じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



11月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

 津島東キャンパスC棟南にある南極蜂の巣岩とケヤキの紅葉。
tr>

2016年11月20日(日)



【思ったこと】
161120(日)関係反応についての講義メモ(14)弁別、オペランダムの定義(2)

 昨日の続き。佐藤先生も執筆者となっている、

杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャードW. マロット・マリア E. マロット(1998). 行動分析学入門. 東京:産業図書.

の173頁では、「弁別訓練手続」と、「刺激弁別(=刺激性制御)」が以下のように定義されていた。
  • 弁別訓練手続:Sが提示されている時には、ある特定の行動を強化または弱化し、SΔが提示されている時にはその行動を消去または復帰させること
  • 刺激弁別(刺激性制御):弁別訓練手続を行った結果、Sの下では行動が起こり、SΔの下では行動が起きなくなること

 ここで重要なことは、弁別訓練手続において、Sのもとで強化または弱化が行われることと、SΔのもとで消去または復帰が行われることがセットになっている点である。すなわち、これらのセットの結果として行動の生起頻度に違いが生じた時に初めて刺激弁別(刺激性制御)が成立したと見なされている。

 では、なぜSΔのもとでの消去または復帰が必要となるのだろうか。このことに関連しているのがオペランダムという概念である。

 上掲の杉山ほか(1998、185〜186頁)では、「オペランダム」は以下のように定義されている。

オペランダム
  • 人間や動物が操作する環境の一部
  • は強化の機会と結びついている。オペランダムは反応の機会を与える。

 杉山ほか(1998)では、スキナー箱の中でネズミがレバーを押すという例が挙げられている。スキナー箱の中のライトが点灯している時にレバーを押すと餌が提示され、ライトが消えている時にはレバーを押しても餌が出ないという訓練を行うと、ネズミは、ライトが点灯している時のみレバーを押すようになる。この場合、Sはライト点灯であり、SΔはライト消灯ということになる。いっぽう、レバー自体はいつでも押すことができる。

 この場合、レバーはSとは言えない。弁別訓練手続の定義に基づけば、レバーがSになるためには、レバーが存在している時にレバー押し行動を強化するとともに、レバーを取り除いたスキナー箱の中で、レバー押し行動を消去する必要がある。しかしこれは物理的に不可能である。いっけん、レバーを取り除けばレバー押しができないので消去されるのではないかと思ってしまうが、これは消去の定義を取り違えている。オペラント行動における消去というのは、「オペラント行動が起こる→無強化」が繰り返されることが絶対条件であって、レバーを取り除いてしまったのではレバー押し行動自体を起こす機会が奪われてしまうので強化も消去もあり得ないからである。

 弁別訓練手続の中の「SΔのもとでの消去または復帰」という部分を削除してしまうと、何も訓練しなくても、最初から弁別ができてしまうというパラドックスに陥る。例えば、ピアノのある部屋ではピアノを弾くが、ピアノの無い部屋ではピアノは弾けないが、これも、「ピアノというSの下では行動が起こり、ピアノが無いというSΔの下では行動が起きなくなる」ので、弁別ができているということになってしまう。(本当は、単に、ピアノが無い場所ではピアノを弾けないというだけ。)

 なお、上掲のスキナー箱のレバーの話題のところで、スキナー箱の中に回転カゴがあったとして、回転カゴを一定回数回せば餌が貰えるという訓練をしたとする。その際に、反対側の壁からレバーが突き出したり引っ込んだりする仕掛けになっていて、レバーが突きだしている時に限って回転カゴを回せば餌が出るが、レバーが引っ込んでいる時にはいくら回転カゴを回しても餌は出ないとすると、この場合のレバーは当然Sになる。レバーは、レバー押し行動のオペランダムではなく、単に、回転カゴを回す行動の手がかりにすぎないからである。


 次回に続く。