じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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2月24日(金)

【思ったこと】
_60224(金)[心理]冬ソナを振り返る(5)【第2話】ユジンとチュンサンは決めたことを守る人か?

 今回から第2話を振り返ることにしたい。

 第2話は、学校をサボった2人がゴリラ先生に叱られ、罰として1カ月間、落ち葉の焼却作業を命じられるところから始まる。トイレでの「スカートめくり」シーンに続いて、2人が焼却炉で作業をするシーンが続く。そこでの会話内容は、何かを決意、あるいは約束することについてのユジンの考え方を証拠づけるものでもあり、また後のストーリーの展開にも大きく関係しているように思われる。まずは日本語吹き替え版でその部分を再現してみよう。
(落ち葉を燃やす時のニオイがパパのニオイそっくりだとユジンが語った直後)
チュンサン:ユジン
ユジン:うーん?
チュンサン:キミは同じ失敗は二度と繰り返さないかい? ダメだと分かっていても何度も繰り返すタイプ?
 このあと、もしユジンが「私、同じ失敗は二度と繰り返さないタイプよ」なんて答えたら、「ウソつけ、バスの中で居眠りして遅刻ばかりしているじゃないかっ!」と皮肉られるところだろうが、会話は違う方向に続く。
ユジン:例えばどういうこと?
チュンサン: うーん、そうだなあ。例えば二度と会わないって決めたら、会いたくても我慢するか、また会いに行くほうか。
ユジン: 私ならたぶん、また会いに行くと思うわ。
チュンサン: どうして。
ユジン: 会いに行くのに理由なんて要る?
(このあと、チュンサンは再び父のキム・ジヌを尋ねて大学の研究室まで出かける)
 この会話の流れは、チュンサンが突然「同じ失敗を繰り返すタイプか?」と唐突な質問をした理由が、ユジンの性格を知りたかったためではないということを示している。チュンサンは父親のキム・ジヌに再び会いに行くべきかどうかずっと迷っており、ユジンが父親の思い出を語ったことからの連想で、何気なくユジンにアドバイスを求めた。「例えば」というのは遠回しの表現であって例示ではなく、本当に訊きたかったのは「再び会いにいくか、いかないか」についての判断であった。




 さて、以上の会話内容を韓国盤英語字幕でチェックしてみると、いくつか重要な違いがあることに気づく。
.....
チュンサン: Do you make a mistake and never repeat it, or do you keep making the same mistake, knowing it's wrong?
ユジン: I don't get it.
チュンサン: Let's say you've pledged never to meet someone, Would you stick to your promise, or meet him anyway?
ユジン: I would meet him.
チュンサン: Why?
ユジン: You want to see him, isn't that reason enough?
 英語字幕で著しく違う点は
  1. 「you've pledged never to meet someone」という部分。私の知る限りでは「pledge」というのは、自分自身が「決意した」というよりも「誰かに誓約した」、あるいは「誰かと固い約束をした」というニュアンスがあるように思う(**)。
  2. 「Would you stick to your promise, or meet him anyway?」という部分。上にも述べたが、「promise」という言葉が使われている以上、これや「決意」ではなく「約束」を意味する。また、ここでは、「someone」の対象が男性「him」であったことが明示されている。但し、公的な場での発言ではないから、「him」は「him or her」を省略したと考えることもできる。
  3. 次のユジンの「I would meet him.」も、会う人として男性を想定した場合の回答だ。但し、ここでは、一般論を述べているのであって、ユジンが10年後、これが最後だと決めてからもチュンサンに会いに行くことを暗示していると解釈するのは少々考えすぎかもしれない。
  4. 「You want to see him, isn't that reason enough?」という部分は、行動の「理由」について、日本語表現と英語表現の違いを端的に示していて興味深い。つまり日本語で「会いに行くのに理由なんて要る?」という時の「理由」は論理的根拠という意味。単に「〜したい」というような感情的な原因は「理由」とは見なされないという前提に立っている。この部分、英語表現のほうは、感情的原因も理由の1つでありそれだけで十分だという観点にたっている。
    なお、韓国語のことで最近たいへんお世話になっているsonoさんからの情報によれば、この部分の韓国語は
    「ポゴ シップンデ イユ ガ イッスルッカ?」( 会いたいのに 理由 が いるの?}だそうだ。感情的原因を「理由」に含めないという捉え方は、英語より日本語の表現に近い。
 韓国語オリジナルで以上の部分がどう語られていたのか、韓国語の詳しい方からご教示いただければ幸いです。




