【思ったこと】
980324(火) [心理]炎チャレの恐怖の起源 きょうは「炎のチャレンジャー」を見た。3時間という長時間スペシャルだったのでさすがに途中で切り上げたが、「電撃イライラ棒」はもちろん、ちょっと前に話題になった「組み体操サボテン6時間耐久チャレンジ」や「アニメ全問正解」など、毎回視聴者を飽きさせない内容になっているところが凄い。 さて、この中で、ちょっと気になるのが「恐怖の肝だめし」である。最後までクリアして見事100万円を獲得した兄弟にとってはよい思い出になるだろうが、途中で恐怖のあまり泣き出してしまった子どもたちは、あのまま放ってよいのだろうか、ちょっと心配になってきた。あの時の恐怖体験がのちのちまで影響を及ぼすことはないのだろうか。 そもそも恐怖というのは大部分が後天的に条件づけられたものだと言われている。これを実験的に示したのが、有名なジョン・ワトソンとロザリー・レイナーであった。彼らは生後11カ月の幼児に、シロネズミに恐怖を感じるような条件づけを行った。幼児の名前はアルバート。病院で働いていた看護婦の息子だった。 彼らの方法は今から見れば実験というよりも逸話に近いような内容であった。彼らはまずアルバートがシロネズミを怖がらないこと確認した。次の段階でシロネズミに触れようとした瞬間、実験者が金属板をたたいて大きな音を出した。この対提示を繰り返すことにより、アルバートは次第にシロネズミを怖がるようになったのである。 この「実験」は今から見るといろいろな問題がある。例えばアルバートは確かにシロネズミを見たときに泣いて逃げ出したが、果たしてネズミそのものに恐怖を感じたのか(=パヴロフ型の条件づけ)、それとも本当に怖いのは金属音であり、シロネズミを手掛かりとして(=オペラント条件づけにおける弁別)その出現を察知したために逃げ出したのか、最終的な確認がなされていない。 しかし本当の問題は別のところにある。もしこの実験を通じてアルバートが本当にシロネズミに恐怖を感じるようになったとしたら、実験者は責任を持ってそれを取り除いてから実験を終わらせなければならない。彼らにはいちおうその計画もあったようだったが、実際にはアルバートの母親が病院から彼を連れて帰ってしまったため、恐怖を消去するための実験は実行されることなく終わってしまったという。 アルバート坊やの実験が本当に恐怖を条件づけたかどうかは定かでないが、恐怖の多くが子供時代のほんのちょっとした偶発的な体験に基づいて形成されることは、日常経験の中から容易に察しがつくはずだ。以前テレビに出演していた男性は、観覧車に乗ることができなかった。この人は高いビルの屋上に立っても平気なので、単純な高所恐怖症ではない。本人に聞いてみると、昔観覧車に乗ったときに友達がちょっとした悪ふざけをして観覧車を揺らしその時の恐ろしさがしみついて乗ることができなくなったのだという。炎チャレに出演した子どもたちの場合はどうだろうか。せめて、撮影後、出演者全員に明るい所で舞台装置のからくりを十分に見せ、恐怖を取り除いてやるぐらいのアフタケアがあってもよいのではないかと思う。 ところで、「観覧車恐怖」をとりあげたテレビ番組では、余韻恐怖症(鐘の音や吊りスイッチの揺れ、ブランコの揺れなど)、掃除機の吸引音に対する恐怖、高いメロディの繰り返し(ネスカフェのCMや由紀さおりの「ラーラーラララー」という歌など)に対する恐怖なども紹介していた。奥様向けの面白可笑しく脚色した番組であったので、どこまで深刻な状況なのかは今ひとつわからないが、この種の恐怖の場合には、任意の刺激対提示による条件づけではなく、特定の感覚器官が過敏であるといった生理的要因も関与しているように見受けられた。 このほか、昨年5/30のじぶん更新日記(「怖い顔の起源」)にも書いたように(現在容量の関係でサーバーにはアップしていない)、死を連想させるものに対する恐怖というのも数多く存在する。その時の日記に書いたことを一部引用しておく。 どんなに“怖そうな”怪獣を作っても、人間と似ても似つかないものは恐怖の対象にはなりにくい。生きているネコを怖がる人は少ないが、ネコの死体を怖がる人は多い。いずれも、自分の死を想起させるかどうか(=死に関連した恐怖反応を誘発するかどうか)が、重要なポイントになるだろう。 死を恐れない人、あるいは自殺間際の人は、死を連想させる諸々の事物を全く怖がらなくなるのだろうか。残念ながらそれを推測するだけの資料が手元にない。 今回は、どちらかというと特定対象に対する固定的な恐怖形成の問題を取り上げたが、実際の恐怖反応は、文脈に依存する場合が多い。同じのっぺらぼうの顔でも、妖怪図鑑で眺めるのと、小泉八雲のムジナの話のようにとつぜん現れるのとでは怖さが違う。こういう意外性恐怖は、科学理論として追究するよりも、文学や芸能の世界での技巧の問題として検討されたほうが実りがあるかもしれない。 |
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