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【連載】 日本語と英語の違いをめぐる議論(7)「名詞+形容詞」と個別の名詞 昨日も述べたように、名詞は、個々の事物(モノや出来事)に対応した音声や文字列と言うことができる。これらは原則として、人間とは独立した存在であり、その生成、存続、消滅のプロセスは物理・化学的な法則に従っている。しかしながら、それをどのように一纏めにして扱うのか、あるいは別々のものとして区別するのかは、それぞれの地域に暮らす人々の言語コミュニティの中で有用性に基づいて固定化されていく。2枚の10円玉が同じか違うかという例から分かるように、何が同じで何が異なるかというのはそれを使う人のニーズに依存している(=自販機に10円玉を投入する時には2枚とも同じ10円玉だが、コインマニアにとってはそのうちの1枚に希少性を見出すかもしれない。) 同じ名詞で表される事物を区別したり比較したりする時には形容詞が有用となる。例えば、台風が接近している時に、「大きい台風」とか「強い台風」といった形容詞を冠することで、より念入りに防災対策をとることができる。同じ台風においても「強い台風」から「猛烈な台風」というように形容詞が変化すれば、その台風の勢力が強まったことが分かる。 いっぽう、世界各地で発生する強い熱帯低気圧に対しては、発生地域別に、「台風タイフーン」、「ハリケーン」、「サイクロン」といった別々の名詞が宛てられている。このように区別することで、「強いハリケーンが発生した」というニュースを聞いても日本人は災害を心配しなくて済むし、逆にメキシコ湾岸地域に済む人たちは洪水や暴風対策をとることになるだろう。 気温に対する感じ方は普通、「暑い」、「暖かい」、「涼しい」、「寒い」という形容詞で表現される。温度自体は連続的なものであるが、「暑い」と「寒い」はその気温に対して不快な反応が生じていることが示唆される。また、レストランのお客さんがこうした言葉を発すれば、お店のほうではエアコンの調整をすることになる。 形容詞は、類似の程度・変化に対して般化しやすい。例えば、「強い台風」という時の「強い」と、「強いオオカミ」という時の「強い」は全く別の性質を形容している。「大きい島」と「大きい象」も同様である。さまざまな名詞と組み合わせて使う形容詞の種類が少なければ語彙の節約にもなる。またアナロジーやメタファーの効果として、造語力を高めることにもつながる。 不定期ながら次回に続く。 |