じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 アテネやエーゲ海の島々でセミの鳴き声を聞いた。日本にいるクマゼミとニイニイゼミの声を合成したような声に聞こえた。低い枝にも止まっており、かなり近づいても逃げなかった。写真左は、アテネ・プラカ地区のオリーブの木にとまるセミ。写真右はクレタ島の松の木に止まっていたセミ。昆虫記の著者ファーブルがかつて騒音に悩まされたというフランスのセミもこれと同種かもしれない。



2014年8月23日(土)

【思ったこと】
140823(土)2014年版・高齢者の心と行動(5)

 今年度版の講演草稿の続き【以下、ですます体】

 さて、本題に戻ります。冒頭、「能動的に行動し、それに見合った成果を達成する」ことがHappinessの必要条件であろうというお話をしましたが、「能動的な行動」とはどういう行動をいうのでしょうか。ここでは時間が限られていますので、以下の3点に絞ってお話しします。
  1. 行動にはレスポンデント行動とオペラント行動があり、「能動的な行動」はオペラント行動に関する話題である。
  2. 「能動的な行動」は「したいからする行動」の一種であり、対義語としては「しなければならない行動」がある。但し、行動それ自体が二分されるわけではない。同じ行動であっても、それがどのような枠組み【行動随伴性】のもとで行われるのかによって、「したいからする」とも「しなければならないからする」のいずれにもなる。
  3. 「能動的な行動」、「自由な行動」、「思い通りになる」について考えてみよう。
 まず1.ですが、そもそも、人間を含む動物は、行動することで環境に適応するという特徴を持っています。その適応方略は大きく分けて次の2つです。
  • レスポンデント行動:環境変化をあるがままに受け止め、それに適応できるように身体を調整する行動。
  • オペラント行動:みずから環境に働きかけ、環境を変化させたり、変化を食い止めたりするような行動。
 レスポンデント行動に分類される行動としては、例えば、
  • 暑い時には、汗を出す。
  • 寒い時に、鳥肌がたつ。
  • 有害な物質を吸い込んだ時に、くしゃみや咳をする。
  • まぶしい光が当たった時には瞳孔が収縮する。
  • 食物が口に入った時に唾液を分泌する。
といった行動が挙げられます。行動といっても、主として体の調整のための行動ですから、動きとして観察される行動はあまり多くありません。それゆえ、「行動」ではなく、「反応」とか「反射」と呼ばれることもあります。レスポンデント行動を体系的に研究したのはロシアの生理学者、パブロフです。但し、 「レスポンデント」という名前はスキナーが発明したものであって、パブロフの本にはそのような用語は出てきません。パブロフの研究では、「レスポンデント」に変わって、「無条件反射」、「条件反射」が基本用語となります。

 いっぽう、脊椎動物などでは、2.のオペラント行動、つまり、みずから行動して自分の都合のよいように環境を作りかえたり、餌をとったり、縄張りを作ったり、といった行動が見られるようになります。つまり、成果が得られるような行動を増やす一方、やってもムダな行動は中止していくという方略です。レスポンデント行動が特定の刺激によって受け身的に誘発されるのに対して、オペラント行動は、特定の刺激が無くても勝手に自発されます。その行動は、行動直後における環境変化によって、それ以後の生起確率を増減させていきます。これをオペラント条件づけと呼び、行動が増えたり高頻度で起こり続けることを「強化(きょうか)」、また行動が減ったり、低頻度の状態を保つことを「弱化(じゃっか)」と呼びます。なお、行動しても何の変化も起こらない場合、その行動の生起確率はゼロに近い状態のままとなります。これを「無強化(むきょうか)」、また文脈によっては「消去(しょうきょ)」と呼びます。
 ここで重要な点は、行動分析学では、行動の原因を自由意志などの内部要因に求めていないという点です。それに代えて、
  • レスポンデント行動が活発に起こっているとしたら、それを誘発している刺激(無条件刺激または条件刺激)が必ずあるはずだ。
  • オペラント行動が活発に起こっているとしたら、それは、その行動が強化されているためだ。
という外部要因に注目していきます。このことからさらに、
  • 望ましい行動がうまく起こっていないとしたら、それは、その行動がちゃんと強化されていないためだ。うまく起こるようにするためには、その行動をどうやって強化していくのかを計画、実行すべきである。
  • 問題行動がたくさん起こっているとしたら、それは、その行動が何らかの形で強化されているためである。よって問題行動を減らすには、【自傷行動や薬物依存など】緊急な対処方法が必要な場合には弱化【通常、「罰」とか「ペナルティ」と呼ばれます】の手続、根本的な解決のためには、問題行動を強化している要因を取り除くことが必要である。
という発想につながります。

次回に続く。