【思ったこと】 130117(木)質的研究・文化心理学の交差点:ヤーン・ヴァルシナー教授を迎えて(10)白井氏の話題提供(1)未来のじぶん像
1月16日の日記の続き。
3番目は、白井氏による、
●時間的展望からみた人生構築
という話題提供であった。白井氏と言えば、3年前の日本心理学会第73回大会で、
●人生はどのように立ち上がるのか−時間論の視点から−
というお話を拝聴したことがあり、大変勉強になった。その時のメモ・感想を再掲すると、
話題提供ではまず、自己の連続性というのは作り出されるものであること、つまり「自己は固定した一貫したパーソナリティをもつ存在ではなく、時間経過のなかで変化していく存在である」ということが強調された。にもかかわらず我々は、なぜ「変化する自分」を同じ人間であると受けとめるのであろうか。白井氏はこのことについて、Pasupathiの論文を引用しながら「自己と出来事との関連づけ」、すなわち、「語られた出来事と自分自身との結びつきを特性、特徴、興味といった同じタイプで引き出す語り」がアイデンティティをもたらしていると主張された【Pasupathi,Mansour & Brubaker, 2007, Humam Development誌】。なお、白井氏は、「人生の8割は偶然」という言葉も引用しておられたが、どなたの言葉であったか失念してしまった。ネットで検索した限りでは「計画的偶発性理論」のクランボルツ教授が似たような主張をされているようであるが、そのことだったかどうか確証はない。
白井氏のもう1つの重要な論点は「回顧だけでなく予期も重視する」ことにある。Pasupathiは、回顧を重視して自己の連続性をとらえようとしたが、これだけでは事後的な説明に終わってしまう、必要なことは、前方視的(prospective)な見方である。これは、過去→現在→未来という直線的な流れで捉えようとする単純なものではない。ナラティブというのは、単なる過去の物語ではなくて、予期されるものと予期されないものとの緊張の中に生まれる(森岡,2008,金剛出版)というのである。確かに、我々は、単に懐かしさを求めるために回顧をするわけではないし、また常に予期をしながら行動していく。「予期せぬ出来事と予期どおりの出来事が生起することで、回顧や展望が立ち上がり、その都度、連続性が作られていく」という御主張はまことにもっともであると思う。
ここで少々脱線するが、最近、Science誌に
●The End of History Illusion
という面白い論文があることを知った(Jordi Quoidbach, Daniel T. Gilbert, & Timothy D. Wilson. Science 4 January 2013:Vol. 339 no. 6115 pp. 96-98.。岡大の学内からであれば電子版の閲覧可能)。以下はその要約部分と長谷川による意訳。
We measured the personalities, values, and preferences of more than 19,000 people who ranged in age from 18 to 68 and asked them to report how much they had changed in the past decade and/or to predict how much they would change in the next decade.
18歳から68歳までの19000人以上を対象に、パーソナリティ、価値観、好みを測定し、さらに、その内容が10年前と比べてどう変容したか、また、10年後にどう変容すると予想しているかを報告してもらった。
Young people, middle-aged people, and older people all believed they had changed a lot in the past but would change relatively little in the future.
若者、中年、高齢者いずれも、今の自分は過去から大きく変わったと信じている一方、将来については相対的にみてそれほど変わらないと予想していた。
People, it seems, regard the present as a watershed moment at which they have finally become the person they will be for the rest of their lives. 【以下略】
人々は、常に、「いま」を分岐点として見なして、その「いま」から先の残りの人生が完成された形として不変であるというように考えている。【以下略】
ということで、もともと、過去よりも未来のじぶん像のほうが、より、連続性が高いという特徴を持つようである。
なお、上掲の論文の著者の一人、Daniel Gilbertは、TED Talksでも有名。
次回に続く。
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