じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 8月15日の岡山は、15時台から雨が降り出し、積算降水量4.5ミリを記録した。0.5ミリ以上の降水量を記録したのは7月29日以来17日ぶりとなった。


2018年8月15日(水)



【連載】宇宙大作戦(スタートレック)を振り返る(4)エンタープライズの外交思想とカーク船長の力の論理

 昨日に続いて宇宙大作戦(1966年〜1969年、「TOS」、Star Trek: The Original Series)の話題。

 エンタープライズの基本的な使命は、
宇宙―それは人類に残された最後の開拓地である。そこには人類の想像を絶する新しい文明、新しい生命が待ちうけているに違いない。
これは人類初の試みとして5年間の調査飛行に飛び立った宇宙船USS・エンタープライズ号の 驚異に満ちた物語である。
Space, the final frontier. These are the voyages of the starship Enterprise.
It's five year mission, to explore strange new worlds, to seek out new life and new civilizations, to boldly go where no man has gone before...
というオープニング・ナレーションに示されている通り、未知の文明と接触し平和的な外交関係を築いていくことにある。異星人たちに対してはあくまで平和的手段による交渉を第一とし、内政干渉はしないことが原則となっているが、殆どの場合、異星人からの先制攻撃に対して武力行使をしたり(←但し、たいがいは失敗)、その星の独裁体制をぶち壊して住民の自由を取り戻して、めでたしめでたしという結果に終わっている。また、内政不干渉と言っても、当該の星に貴重な鉱物資源がある場合や、クリンゴンの侵出が想定されている空域では、何が何でも外交を樹立しようという、高所からの威圧的な姿勢も見られる。

 この背景には、北米大陸への移民・開拓の思想、日本の鎖国体制を打ち破った黒船外交、さらには、トランプ大統領のもとで今まさに顕著になっている自国の利益最優先の思想が見え隠れしているように思われる。

 カーク船長自身も、絶対平和主義者ではなく、平和はゲーム理論による力のバランスのもとで保たれると考えているようである。

 その考え方がよく表れているのが、第2シーズン・第48話の「カヌーソ・ノナの魔力(A Private Little War)」の結末である。対立する部族の一方にクリンゴンが銃器を与えたことに対抗して、カーク船長は結局、もう一方の部族に、同程度の威力を持つ武器を提供する。エンタープライズが去った後、この星ではおそらく激しい戦闘が起こると予想されるが、その中で両者の力が均衡し、戦争よりも平和的交流のほうが双方の利益になると悟った時に初めて平和が実現すると考えているのであろう。

 第1シーズン・第23話の「コンピューター戦争(A Taste of Armageddon)」の結末も興味深い。この「エミニア7」という星と隣接する「ベンディカー」は長年にわたり戦争を行っているが、実際には武力行使は行われていない。コンピュータのシミュレーションによりはじき出された死者の人数分だけ、あらかじめ登録されたリストに基づいて、双方の住民が自ら進んで分解機に入って消滅するという協定になっている。これによって両国とも犠牲者は出るが、爆撃による都市の破壊や最終戦争に至らないというメリットがあった。カーク船長は、こうした慣行が長期にわたって続いているのは、住民たちが戦争の恐怖を実体験しないからだと考え、分解機やコンピュータを破壊してしまった。結果的に両国は、平和協定を締結することになり、めでたしめでたしとなった。

 もっとも、以上のような力のバランスや恐怖を前提とした平和実現とは異なる結末もある。ネット上でも何人かの方が高く評価しているのが、第1シーズン・第26話の「クリンゴン帝国の侵略(Errand of Mercy)」である。この星では、クリンゴン帝国に「制圧」されたにもかかわらず、オルガニアの住民は全く抵抗せず、弱虫で勇気が無いように見える。しかし本当のオルガニアの文明は遙かに進歩しており、彼らから見れば、地球人やクリンゴン人の争いはアメーバ程度のレベルであったという結末となった。宇宙大作戦の中で最高傑作と言ってもよい展開であった。もっとも、オルガニア人の遙かに優れた武力があればこそ、地球人とクリンゴン人の争いが食い止められたわけで、決して、人類愛や平和思想の啓蒙によるものではない点に留意する必要がある。

 不定期ながら次回に続く。