じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
【思ったこと】 140720(日)長谷川版「行動分析学入門」第13回(10)人間と社会に関する諸問題(10)競争原理の功罪 今回は、「競争原理」について考えます。まず辞書的な定義は、
もっとも行動分析学的に見れば、競争原理は単一の原理ではなく、いくつかの行動随伴性の複合体であると考えられます。その基本は、
ということで、競争原理自体が、良いとか悪いとかいった議論は無意味です。その是非は、
まず、スキルアップのために競争を設定するのであれば、努力を重ねることのできる機会をちゃんと設定する必要があります。例えば、小学校の運動会でリレー競走を行い、優秀チームを表彰するという場合は、運動会までの何ヶ月ものあいだ、各チームにしっかりと練習してもらうことが大切です。何の事前練習もなしに、本番で順位をつけるだけに終わってしまったら、「あのチームには足の速い子がいたから勝てた」と思われるだけで、努力することの意義を学ぶことができず、スキルアップにもつながりません。 次に、競争というのは、勝者ばかりでなく、必ず敗者を生み出します。敗者が再チャレンジできるように、もしくは別の道に進んで新たなチャレンジができるように、機会を保障していくことが必要です。 3.に関しては、参加者全員のレベルの底上げが目的なのか、それとも参加者の一部のエリートのレベルアップが目的なのかを明確にする必要があります。例えば、大学で、TOEICの最高点獲得者を表彰し、海外留学のための奨学金を支給するという制度を作ったとします。何%かのエリート学生は、それを目ざして競争するでしょうから、この制度やレベルアップとして有効です。しかし、残りの90%は、どうせ頑張っても無駄だという状態に取り残されてしまい、なんの強化効果もありません。学生全員の英語力の底上げのためには、この制度は無力となります。この場合は、個々人すべてにおいて、TOEICのスコアを高めることが強化されるような別の随伴性(例えば、一定以上のスコアをとれば単位認定)を設定する必要があります。 4.に関しては、とりわけ、結果オーライ型の競争では、裏技や抜け道を防ぐ手立てが必要です。過去に何度も摘発されているような事件、例えば、スポーツ選手の筋肉増強薬物使用、試験中のカンニング、不正投票などがこれにあたります。 まとめると、競争原理自体には良い、悪いはありません。どのような行動随伴性が関与しているのか、どのような行動を強化しようとしているのか、敗者にどう配慮するのか、想定外の行動が強化される恐れはないのか、などに留意しながら、適切に導入していく必要があります。 次回に続く |