【連載】
関係反応と関係フレームをどう説明するか(3)文脈とは何か?(1)
昨日の続き。
今回からしばらく、文脈とは何か?について定年後に考えたことをまとめておくことにしたい。まずは、思いこみを避けるために、引用。
まず、国語辞典では「文脈」は以下のように説明されていた(但し、文章のつながりに関する記述は省略)。
- 【大辞泉】一般に、物事の筋道。また、物事の背景。
- 【新明解】問題となる語を含んで一貫した筋が期待される、文・文章の展開のしかた。
- 【三省堂国語辞典】すじみち
次に、ウィキペディアでは「文脈」という項目の代わりに「コンテクスト」と「文脈主義」がある。
このうち、「コンテクスト」の中の関連説明を引用すると以下のようになる。
- 言語学におけるコンテクストとは、メッセージ(例えば1つの文)の意味、メッセージとメッセージの関係、言語が発せられた場所や時代の社会環境、言語伝達に関連するあらゆる知覚を意味し、コミュニケーションの場で使用される言葉や表現を定義付ける背景や状況そのものを指す。例えば日本語で会話をする2者が「ママ」について話をしている時に、その2者の立場、関係性、前後の会話によって「ママ」の意味は異なる。2人が兄弟なのであれば自分達の母親についての話であろうし、クラブホステス同士の会話であれば店の女主人のことを指すであろう。このように相対的に定義が異なる言葉の場合は、コミュニケーションをとる2者の間でその関係性、背景や状況に対する認識が共有・同意されていなければ会話が成立しない。このような、コミュニケーションを成立させる共有情報をコンテクストという。
- 心理学におけるコンテクストとは、フォアグラウンドの事象に伴うバックグラウンドの刺激を意味する。例えば、ネズミがネコを恐れながらエサを探しているとき、ネコがフォアグラウンドの事象であり、探し回っている場所(および時間)がバックグラウンドの刺激である。海馬にはある種のコンテクスト処理に特化した神経構造があると考えられている。
もう1つ、「文脈主義」については、以下の説明があった【抜粋、改変】。
- 文脈主義(ぶんみゃくしゅぎ、英: Contextualism)は、行為、発話、ないしは表現が行われる脈絡を強調する哲学上の見解の集まりのことを指す。文脈主義は、それらの行為、発話、ないしは表現は、ある重要な点で、その脈絡との関連でのみ理解されうると主張する
- 「Pを意味する」、「Pということを知る」、「Aする根拠がある」、そしてことによると「真である」ないしは「正しい」さえも含めて、これらのような哲学的に議論の余地のある概念は特定の脈絡との関連でのみ意味を持つという考えが文脈主義の見解には含まれる。
- 脈絡依存は相対主義に帰着するかもしれないと考える哲学者たちもいるのだが、それにもかかわらず、文脈主義の見解は哲学においてますます流布しつつある。
ちなみに、ACT Japan:The Japanese Association for Contextual Behavioral Science(以下,「ACT Japan」と表記する)[※]には
当団体は,文脈主義的な行動科学とその実践を促進するとともに,人間が抱える苦悩を軽減し,生活の質を向上することを目的としています。
と記されているが、何が文脈主義的で何がそうでないのかについては特段の説明はWebサイトにはなさそうであった。
[※]「ACTジャパン」で検索したらこちらのサイトがヒットした。「ACT・JAPAN」ではこちらがヒット。
ウィキペディアにはもう1つ機能的文脈主義の項目があり、一部を引用させていただくと次のようになる【一部改変、省略あり】。
- 機能文脈主義とは哲学的プラグマティズム(実利主義) と文脈主義(contextualism)に根ざした現代の科学哲学の一つである。 行動科学の分野全般、特に行動分析学と文脈的行動科学において活発な発展を遂げている。
- 機能文脈主義は、関係フレーム理論 として知られる言語理論の基盤になっており、その応用の中でもっとも顕著なものが、アクセプタンス&コミットメント・セラピーである。これはB.F.スキナーの徹底的行動主義を再検討し、機能的かつ文脈的要素を強調したものである。これはSteven C. Hayesによって初めて提唱され、心理的な事象(思考や感情、行動を含む)が生じる文脈における操作可能な変数に焦点を当てながら、それらの事象を正確さと広さ、深さを確保しつつ予測し変容させることの重要性を強調している。Hayesらによればスキナーの徹底行動主義に関する初期の著作では機械主義的な要素(機能的ではない構造的な要素)と文脈主義的な要素が混在していた。徹底的行動主義が潜在的に依拠する認識論は文脈主義であると彼は主張している。
上掲のウィキペディアの項目では、Stephen C. Pepperの『世界仮説:エビデンスでの研究”(World Hypothesis:A study in Evidence)』への言及や、記述的文脈主義と機能的文脈主義の違いについても解説されている。ウィキペディアの執筆者はすべて匿名であるが、この項目の執筆は、その道の専門家が関与して執筆されたようである。
以上、機能的文脈主義について引用したが、「私は正統な機能的文脈主義者である」と標榜する人がいたとしても、その人が「文脈」を正しく使っているかどうか(←というか、より整合性があり簡潔であり生産的で有効な使い方をしているかどうか)は、また別の問題である。また、文脈の役割については、機能的文脈主義でなくても、例えば実在論的な立場の研究者であっても議論に参加できるが、目ざすところが違う方向に向かっていくため、議論がかみ合わなくなっていく可能性がある。
ということで、「文脈」自体についての定義をACTの関連書から引用しておく。
文脈という用語は,変容可能な一連の事象で,行動を形成する作用を持つものを指す。また文脈は,物体やものごと自体を指すものではなく,機能的な用語であり,それには行動に関連したものとしての歴史と状況の両方が含まれる。
Context is a term used for the changeable stream of events that can exert an organizing influence on behavior. Context is not a code word for objects or things. It is a functional term. Context includes both history and situations as they relate to behavior.
不定期ながら次回に続く。
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