【思ったこと】 140824(日)2014年版・高齢者の心と行動(6)
今年度版の講演草稿の続き【以下、ですます体】
行動分析学では、オペラント行動が増えたり減ったりする原因を、その前後の環境変化に求めていきます。ある個体をとりまく環境要因は無限に近いほど多種多様でありすべてを数え上げることはできませんが、行動の直前と直後を比較し、
- 何かが新たに付け加わった場合は、「○○が出現した」(人為的な付加の場合は「○○を提示した」)
- 何かが消え去った場合は、「○○が消失した」(人為的に消失させる場合は「○○を除去した」)
と表現します。ここでは、出現したり消失したりするモノや出来事や条件などを【 】の中に記し、行動を真ん中に挟んで以下のように表すことにします。
【 】→行動→【 】
いくつか例を挙げてみます。
- Aさんの家を訪れたらポチという名前の犬が出てきた。
【 】→家を訪問する→【ポチ】
- 美術館を訪れたら、お気に入りのピカソの絵があった。
【 】→美術館訪問→【ピカソの絵】
- ストーブに火をつけたら寒くなくなった。
【寒さ】→ストーブに火をつける→【 】
- エアコンのスイッチを入れたら、涼しくなった。
【暑さ】→エアコンのスイッチon→【 】
- 団扇で扇いだら、涼しくなった。
【暑さ】→扇ぐ→【 】
上記いずれの場合も、何かが出現する前の状態、あるいは何かが消えたあとの状態は、【 】で表します。但し、それらは、環境全体が質量ゼロの真空になったということではなく、行動の前後を比較した時の差分を意味していることにご注意ください。
また、上記の例にも見られますように、何かが出現したり消失したりするということは、行動する人(当事者)の私的出来事として記述されています。
- 上記1.の場合であれば、玄関にポチが出てきたということは「ポチが出現した」という客観事象になっています。しかし、2.のピカソの絵は、美術館に最初から展示されており、美術館スタッフから見れば、何も出現していません【出現したのは、見学者である当事者のほうです】。
- 上記3.の場合は、「寒さ」は消失していますが、物理学的には、室内の温度が上がっていることから見て、熱エネルギーが付加されています。
- 上記4.の場合は、「暑さ」が消失することと、室内の熱エネルギーが除去されていることは同義ですが、上記5.の場合は、団扇で扇いでも室内の温度が下がるわけではありません。扇いでいる人の皮膚表面から熱が放散しているだけです。
ということで、行動分析学でいう「出現」や「消失」は明らかに物理学とは異なっており、行動している人を主体とした「私的出来事」になっています。とはいえ、「私的出来事」といっても、主観的現象とは異なり、その生起頻度や程度は客観的に観察することができます。美術館を訪れたかどうか、ピカソの絵があるかどうか、ストーブやエアコンで室温がどう変化したか、団扇を何回扇いだか。団扇を扇ぐことで皮膚表面の温度はどうなったのか、などはすべて客観的に測定が可能です。
以上にご留意いただいた上で、行動の前後の環境変化をもとに、オペラント行動がどのような場合に増えていくのか【強化されるのか】を考えてみましょう。その仕組みは4通りありますが、その前に、好子(コウシ)、嫌子(ケンシ)を定義しておく必要があります。時間が限られていますので、ここでは、
- 好子:あなた自身が欲しがっているモノ、あったら嬉しいような出来事、条件などを思い浮かべてください。美味しいお菓子、食べ物、お金、家、車、旅行、他者からの感謝、花、健康状態など何でも結構です。
- 嫌子:あなたにとって嫌なモノや出来事、条件などを思い浮かべてください。苦痛、暑さ、寒さ、嫌いな動物、騒音、など何でも結構です。
を思い浮かべてください。
次回に続く。
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