じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 農学部農場の梅の花。いろいろな品種があり、開花時期もずれている。今年は、全く花をつけていない樹もあり(←枯れてしまった?)、やや寂しい花見となった。

2017年2月26日(日)



【思ったこと】170226(日)オドノヒュー&ファーガソン『スキナーの心理学』(11)第3章スキナーの背景(5)マッハ(2)

 昨日取り上げた「マッハが影響を与えた論点」のうち、原因に関する記述についてもう少し考えてみたい。まず、関連部分を原書の英文とともに抜粋する。【長谷川による要約、改変あり。】
  • 科学者が追求する因果関係というのは事物間の関数関係の追求にすぎないとするヒュームと同一の見解に立っている。
    ...when scientists search for causes they are really looking for functional relationships between variables.
  • 原因という概念は隠喩的で表層的なものでしかない。科学の枠組みの中では原因ということばは否定されるべきだ。原因と結果ということばを純粋に表現するならば、2組の現象の中に存在する相互の関連的変化、もっと簡単に言えば、2つの変数間に存在する関数式ということになる。
    Most thinkers Mach, conceive of a cause as pushing or pulling to produce its effects; but such a notion of cause is metaphorical, superfluous, and to be rejected in scientific formulations. Instead Mach advocated a purely descriptive notion of cause and effect as correlated changes in two classes of phenomena, a correlation that could be represented concisely as the functional relation between two variables in a mathematical equation,
  • 科学は因果関係の追求をすべきであるが、その関係は変数間の関数関係としてとらえるのがベストである。
    ... science should search for causal relations but argued along Machian lines that causal relations could best be conceived as functional relationships between variables.

 上記の記述、あるいは本書の関連記述を素直に受け入れると、科学の目的は、量的なデータを丹念に集めた上で、y=f(x)というような関数関係の発見と定数の精緻化にあるように思ってしまう。じっさい、私が学部卒論の頃に取り組んでいた「対応法則(matching law;Hernstein, 1961)」に関する議論の中では、関数の型や定数項についての研究が少なからずあったように思うが、私自身は、大学院進学後はその方面の研究には興味を失い、別の課題に取り組むようになった。理由は、いくら関数式を精緻化しても、そのこと自体が何かに役立つとは到底考えられなかったからである。また、長谷川(1998)が、
...いくら独立変数の他を細切れに設定したとしても、その隙聞の部分で従属変数がどのような値をとるか、つまり直線的に変化するか三角関数のように揺れ動くかといった可能性は無数にある。関数の質について何らかの理論的裏付けがない限りは、笑験データだけから帰納的に関数関係を決定することは原理的に不可能でレあると言わねばならない。
という根本的な問題がある。

 ということで、「functional relationships」は量的に精緻化された「関数関係」というよりも、行動と、それに増減に影響を及ぼす環境変数との「機能的関係」を明確にすることを研究の目的とすべきであるというのが私の考え。じっさい、本書の「In fact, in applied behavior analysis, an important part of understanding what causes an organism's behavior is conducting a functional analysis. 」という部分は、翻訳書では「応用行動分析では、何が生活体の行動の原因であるかを理解する重要な部分は機能分析だとしている。」となっていて、「functional analysis」は「関数分析」ではなく「機能分析」と訳されている。「機能分析」では、量的な関数関係ではなく、どのような要因が影響を及ぼしているのかといった「質的」な探索が重要となる。もちろんある程度の量的関係は明らかにする必要があるが、せいぜい、
  • 複数の要因が影響を及ぼしている場合、それらは独立しているか、相互作用として影響しているのか。
  • 複数の要因の影響の大きさは、どちらが優位か。
  • どの範囲で影響を及ぼすのか。
  • 単調な増加(現象)をもたらすか。山型(上に凸)か谷型(下に凸)のような関係か。
程度が判明すればよい。それ以上の細かい量的関係は、殆ど無意味であり、じっさい、一般式を持ち込んでも、個体差が大きすぎて意味をなさないように思う。

 次回に続く。