【思ったこと】
980419(日)[心理]金属バット長男殺害事件判決で思ったこと(後編): 相互強化による悪循環 昨日の日記にも書いたように、家庭内暴力のような行動現象は、およそ単一の原因だけで生じるとは思えない。子供および親の過去のもろもろの体験、家庭環境、学校環境などが複雑に影響していたことは確かであろう。しかし、何が発端であろうと、その行動が高い頻度で生起している限りは、それを強化する何らかの結果が随伴しているはずである、と考えるのが行動分析学的なものの見方であろう。 今回のケースについては情報が不足しているため、あくまで一般論として述べることしかできないが、AがBに対して何らかの要求をする。Bは、最初はそれを受け入れるものの、そのうち理不尽さに愛想をつかして断るようになったとする。Aは要求が受け入れられないことに腹をたてて、軽い暴力をふるう。そこでBが毅然とした態度で臨めばAの暴力は消去されるが、もし要求に屈してしまうと、暴力行為はBによって強化されたことになる。それを繰り返すことによって、Aの要求はますます理不尽なものとなり、それを満たすためにますます激しい暴力をふるうことになる。ということはあり得ることであろう。 この種の「相互強化の悪循環」としてよく挙げられるのが、抱っこ癖のついた赤ちゃんの例である。母親が構ってやらないとすぐに泣き出す。母親は泣き声に耐えられず、ついつい抱き上げてしまう。これが繰り返されるうちに、赤ちゃんは構ってもらえないとすぐに泣くようになる。 母親から見れば、自分の子供はなんて泣き虫で甘えん坊なんだろうと思うだろう。しかし、その抱っこ癖は、子供が先天的に甘えん坊という性質を背負って生まれてきたためではない。赤ちゃんの泣くという行動に対して母親が「抱っこ」という結果を随伴させ、知らず知らずに「泣く→抱っこ」という条件づけを形成してしまった恐れがあるのだ。 校内暴力も、社会一般での暴力団による恐喝も同じようなプロセスをたどる。反社会的な行為を強化する土壌がある限りはそれを消し去ることはできない。 ここで留意していただきたいのは、相互強化だからといって、責任を折半せよということには必ずしもならない。社会的文脈の中で規定されるとは言え、加害者と被害者は明確に存在する。「いじめは、いじめられる側にも原因がある」ことは確かだが、だからと言っていじめる側の加害責任が軽減されることはない。 今回のケースで伝えられたことが事実であるとすると、暴力行為がエスカレートした時点で、家族が強化の悪循環の輪を自力で断ち切ることは殆ど不可能であったと推察される。 判決では「往診なども含めて専門家の診察や面接を受けさせる」努力をする余地があった指摘されているそうだが[4/18 朝日]、生活環境の中から暴力行為を強化する随伴性を取り除かない限りは改善が望めるはずがない。だいいち、そういう息子に面接を受けさせることは物理的に不可能であったと推察される。 比較的軽度な段階であれば、父親を含めて家族全員が別の家に避難し、生活に必要最低限のお金だけを所在を突き止められない形で仕送りするという方法もあったかもしれない。最後まで側にいて自分の手で解決したいという父親の熱意が裏目に出た可能性はあった。 家に取り残す方策でも改善しない場合は、息子を強制的に隔離して、「暴力行為が一切強化されない」施設で別の望ましい行動を強化していくことも対策の1つとして検討されるべきであった。念のため言っておくが、これは暴力行為に罰を与える施設ではない。暴力行為が生じても何も結果が生じない、つまりそれを消去するような施設のことである。 判決でも「専門病院や施設へ入院・入所させる」とあるが、残念ながら、こういう公的な施設が国内で正常に機能しているとは思えない。以前に「戸塚ヨットスクール事件」というのがあった。あれも強制隔離施設であったことは確かだが、「望ましくない行動の消去し望ましい行動を正の強化で形作る」施設ではなく、単に「罰を与え、負の強化で行動を形成しようとした」素人療法施設であり、凄惨なリンチで死者を出すハメとなったのである。 いずれにせよ、あのようにエスカレートする以前に、強化の悪循環の輪を防ぐための不断の努力が求められる。そのためには、他者の行動に対して自分がどういう結果を与えているのかを日頃から点検すること、つまり自分が知らず知らずに他者に提供している「行動随伴性」をしっかりと把握することである。 今回の話題からは脱線してしまうけれども、自己理解や他者理解の基本は、他者の行動にどういう結果を与えているのか、自分自身の行動が他者が与えるどのような結果によって強化されているのかを知っておくことにある。自分の性格や「深層心理」を知ることが自己理解につながると思われがちであるが、真っ先に知るべきことは、自分自身を取り巻く行動随伴性なのである。 |
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