じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 高校駅伝の中継所として知られる京都・烏丸鞍馬口界隈。かつてこの近くに12年ほど暮らしていたことがあり、駅伝中継の放送では、選手よりもこのあたりの沿道の風景に目が向いてしまう。



2014年12月21日(日)

【思ったこと】
141221(日)駅伝やマラソンランナーに双子選手が多いように見える理由

 12月21日(日)は、京都で、午前中に女子、午後に男子の高校駅伝が行われた。残念ながら岡山代表の選手の成績はイマイチであったが、それぞれのチームの健闘ぶりと、かつて暮らしていた懐かしい沿道風景(特に、烏丸鞍馬口付近と、百万遍界隈)を楽しませていただくことができた。

 さて、今回、女子駅伝で優勝した大阪・薫英女学院では、主将を務める加賀山実里選手と、アンカーの恵奈選手の双子姉妹が注目を集めた。新聞記事によると、
2人は中学で一緒に陸上を始め、「全国大会に出場したい」と大阪薫英件女学院に進学した。毎朝午前4時半に起き、放課後の練習を終えて帰宅するのは午後8時ごろだ。1日の大半を一緒に過ごす仲の良い姉妹だが、陸上はタイムで比較される。いつも、抜きつ抜かれつ。一方だけが大会に出場したり、決勝レースに残ったりしたこともあった。
と記されており、まずは、ふだんの並々ならぬ努力が実を結んだことを称えるべきであると思うが、双子のきょうだいということが何かプラスに働いたのではないか、あるいは、双子のきょうだいは、長距離ランナーの素質を獲得しやすいのか、ということがどうしても気になってしまう。

 じっさい、駅伝では中学3年の時に全国都道府県対抗女子駅伝競走大会で京都府代表に出場、した久馬姉妹(一卵性双生児)、さらに、箱根駅伝で活躍した設楽兄弟(二卵性双生児)、村山兄弟(別々の大学で双子対決を実現)、このほかこちらの記事には清水兄弟のほか、
日体大の坂本亘と充兄弟は1978年から3年連続出場、78年は復路6区、8区で起用され区間賞、総合優勝。80年には9区、10区で、兄から弟への直接タスキ渡しが行われ、それぞれ区間賞も獲得し、総合優勝。82年には大東大の大隈重信、広基が復路の8区、9区を走り、重信が区間3位、広基が2位だった。97年に専大の小栗一秀が6区で区間1位、康良が10区で区間13位だった。最近では3年前の00年、関東学院大の武生(たきゅう)健治、康志が往路の4区(11位)、5区(8位)で直接リレーした。
といった記述がある。また、私自身にとっては、かつての宋兄弟(一卵性双生児)の大活躍が強く記憶に残っている。

 では、双生児は長距離競走に適した素質を持ちやすいのか? といってもこれを裏付ける資料は何も無いので、私には肯定も否定もできない。しかし、「双子のランナーが多い」と錯覚するような心理学的要因はいくつか思い浮かべることができる。

 まずは、「駅伝の選手に選ばれる確率はきわめて小さい。」、「双生児はめったに生まれない。」という希少性が掛け算されて、「ある人が双生児に生まれて、かつ、駅伝の選手に選ばれる確率はきわめて小さいはずなのに珍しいことだ」という錯覚が生じてしまうことである。ちなみにウィキペディアには、双生児の出現頻度は、
 双生児の出生頻度は人種により違いがあり白人種は1/80から1/120、黒人種では1/50以上といわれる。日本における双生児の出生頻度はかつては1/150から1/160の低い水準で安定していたが、1987年以降は双生児の出生頻度は大きな変動が続いている。一卵性双生児の出生率は地域・民族・時代に関わりなく一律0.4%であり、双生児出生率の人種間の差や近年の日本の双生児出生頻度の変動は主として二卵性双生児の出生頻度に因るものである。

 日本の双生児出生頻度は1000組中、1974年頃は6組を少し下回る程度だったが、2003年には10組を上回った。日本の一卵性双生児出生頻度も1974年から2003年の30年間において1000組中4組前後で安定しているため、この出生頻度の変化は二卵性双生児の出生率の変動による影響が大きい。特に人工授精の導入による影響は大きく、体外受精の導入によって双生児の出生率は導入前の6割増になったと言われる。ただし1996年から日本産婦人科学会が胎内に戻す受精卵数を制限を開始し、現在は日本の双生児の出生率は2005年をピークに低下傾向にある(現在の産婦人科学会の指針では原則として、胎内に戻す受精卵は一つと定められている)。
と記されており、これによると、日本人の一卵性双生児が生まれる頻度はおおむね250回に1回、二卵性双生児を合わせた誕生回数はピークの2003〜2005年で100回に1回くらいとなっているようである。よって、例えば今回の女子高校駅伝の場合は47都道府県×5区で235人の選手が出場しておられるので、1組や2組の双子選手が出場しても特に多いとは言えないことが分かる。あとは、その双子選手がメディアで注目されやすい分、「双子選手が多い」と錯覚してしまうことになる。

 このほか、年齢が同じであることも重要である。双生児は同じ日に生まれてくることからして、当然、同じ学年となる。活躍できる年も同じ年になるので、同時に注目されやすい。このことが「双子のきょうだいが活躍している」として注目されやすい。年齢の離れたきょうだいが別々の年に活躍しても、それほど注目されることはないだろう。

 以上に加えて、遺伝的、環境的要因の共通性ももちろんあるとは思う。

 第1は、きょうだいのあいだの素質の共通性。特に一卵性双生児の場合、遺伝的にみて、体質や体格はきわめて似ているはずである。よって、きょうだいのうちの1人が駅伝の選手に適した素質を持っていれば、もう1人もそれに近い素質があるはずなので、2人とも代表に選ばれる確率はきわめて高くなる。もちろん、きょうだいが2人とも駅伝には向いていない体質ということもありうる。この場合は、メディアも取り上げないので、かりにそのような事例がたくさんあったとしても「双子の選手は駅伝の代表に選ばれにくい」というような逆の錯覚を引き起こすことはない。

 第2は、生育環境の共通性。ふつう、同じ家庭環境のもとで育つ。このことによって、住居や自然環境はもとより、親の教育方針、収入などもほぼ同一の影響を与える。それゆえ、得意とするスポーツも同じ種目になりやすいことが考えられる。さらに、いったん同じスポーツを始めれば、お互いがライバルとなり、切磋琢磨してますますスキルが向上する。他のきょうだいとは違うスポーツを始めた場合に比べると遙かに上達しやすい環境にあるとは言えよう。

 以上をまとめると、「駅伝やマラソンランナーに双子選手が多いように見える」の理由としては、まずは、注目されることによる確率の見積もりの過大視、それ以外に考えられるのは、同じ年齢であるために同じ年に活躍しやすいこと、さらに遺伝的・環境的な共通性などを挙げることができるだろう。