じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] カナダ旅行の最終日に訪れたナイアガラの滝。左がアメリカ滝、右がカナダ滝。20時半頃から派手なイルミネーションが始まった。日本人観光客の中には、少し色を付けすぎではないかという声も。余談だがアメリカ滝のイルミネーションはカナダ側から行われている。外国の領土を照らして鑑賞するというのはまことに興味深い。
なお、Web日記作者の中でもナイアガラ方面を旅行した方は多い。最近ではしんつま日記さんの詳しい報告が印象に残っているので御紹介させていただきます。
[今日の写真]



8月26日(日)

【思ったこと】
_10826(日)[心理]「行動随伴性に基づく人間理解」(16)ラジオ電話相談に見られる子供の疑問と解説法

 一日前の話題になるが、北九州から岡山に戻る途中、NHKラジオで、夏休み恒例の子供向け電話相談の最終回を聞いた。質問を出したのは主として幼稚園から小学校低学年の子どもたち。その日だけで1300件、期間中はおそらく1万件を越える質問が寄せられたというから、なかなかの人気ぶりである。

 いまの時代、子どもたちの疑問を解決する手段はあふれるほど多い。両親が知らなかったことでも、ネット検索で大概は答えを見つけることができる。単にラジオで自分の声を流したいだけの「出たがり屋」も居るのではないかと勘繰ってみたりもするが、それはそれとして、回答する専門家諸氏も、あっさりと答えだけ示して楽をさせるのではなく、どうしてそういう疑問が出てきたのか、普段どういうことに目を向けているのかを聞き返すなど、探求心を育てる配慮をしている点が評価される。

 ラジオで聞いた範囲では、子どもたちの疑問はおおむね次のように分類できるかと思う。
  1. 自分が関与している行動について、「○○をするにはどうしたらよいか」というマニュアル志向型の質問
    ハムスターを長生きさせる方法、カニの飼い方
  2. 大人が行っている行動について、「どうしてそんなことが分かるのか」という知識を増やすタイプ
    天気予報はなぜ当たるのか、動物の寿命はどうやって知るのか
  3. 「本当はどうなっているのか」、「○○したらどうなるのか」、「どうしてそんなことが分かるのか」など、自分では確かめられない疑問
    星は本当に星形をしているのか、宇宙で水をこぼしたらどうなるのか
  4. すでに学んだ(個人体験で得た)「法則」について、一般化が成り立たないことへの疑問
    暑いときイヌは舌を出すのにネコはなぜ出さないのか、雨の日にセミが鳴かないのはなぜか、酸素が無いと火は燃えないと習ったが太陽はなぜ燃えているのか
 このうち1番目のタイプの質問は、探求心の育成にはあまり役立たないように思った。もっとも、なぜそういう処置が必要なのか(例えばカニの水槽を揺らしたりして酸素を入れる理由)理由を示すことは意義があったと思う。

 2番目のタイプは、質問者の年齢や知識に依存するだけに回答が難しい。上のケースでは、
  • 天気予報:記録をとり、「同じパターンになった時は似たような天気になりやすい」ことを利用
  • 動物の寿命:心臓の鼓動数と関係あるかも。鳥の心臓は速く動くが象は遅い。その他、これまでの経験から平均的に何年生きるのかが分かる
というような回答をしていた。「鳥の心臓は速く動くのに、どうしてオウムは長生きするのですか」という追加質問が出たらどう答えるのだろう。

 3番目のタイプに対しては、答えをあっさり出さず、解決のためのヒントを出す工夫があったと思う。
  • 星の形:空の星は星形に見えるけれども、首を傾げてみるととがった部分が動く。ということは、とがったように見えるのは自分の目のほうに原因があるはず。
  • 宇宙で水をこぼしたら?:高い山に登ると気圧が下がり水は低い温度でも沸騰する。だから、真空に近い空間では瞬間的に沸騰して蒸発してしまう
 もっとも「水をこぼしたら」という疑問の所では、「高い山に登ると温度が下がり水は凍ってしまう。だから、すぐに凍ってしまうのではないか」という追加質問をしてみたくなった。じっさい氷でできている天体もあることだし。

 4番目のように、「日常生活で当たり前」からの一般化にまつわる疑問は、大人でも起こりがちである。上記の場合、単に
  • ネコはどうやって暑さを凌いでいるのか
  • 太陽はどうやってエネルギーを得ているのか
というように、3番目のタイプに言い換えることもできるが、それでは不思議さが低い。不思議さというのは、当たり前の出来事との対比の中で際だってくるものだからである。

 一般化にまつわる疑問は、単に「イヌとネコは違う」とか「太陽の燃え方は紙の燃え方とは違う」というように「それとこれは違うんだよ」と言ってしまえばそれでおしまいだ。「なぜあなたはそんなことをしたのか」に直接答えず、「オレとお前は違うんだよ。違ったらなんで悪い?」と開き直るようなもの。そうならないためには、ネコがどうやって熱を放散させているのか、あるいは太陽はどのようにして燃えているのかをある程度説明する必要がある。質問者のレベルに合わせて、どれだけ分かりやすい概念を使えるかが回答者の腕の見せどころであろう。



 この日に聞いた電話相談は、もっぱら自然科学に関する内容ばかりだった。この場合、英語に直せば「How.....?」型や「What.....?」型の質問が多いので回答もやりやすいが、人間の行動に関する質問となるとそう簡単に答えるわけにはいくまい。例えば、
  • 世の中にはどうして泥棒がいるのですか?
  • なぜ殺人は起こるのですか?
  • ボク(ワタシ)はなぜ今の時代に生まれてきたのですか?
  • ○○ちゃんのところは兄弟がいるのに、ボク(ワタシ)のところはなぜいないのですか?
  • 夏休みに、○○ちゃんは海外旅行に行きました。ボク(ワタシ)はなぜ行かれないのですか?
おそらく、この種の質問は、回答困難ということでラジオ局としても最初から受け付けていないのだろう。しかし、サン・テグジュペリの『星の王子様』を読むまでもなく、子供の疑問はもっと多様であり、それに適切に取り上げてやらなければ何も考えない人間にしてしまう。特に「Why.....?」型の質問にどう答えるのか、単なるアナロジーや事後解釈でごまかしてしまうのか、「大人になるまで待ちなさい」と我慢させるのか、.....いずれにせよ、回答可能な問題ばかりでなく回答困難な問題についても、考える筋道をアドバイスしてやることが電話相談として大切ではないかと思った。