じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 コバンソウ(小判草)の実。大学構内各所に生えている。


2014年7月6日(日)

【思ったこと】
140706(日)長谷川版「行動分析学入門」第12回(1)阻止の随伴性(1)

 この授業で取り上げる最後の話題は「阻止の随伴性」です。まず、初めにお断りしておきますが、これは行動分析学の研究者の間で必ずしも100%受け入れられている概念というわけではありません。じっさい、マロットによる入門書や、その日本語版(杉山ほか, 1998)以外では、阻止の随伴性を扱ったものはきわめて少なく、全く言及していない入門書も多数あります。また、2011年の日本行動分析学会の第29回年次大会においても、

●許可の随伴性・阻止の随伴性・ルール支配行動:青年・成人臨床事例からの再考

というシンポジウムで討論が行われており、まだまだ論点が多いという現状です。

 「阻止の随伴性」概念は、マロット先生が佐藤方哉先生との交流の中で定式化したものというのが通説になっています。しかし、スキナー自身もそれに近いアイデアを持っており、1979年の慶應義塾大学における講演「The Non-Punitive Society(罰なき社会)」で論じられている「罰」概念の大部分は、後述する「好子消失阻止」や「嫌子出現阻止の随伴性」による強化のことを意味しており、この「阻止の随伴性」の概念なしに、やりたいこととしなければならないことを区別することは困難であろうとも思われます。

 阻止の随伴性概念を説明するにあたっては、「手続的定義」と「制御変数的定義」について留意することが必要です【こちらの1.6.及び、刺激弁別(6)手続的定義と制御変数的定義参照。】。要するに、「阻止の随伴性」という概念があるかどうかという議論においては、
  • 論理的な組み合わせから言えば、「阻止の随伴性」という概念は100%成立する。よって、「阻止の随伴性」という手続的定義は妥当。
  • しかし、「阻止の随伴性」に晒された人間や動物は、別の随伴性によってこの事態に対処している可能性がある。よって、制御変数を別に同定する必要がある。
ということになります。

 前置きが長くなりましたが、以上をふまえて、もう一度、4通りの基本随伴性から定義し、その上で、手続的定義の上での「阻止の随伴性」の正当性を論じることにしたいと思います。まず、これまでのところで、4通りの基本随伴性は、
  • 好子出現の随伴性:【   】→行動→【好子出現】
  • 嫌子出現の随伴性:【   】→行動→【嫌子出現】
  • 嫌子消失の随伴性:【嫌子あり】→行動→【   】
  • 好子消失の随伴性:【好子あり】→行動→【   】
というように定義してきました。(【   】は何も無いという意味)

 これらの随伴性はいずれも、行動をするとその直後に何らかの環境変化(モノや出来事の出現または消失)が生じるという点で共通しています。しかし、実はその裏には、

行動しなければ何の環境変化も起こらない

という前提があるのです。例えば、好子出現の随伴性は、行動する場合と行動しない場合をセットにして定義すると、
  • 【   】→行動→【好子出現】
  • 【   】→行動しない→【   】
となります。ここでもし、
  • 【   】→行動→【好子出現】
  • 【   】→行動しない→【好子出現】
というように、行動してもしなくても同じ頻度で好子が出現したとすれば、行動するだけ無駄ということになり、省エネの法則により、行動は起こりにくくなると思われます。例えば、賃金が好子となって労働している人は、宝くじで大金が手に入ればもはや労働しなくなるでしょう。【※働くこと自体が楽しみになっている人は働き続けるでしょう。】

 さて、行動の有無と、好子出現の有無については、上記以外にも次の2通りの組み合わせが論理的に存在します。1つめは、
  • 【   】→行動→【   】
  • 【   】→行動しない→【   】
というものです。この場合は、行動しても行動しなくても何も変化が起こりません。これが無強化の状態です。なお、すでにご説明したように、行動が強化されていたあとで、無強化に移行した場合は、「消去」の操作に相当します。

 そして、残るもう1つの組み合わせが、
  • 【   】→行動→【   】
  • 【   】→行動しない→【好子出現】
というものです。この場合、行動しなければやがて好子が出現するのに、行動してしまうとせっかくの好子が出現しなくなってしまいます。これが、「好子出現阻止の随伴性」です。

次回に続く。