じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 8月13日(日)の岡大構内は閑散としており、文学部西側駐車場に駐められていた車はわずか2台となっていた。


2017年8月13日(日)


【思ったこと】
170813(日)人工知能のIQは1万になるか?

 ネットで検索中、著名な実業家が2015年10月に行われた講演の中で、「人間のIQの平均値は100で、200もあれば天才とされる。ところがコンピューターの人工知能は、今後30年ほどでIQが1万に達する。」と語ったという記事が目にとまった。

 講演の趣旨は、人間の知的作業力の100倍に相当するような人工知能が誕生するであろうということで、この点については異論はないが、「IQが1万に達する」という表現は、IQの定義を誤解していると言わざるを得ない。

 ウィキペディアの該当項目によれば、
知能指数の算出には2種類あり、「生活年齢と精神(知能)年齢の比」を基準とした従来の方式と、「同年齢集団内での位置」を基準とした方式がある。現在では従来の方式はあまり使われなくなりつつある。
と定義されている。このうち、年齢の比というのは、例えば3歳児が6歳児と同じ能力を示せば「6÷3×100=200」というように算出されるが、それでは、40歳でIQ200の人は80歳と同じ能力ということになってしまう。この方式は、子どもの発達を把握する時には有用であるが、少なくとも、成人の知的能力の指標としては全く役に立たない。

 では、後者の「同年齢集団内での位置」という方式ではどうなるか? この方式では、知的能力を測定するのに妥当な作業検査を実施し、(得点分布によって一定の重み付けをした上での)得点の偏差値として算出される。

 この「偏差値」も、「偏差値の最高は100、最低はゼロ」などというように誤解されることがあるが、ウィキペディアの該当項目に記されているように、
偏差値(へんさち、英: standard score)とは、ある数値がサンプルの中でどれくらいの位置にいるかを表した無次元数。平均値が50、標準偏差が10となるように標本変数を規格化したものである。
というのがちゃんとした定義である。なので、理論上は、偏差値が200になったり、マイナスになることもありうるが[]、確率的にはきわめて小さい。

 でもって、IQのほうは、
「同年齢集団内での位置」から算出した知能指数は標準得点で表され、中央値は100、標準偏差は15前後で定義されている。
と定義されている。なので、知能偏差値が60と測定された人は、IQ(偏差値IQ)は115というように自動的に換算される(標準偏差を20としている検査もある。この場合は、120となる)。

 実際の知能検査は、実用上の理由で、テスト問題の数が限られている。あるジャンルが得意な人は、制限時間内にすべての問題が解けてしまって時間を余らせてしまうが、満点に対して与えられる換算値を超えることはできない。つまり、現実には、IQが1万になるような知能テストは存在しない。

 では、人工知能でも満点が取れないように、問題数を100倍、100倍と増やせばよいかということになるが、ここでまた別の問題が生じる。上記のように、偏差値IQは「同年齢集団内での位置」として定義されているので、人工知能のIQを測定するということは、その前提として、人工知能も同年齢集団に含める必要が出てくる[※※]。そうすると、人間と人工知能をひっくるめた集団での平均値は大幅に上昇、また標準偏差も大幅に増加する。つまり、非常にすぐれた能力を発揮する人工知能が仲間に加われば加わるほど、IQ100に相当する知的レベルも上昇するため、いつまでたってもIQが1万になるということはあり得ないのである。

 このほか、IQというのは厳密には順序尺度として扱うべきだという主張もある。ある英才教育で、受講生のIQの平均値が20増えたとか、1.5倍に増加したというような宣伝をするのは間違っている。間隔尺度ではないので、IQ80の人がIQ100になることと、IQ100がIQ120は同じ意味にはならない。まして、比率に言及するのは大間違いと言えよう。

]あるテストの得点が平均500点、標準偏差が10点であったとすると、得点450点の人の偏差値はちょうどゼロ、440点の人の偏差値はマイナス10となる。
※※]ある集団内部の相対比較として使用している物差しを集団の外にある対象に適用できるのか、相対比較ができるならなぜ集団に仲間入りさせないのかといった議論がありうるが、いずれ別の機会に取り上げることにしたい。