 なお、以上の会話は、第5話で、ユジンが無理にお酒を飲んで酔っぱらった場面への伏線としても使われている。この部分のセリフを日本語吹き替えと英語字幕で併記すると...(
ユジン:Do you never repeat a mistake? Or do you keep making the same mistake knowing it's wrong? ねえ、ミニョンさんは、一度間違えたら二度と繰り返さない人、それともダメだと思いながら繰り返す人ですか?
イ・ミニョン:Why do you ask? 何でそんなことを?
ユジン:Just curious. 何となく。
イ・ミニョン:I don't make mistakes, and especially not the same mistake. ボクは早とちりはあっても間違えたことは繰り返しません。
ユジン:I see. Then if you promise never to see a person again, would you go see him if you miss him, or stick to your promise? そうなんだ。それじゃあ、誰かにもう二度と会わないって決心したら、会いたくても我慢します?それともまた会いに行く?
イ・ミニョン: I'd stick to my promise.会わないでしょうねえ。
ユジン: I see. You're so different....But he looks so much like him. はぁー(溜息)、そうよねえ。全然違う。でもどうしてそっくりなのかなあ。
 じつはこの部分には少々ツッコミどころがある。なぜなら、第2話で、ユジン自身は「I would meet him. 私ならたぶん、また会いに行くと思うわ。」と答えているが、チュンサンはそこでは自分自身の意見を一切表明していない。その直後にチュンサンがキム・ジヌに会いに行ったことはユジンは知らないのだから、酔っぱらった場面でイ・ミニョンが「I'd stick to my promise.会わないでしょうねえ。」と答えたからといって、それをもってチュンサンとは全然違うと判断することはできないはずなのである。

 ちなみに、ユジンは「会わない」という約束や決意は時々破っているが、「会う」と決めた約束は絶対に守るべきであり、とりわけチュンサンは絶対にその約束を守る人だと考えていた。そのことは、イ・ミニョンがチュンサンであると分かった直後の会話に表れている。

2/25追記]『冬のソナタ上』(キム・ウニ&ユン・ウンギョン著 宮本尚寛訳)ISBN:4140054239) の138頁に記された会話内容は以下の通り
「理事は.....同じ過ちは二度としない方ですか? それとも、しないと思いながらもまたやってしまう方なんですか?」
...【中略】...
「なぜそんなことを訊くんですか?」ユジンの眼が半分閉じかかろうとしていた。
「僕は、失敗しても過ちは犯しません。同じ過ちは決して.....」
「あら、そうですか.....。じゃ、.....ある人に、二度と会わないようにしようと思ったら、会いたくても我慢しますか? それとも、また会いますか?」
「会いません」ミニョンはきっぱりと言った。
「そうかあ.....。本当に違うんだなあ.....本当に正反対だなあ。なのにどうしてあんなに似ているのかなあ.....」




**2/26追記]
韓国語のことでいつもお世話になっているsonoさんからいただいた情報です。
2話のチュンサンのセリフはこんな風です
「二度と会わないでおこうと、決心したら、会いたくても我慢する?それともまた会う?」
だから自分で決めたと言うことでしょうね!
因みに
 「決心」は漢字の韓国読みで、キョルシムと言います。日本語で、ケッ等「ツ」と読む漢字は、ほとんど「ル」と読みます。浴室=ヨクシル 、失礼=シルレ、結婚=キョルホン(つなげてキョロン)結婚の「コン」は「ホン」。。コレは韓国=ハングクと言うように、日本語で「カ行」で読むところをハ行で読むことも多いです。
いつもありがとうございます。