【思ったこと】980409(木) [心理]心理学の実験で分かること分からないこと(2) ひとくちに実験的方法といっても、いくつかのタイプに分けることができる。ここでは、具体的なイメージをつかむために、「陸上の植物の生育に水は必要かどうか」という理科の実験を例として考えてみることにしよう。 仮に何の予備知識も持たない宇宙人が地上に降り立ったとすると、そもそも生育に必要な環境として何を揃えればよいかが分からないだろう。そこで、地球上の各地、たとえば、ジャングル、温帯、南極、砂漠、高山などで植物の生育状況を観察した上で、おそらく水が必要であろうとの仮説を立てることになる。但し、この時点ではまだ前回(1)の基準に挙げた働きかけが行われていないので実験とは言えない。 次にいよいよ、陸上植物を対象に実験を開始する。と言っても、高さ10メートルを越えるような大木や、管理が難しい熱帯植物を対象とするわけにはいかない。そこで、比較的安価で手軽に栽培できる植物が最初の実験対象として選ばれる。実験対象となる植物は、任意に選ばれたものではなく、あるていど実験者に都合のよい植物が選ばれているという点に留意しておく必要がある。ここでは便宜上、アサガオが選ばれたものとしておこう。 ここでようやく、実験に入る。まずは、水が必要かどうかという質的な判定から行う必要がある。これを確認するには、ふつうは、朝顔を2群に分けた上で、水を与え続ける条件と、水を与えない条件で朝顔の生育にどのような違いが見られるかを観察すればよい(=群間比較)。また場合によっては、水を与えながら育てていた数株の朝顔を、時期をずらして突然水を与えなくするという実験もできる。水を与えなくなった時期に依存して朝顔が枯れ始めたら、水が必要であることが検証されたことになる(=個体内比較:多層ベースライン法)。いずれの方法においても、「水を与えるかどうか」という働きかけがシステマティックに行われるので、この段階は明らかに実験的方法が用いられていると言ってよいだろう。またいずれの実験とも、水という要因が関与していることを確認するための質的実験[これを(a)タイプとする]であると考えることができる。 ここまでの段階の実験は、朝顔という特定の植物の生育にとって、特定量の水分が必要であることを示したにすぎない。研究の方向はここで2つに分かれる。1つは、朝顔の生育に最も適した水の量はどのくらいかという定量的な検討[これを(b)タイプとする]である。いくら水が必要と言っても、水浸しの状態で育てることは難しいし、逆にサボテンのように月1回の潅水で十分というわけにもいかない。最適量を求めたり潅水頻度の最適回数を求めることは、実用的にも必要な知識を得ることにつながる。 しかし上記の(b)で得られたデータが、朝顔以外の植物にも当てはまるという保証はまったくない。そこで、もう1つの方向として、すべての陸上の植物の生育に水は必要なのかというように一般化を押し広げる検討が必要になってくる。 もっとも、「法則」というものは、その適用範囲が広いほど重んじられる反面、いろいろな例外規定を設ける必要に迫られることも多い。仮に「水は必要」という意味を「根から水を吸い上げることが必要」という意味に捉えるのであれば、園芸品店で最近人気のエアー・プランツのように、根に水を与えなくても生育できる植物は明らかな例外となる。エアープランツの事例は、「すべての陸上の植物の生育は根に水を与えなければ生育できない」という「一般法則」に対しては1つの反例示しており[これを(c)タイプとする]、大きな発見であると言えよう。とはいえ、あまりにも一般性の高い抽象法則を否定したところで何も生まれない場合もある。より建設的な視点に立てば、根から水を吸い上げないと生育できない陸上植物は、どのぐらいの種類に及ぶのか、というように、法則の及ぶ範囲を広げ、確定する研究[これを(d)タイプとする]のほうが重要になってくる場合もある。 (c)のように反例を示すことに意義があるのか、それとも(d)のようにその法則が及ぶ範囲を確定するほうが意義があるのか、という判断は、研究対象の性質や文脈によって異なってくるものと思われる。広く支持されている法則に対してそれが成り立たない事例を1つでも示すことは、時としてその領域の研究を活性化し、対象に対する認識を根本的に変えるインパクトを与える場合もあるだろう。反面、(d)のような作業を地道に行うことのほうが実用上役に立つ場合もある。上記の例で言えば、(c)の形で反例が提示されれば、エアープランツはどうやって水を取り込むのか、それとも本当に水はいらないのかという研究が活性化され、その結果、空気中の水分を葉から取り込むこと仕組みが明らかにされ研究の発展へとつながるであろう。いっぽう、(d)タイプの研究を地道に進めることも、農作物等の栽培の効率化のうえから同じように重要であると言えよう。 以上、簡単な理科の実験を例にあげる中で、少なくとも(a)から(d)までの4つタイプがあることを示した。もういちどこれらを整理すると次のようなタイプとなる。 (a)ある要因の関与を確認するための実験(「質的」実験) (b)ある要因の関与の度合いを量的に決定するための実験(「量的」実験) (c)広く支持されている法則に対してそれが成り立たない事例を示す実験(「反証」実験) (d)ある法則の及ぶ範囲を広げ、確定するための実験(「範囲確定」実験) <以下、不定期更新で続く> |
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