【思ったこと】
980314(土) [生活]学習塾が作った小学校 きょうは息子の小学校卒業式であった。もともと息子は、最寄りの幼稚園から学区内の公立小学校に進んだのであったが、1年生在学中に新しい私立小学校が創立され、開校当初の最初の2年生として5年前に編入した。 この学校の面白いところは、学校の名前に「塾」という文字がついていることである。といっても「慶○義塾」ではなく、まさに「学習塾」が母体となって作った小学校なのであった。 この学校に入学させることについては、せっかく地元の小学校に通っていて友達ができたところでどんなものだろうかという迷いや、授業料等の経済的負担も重く、夫婦の間でもだいぶ議論を重ねたものである。単に中学受験をさせるだけならそこまで必要はないとも思ったが、スクールバスで15分ほどの近距離にあり、しかも三方を山に囲まれた恵まれた自然の中にあること、創設された学校に初年度から入るということで、すべてゼロから始めるという貴重な体験ができるであろうなどと考え、最終的には息子を校舎の建築現場まで連れていって本人の希望を聞いた上で受験をさせた次第であった。 塾が作った学校であるからと言って、何も朝から晩までテスト勉強をさせているわけではない。簡単な英語の授業や、パソコンを使った授業もある。自前のスクールバスを連ねて海や山へ校外学習、冬はスキー合宿などもやった。5年の修学旅行はオーストラリアへのホームスティ。まあ、金は相当に吸い取られていったが、それなりに貴重な体験をさせることができたと思う。 6年になってからは、各自が目標を定めた上で、クラス全員一丸となって受験に取り組んだ。学校側は、中学受験は決してゴールではないとことわりつつ、これを大きな試練ととらえ、真正面からぶつかることが「最大のライバル=自分に勝つ」ことであると位置づけている。その意味では、スケートやジャンプの選手が金メダルをめざすことと同じ価値を与えようとしているようにも見える。まあ、言ってみれば、「受験勉強を教える」というより、「受験勉強で教える」という教育をめざすものであり、受験への取り組みを通じて、自分自身へのごまかしを排し、「継続は力なり」を身をもって体験し、前向きの姿勢を保ちながら自分の可能性を切り開いていく力を養うということなのだろう。 この小学校が創設された当初、当然のことながら、教育界の一部から批判の声があがった。それは、「学校は予備校や塾ではない」「学校は心の教育をするところだ」「受験勉強ばかりしていると人間性が無くなる」といった批判であったように記憶している。しかし、それでは現実に公立の小学校がどれほど優れた「心の教育」をしているかと言えばこれもあんまり根拠がない。しかも、多くの小学生は、高学年になると塾に通うようになる。たしか学園長も言われていたと思うが、「心の教育」を行う(とされる)小学校と、「勉強を教える」塾が、相互に何の連絡もなしにバラバラの教育行うのでは子供への負担が大きすぎる。ならば「心の教育も勉強も学校で」と一本化したほうが合理的であろうという理屈も成り立つわけだ。 受験教育は競争主義を助長するなどと言われることもあるが、この学校に限ってはそういう危険もなかった。そもそも、みな思い思いの中学校を別々に受験するわけだから、クラス内で順位を競ったって何の意味もない。それよりも、お互いを励まし合った部分のほうが大きいと思う。卒業児童の作文集などを拝見しても、「弱い自分」の克服に注意を向けた内容が多かったようだ。 5年前に入学させた時の学校側のキャッチフレーズは「塾通いの要らない学校」をめざすということだったと思う。放課後や土日に別の塾に通わせた親も多かったようなので理想が実現したかどうか、一般的な結論を出すのは難しい。我が家でも夏休みや冬休みと、平日に週1回だけ学校と一体化された塾で講習を受けていた。もっとも、学校から帰ると毎日1時間半はスーパーファミコン、土日の休みも家族でハイキングや温水プールに行って過ごしていたようなので、「塾通いが軽減される学校」であると言ってもよいかと思う。 受験勉強についてはステレオタイプな批判が繰り返し掲げられるけれども、少なくとも、非行を誘発するというような主張は成り立たない。きっちりと受験勉強ができる人は、「欲しい物は何でも手に入る」などとは決して思わない。むしろ、何かを成就しようと思ったら、それに見合った地道な努力が不可欠であることを身をもって体験するはずであろう。受験勉強自体が悪なのではなく、ひとつの物差しだけで生徒を差別し選別し、それに敗れた者の可能性の芽を摘むような社会的な仕組みに問題があるのだ。 「ただ何となく6年たったので卒業かあ」といった惰性で中学に入る子供が多いなかで、「努力すれば必ず結果が伴うものだ」というよき体験をしたうえで中学に入ったことは、その後の人生に必ずプラスになっていくはずだと思う。 |
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