じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 7月20日、気象庁は、中国地方と四国地方が梅雨明けしたとみられると発表た。ところが、岡山では15時頃になって黒い雲に覆われ、1時間に46ミリ(15時台の雨量としては全国トップ)という大雨になった。梅雨明け宣言に惑わされて、自宅のガラス戸を開けっ放しにしていたため、室内まで雨が入り込んで、室内の絨毯などがびしょ濡れになってしまった。

 写真は15時10分頃の大学構内の様子。舗装道路も一面水浸し。写真右は、雨雲の様子。



2014年7月20日(日)

【思ったこと】
140720(日)長谷川版「行動分析学入門」第13回(10)人間と社会に関する諸問題(10)競争原理の功罪

 今回は、「競争原理」について考えます。まず辞書的な定義は、
  • 大辞泉: 個人または集団が、必要とするものを獲得するために他者と競い合い、勝者が獲得できるとする、優勝劣敗の競争を受容する考え方。誰でも平等に競争に参加できる自由競争を市場や経済活動などの基本とする考え方で、資本主義の基本原理の一つとされる。また、能力主義や管理主義の根底をなす原理とされる
  • ウィキペディア
    競争原理(きょうそうげんり)とは経済学用語の一つ。個人や集団に必要とするものが存在しており、それの数が限定されているならば、それを獲得するために大多数は競争を行い競争に勝った者のみがそれを獲得できるようにするという概念。この方法で社会が運営されて行くならば、成功への可能性は万人に平等に与えられているということであり、努力した者こそがより良い地位や財産を得られるわけである。これは資本主義の基本原理の一つである。
などとなっています。上記ではいずれも、経済学の原理として説明されていますが、お金やモノ以外、例えば、スポーツ、将棋や囲碁、受験勉強などにおいても同様の原理が働くと考えられます。

 もっとも行動分析学的に見れば、競争原理は単一の原理ではなく、いくつかの行動随伴性の複合体であると考えられます。その基本は、
  1. 競争により勝利したり、上位に立つことによって、栄誉や賞金、地位といった好子が与えられる【好子出現による強化の随伴性】
  2. いったんチャンピオンになった者がその状態を維持し続けるためには、努力を継続しなければならない。努力しなければそれらの好子を失う【好子消失阻止による強化の随伴性」
という2つの随伴性です。獲得できる価値資源が限られており【順位付けも、上位だけが表彰されるという点で同様】、複数の参加者があり、相対的比較が可能であれば、競争原理が成り立ちます。いっぽう、
  • 資源が事実上無限にあり容易に手に入る。【例えば、地球上の酸素。但し、高所や宇宙空間は別。】
  • 獲得対象が好子として機能していない。【例えば、勝ち負けにこだわらないような親睦目的の競技大会】
  • 努力の質や量が反映しない。行動してもしなくても、獲得できる可能性が変わらない。【例えば、単なるくじ引き】
というような場合は、競争原理は働きません。

 ということで、競争原理自体が、良いとか悪いとかいった議論は無意味です。その是非は、
  1. それがどのような行動を強化するのか
  2. 競争に敗れた者への配慮があるか。
  3. エリート養成なのか、底上げが目的なのか
  4. 想定外の行動(裏技や抜け道)を強化していないか。
などによって総合的に判断されます。

 まず、スキルアップのために競争を設定するのであれば、努力を重ねることのできる機会をちゃんと設定する必要があります。例えば、小学校の運動会でリレー競走を行い、優秀チームを表彰するという場合は、運動会までの何ヶ月ものあいだ、各チームにしっかりと練習してもらうことが大切です。何の事前練習もなしに、本番で順位をつけるだけに終わってしまったら、「あのチームには足の速い子がいたから勝てた」と思われるだけで、努力することの意義を学ぶことができず、スキルアップにもつながりません。

 次に、競争というのは、勝者ばかりでなく、必ず敗者を生み出します。敗者が再チャレンジできるように、もしくは別の道に進んで新たなチャレンジができるように、機会を保障していくことが必要です。

 3.に関しては、参加者全員のレベルの底上げが目的なのか、それとも参加者の一部のエリートのレベルアップが目的なのかを明確にする必要があります。例えば、大学で、TOEICの最高点獲得者を表彰し、海外留学のための奨学金を支給するという制度を作ったとします。何%かのエリート学生は、それを目ざして競争するでしょうから、この制度やレベルアップとして有効です。しかし、残りの90%は、どうせ頑張っても無駄だという状態に取り残されてしまい、なんの強化効果もありません。学生全員の英語力の底上げのためには、この制度は無力となります。この場合は、個々人すべてにおいて、TOEICのスコアを高めることが強化されるような別の随伴性(例えば、一定以上のスコアをとれば単位認定)を設定する必要があります。

 4.に関しては、とりわけ、結果オーライ型の競争では、裏技や抜け道を防ぐ手立てが必要です。過去に何度も摘発されているような事件、例えば、スポーツ選手の筋肉増強薬物使用、試験中のカンニング、不正投票などがこれにあたります。

 まとめると、競争原理自体には良い、悪いはありません。どのような行動随伴性が関与しているのか、どのような行動を強化しようとしているのか、敗者にどう配慮するのか、想定外の行動が強化される恐れはないのか、などに留意しながら、適切に導入していく必要があります。

次回に続く