じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 今年の9月は、台風や秋雨前線の影響で雨の日が多い。気象庁統計によれば、9月1日から22日までのあいだで、0.5ミリ以上の降水量を記録した日数は13日、このほか0.5ミリ以下の少雨の日をが5日となっており、全く雨の降らなかった日はわずか4日にとどまっている。9月の1か月の降水量の平年値は87.4ミリであるのに対して、今年は9月22日の朝までで214.0ミリを記録しておりすでに平年の2倍を超えている。

 写真は蜘蛛の巣に付着した水滴。オオヒメグモの巣と思われる。

2018年9月21日(金)



【小さな話題】

 
又吉直樹のヘウレーカ:アリ社会の分業と「利他」性

 又吉直樹のヘウレーカのレギュラー放送は9月19日までで19回を数えているが、録画しているだけでまだ視ていない回がだいぶ溜まってしまった。今回その中の第4回「サボる“アリ”はいないのか?」(2018年4月25日初回放送)をやっと視ることができた。アリは世界で一万種以上、また最も個体数が多い生物[]でありその数は1京匹(10の16乗)にのぼるという。
]微生物や海中生物はもっと多いはずなので、ここでは、目に見える昆虫や動物の中で最多という意味かと思う。

 「サボる“アリ”はいないのか?」では冒頭、人類が20万年の歴史を持つのに対して、アリの社会が完成したのは5000万年前であり、地球上での適応の歴史が遙かに長いことが指摘された。

 最初に登場したクロオオアリは、
  • 女王アリ:産卵に特化。10〜20年卵を産み続ける。
  • 働きアリ:巣の維持と餌運びに特化。他のアリに栄養を補給。寿命は1年程度。外に出て危険な仕事をするのは老齢のアリ。
  • オスアリ:精子の運搬・交尾に特化。羽根がある。外に出たら2〜3日。長くても2〜3週間。
といった分業がしっかりしている。超個体として捉えれば完成された社会と言える。

 番組の中程では珍しいアリや、興味深いアリ社会の仕組みが紹介された。
  • ミツツボアリ:貯蔵役の働きアリがいる。巣の奥で天井に張り付いていて、餌が不足した時に他のアリに栄養を補給する。超個体としてとらえるなら人間の脂肪細胞のような役割。
  • 働きアリの中には、よく働くアリが2割、普通のアリが6割、働かないアリが2割。働かないアリは予備軍的な役割を担う。大きな巣を作るアリでは95%が働くが、小さな巣を作る種では10%のアリだけで働き90%はサボリ役になっている。
  • サムライアリ:近隣のクロヤマアリの巣を襲ってサナギを奪い、「奴隷」として働かせる。ウィキペディアの該当項目にはさらに詳しい記述があった。
    サムライアリの新女王は単身でクロヤマアリの巣に侵入し、その巣の女王アリを噛み殺して巣を乗っ取る。勿論クロヤマアリの働きアリは侵入者を攻撃するが、撃退に失敗して自分達の女王が噛み殺されるとサムライアリ新女王の世話を始める。これは新女王がクロヤマアリの女王を噛み殺す際に、皮膚表面の成分を舐め取って女王になりきるためと考えられている。よって新女王の卵はクロヤマアリの働きアリが世話をして成長する。
    そう言えば、子どもの頃、生家の庭で、アリが集団が卵を運んでいる様子を観察したことが何度もあったが、あれは「引っ越し」ではなく、サムライアリによる略奪誘拐場面であったのかもしれない。
 番組の後半では、生き物の目的の一つ「自分の遺伝子をより多く残す」ということと、次の世代に直接遺伝子を残すことのできないにもかかわらず利他的にふるまう働きアリとの関係について少々難しい解説があった。人間の場合、親子や兄弟姉妹の平均血縁度は50%になるが、アリの場合は単数倍数性による性決定が行われており(受精卵からはメスが生まれ、未受精卵からはオスが生まれる)、働きアリの姉妹の平均血縁度は75%となり、母子の平均血縁度50%、つまり、自分の子どもを増やすよりも、女王アリを助けて姉妹を増やすことのほうが結果的に自分の遺伝子を多く残すことにつながるという内容。要するに、働きアリは利他的、献身的に振る舞っているように見えるが、実際は、自分自身の遺伝子を多く残す行動をしていることになるのだ。

 以上が私自身が理解した範囲での番組内容であるが、アリ社会の仕組みは人間社会の歴史を理解する上でも有用なヒントを与えていることは確かである。例えば今の社会では、個人個人の人権が守られた平等社会が正しいとされる一方、奴隷制や世襲の身分制度は望ましくないとされている。しかし、過去の歴史を振り返ってみると、科学技術や芸術文化は、生産労働を強いられない階層があればこそ発展してきたという面がある。大規模な都市やインフラは中央集権的な体制がなければ造り上げることができなかったかもしれない。

 もっとも、上に述べたように働きアリの「利他的」行動の背景には、単数倍数性による性決定による平均血縁度の大きさの違いがあり、そのような繁殖を行わない人間に当てはめることは根本的に誤っているという見方もあるだろう。(人類の繁殖力が低下し、クローン人間を作って生産を維持しようとするような社会にでもなれば話は別だが。)