データから結論できる内容とかならずしも結論できない内容を見極める問いにしてほしかった。

 ところで、この問題の元になった「心理学実験」には重大な不備がある。ここに示された結果をざっと見る限りでは3群間の正答率に有意差は認められないと思うが、仮に「絵提示」条件の正答が有意に多いというデータが得られたとしても「絵提示」の一般的な効果を実証したことにならない。そもそも絵などというものには上手、下手がある。また、絵に含まれる情報もいろいろに変えることができるだろう。例えば、「目覚まし時計問題」で、背景に窓、窓の外に星を描いたすれば、多くの人は、その景色から夜の9時に時計が鳴り出すことを思い浮かべるはずである。もう1つの満潮問題でも、検潮用のポールをボートの横に描いておけば、満潮になるにつれてボートが浮き上がる様子が容易に思い浮かべられるようになる。そもそも「絵提示」という一般的な刺激など存在しない。絵の内容に応じて正答を増やす効果のある場合もあれば、何の効果も及ぼさない場合もある。言いかえれば、「絵の提示の効果を検証する」というような実験は原理的にできない。意味がある実験と言えば、「どういう絵を提示したら正答を増やせるのか」、つまり一般法則や仮説の検証のための実験ではなく、ある効果が及ぶ範囲を同定する実験のほうが遙かに価値があると言える。

 もう1つの不備は、「できる限りはっきりとイメージしなさい」という教示である。もし「右手を高く挙げなさい」という教示であるならば、日本語が理解でき特段の障害をもたない人であるなら全員同じ動作をするであろう。これに対して「イメージする」などという行動は、人によって解釈の基準が異なる恐れがある。特に、「イメージするって、どうすればよいのですか?」という質問が出た場合には、実験者はどう答えてよいかわからないだろう。実験操作は、被験者に対して同じ行動を確実に喚起させられる内容でなければならない。それでなければ再現可能性も失われるし、個体差もさまざまで到底、統計的検定にかけられるほどのデータも出てこない。

 心理学の実験研究では、こういう過度の一般化や、あいまいさの残る教示が頻繁に行われている可能性がある。そもそも一般性の高い法則を実験的方法で検証することには限界がある。実験でできることと言えば、反証すること、もしくは効果が及ぶ範囲を決定していくことに限られる。残念ながら、こういうことを念頭において実験研究を進めている心理学者は意外に少ない。特に卒論研究や修論研究となると、今回例示された「絵やイメージの効果」を「検証する」たぐいの実験ばかりが目立つ。もっと指導せねば...。
【ちょっと思ったこと】
  • 元文部事務次官の高石邦男被告に対する控訴審で19日、一審より重い懲役二年六月執行猶予四年、追徴金2270万円の判決が言い渡されたという。高石氏と言えば、私が長崎大学在籍中に、幹部事務官経由で高石氏の著書の注文書がまわってきたことがあった。私的な著書の注文書が事務ルートで回覧されてきたのは、この1回限りのことであった。
【新しく知ったこと】
  • 2月2日からの郵便番号7桁化の特例措置として、書き損じたり、印刷の失敗した年賀はがきでも、料額印面さえ汚れていなければ、新しい(7桁番号枠の)通常はがきに無料で交換できるとのこと。ただし期間は1月5日(月)から3月31日(火)までに限るそうだ。詳しくはこちら。うーむ。最初から知っていれば年賀状をもっと沢山買い込んでいればよかった。もっとも2等以下のお年玉はあんまり魅力ないしなあ。
【リンク情報】
  • 東芝情報システムが、インターネット碁会所を開いている。こちら
【生活記録】
  • 娘が風邪をひいて声が全然出なくなってしまった。インフルエンザの可能性が高いとの診断を受けてきたようだ。きょう娘のクラスでは36人中11人が欠席し、全員午前中で早退させたとのこと。私自身も、金曜から突発的な頭痛があったが、土日の公務で無理をしたせいか、今日はずっと首の後ろが痛かった。
【家族の出来事】
【スクラップブック(翌日朝まで)】
※“..”は原文そのまま。他は長谷川による要約メモ。【 】は長谷川によるコメント。誤記もありうるので、言及される場合は必ず元記事を確認してください。
  • 千葉大は19日、「飛び入学」の合格者3人を発表。受験者は11人。入学後は工学部に所属。
  • 証券大手3社、大幅な赤字。97年度第3四半期の経常損益は、野村-278億円、大和-119億円、日興-169億円。
  • 昨年1年間の企業倒産の負債総額は14兆209億円で過去最高。営業譲渡や自主廃業の拓銀、山一は倒産の統計には入っていない。