じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 生協食堂(マスカットユニオン)入口に設置された七夕飾り。世相を反映した年金、五輪抽選関連の願い事も取り付けられていた。


2019年7月06日(土)



【連載】

行動分析学用語(第3期分)についての隠居人的独り言(7)「条件づけ」「条件刺激」など

 今回はリストの中の、「conditioning条件づけ」、「conditioned response条件反応」、「conditioned stimulus条件刺激」、「unconditioned response無条件反応」、「unconditioned stimulus無条件刺激」について独り言を述べることにしたい。

 まず、「conditioning」であるが、ランダムハウス英語辞典で、
【1】《心理》条件付け:賞罰によって行動を変える過程;operant conditioning, instrumental conditioning ともいう.
【2】《心理》条件付け:ベルの音のように初めは中性であった刺激が,食べ物の味のような普通に反応を生じさせる他の刺激と繰り返し結びつけられることで,特定の反応を引き起こす過程;classical conditioning, Pavlovian conditioning, respondent conditioning ともいう.
と説明されており、「conditioning=条件づけ」という用語は定着していると考えて間違いなさそうだ。もっとも、「エアコン=air conditioner」という言葉に見られるように「condition」には「状態、調子」というような意味もある。大学院生の頃、確か、当時R研究所におられたA先生だったと記憶しているが、「条件づけ」より「調整」のほうが適訳ではないかというようなお考えを伺ったことがあった。ちなみに、中国語では「条件づけ」は「制約」と訳されているようである。

 「conditioned」は「条件づけられた」という意味になるが、条件づけ理論においては明らかに「conditioned」ではなく「conditional(条件つきの)」という意味のほうが正しい場合があり、用語上の混乱が見られるようだ。もっとも最近の入門書では正しく使い分けされている。

 さて、本題に戻るが、まず、「unconditioned stimulus無条件刺激」【←「無条件にそうなる」という意味なので、これは明らかに「unconditioned」ではなく「unconditional」とすべきであろう】というのは、人間や動物が特定の刺激によって無条件に反応を誘発することを意味する。これは系統発生的に身につけられたものであって、どの刺激に対してどういう反応が誘発されるのかは、生得的に決まっている。

 機能主義的立場からみれば、「ある刺激に対してある反応が誘発される」ことは「ある刺激が当該反応を誘発する機能を有する」と表現される。この連載の強化子(好子)、弱化子(嫌子)のところでも述べたが、これは当該刺激の化学成分や物理的性質の中に誘発機能が備わっているという意味ではない。「反応が誘発される」というのはあくまで人間や動物が「反応を起こす」ということであり、無条件に反応の起こすのが無条件反応ということになるのだが、「内因性」の諸要因を仮定せず、外部条件と反応との関係をスッキリと記述できるというメリットがあるゆえに機能主義的立場を貫いているにすぎない。

 つぎに「conditioned stimulus条件刺激」であるが、これは、恣意的に選ばれた中性刺激が、無条件刺激と対提示されることによって、無条件刺激の有する反応誘発機能を獲得することを意味している。これは、関係フレーム理論でいう「刺激機能の変換」と酷似している。というか、言葉を使わない動物でも、中性刺激と無条件刺激を繰り返し対提示されることによって、中性刺激はレスポンデント反応を誘発する機能を獲得できるようになることがレスポンデント条件づけの本質であり、それが言語行動のレベルで拡張されていったのが関係フレーム理論でいう「刺激機能の変換」に相当すると考えるべきなのかもしれない。といってもこのあたりは、また別の機会に述べることにしたい。

 ということで本題に戻るが、「条件刺激」や「無条件刺激」という用語はすでに一般辞書レベルで定着しており、いまさら修正しなければならないほどの問題点は見当たらない。但し、「条件刺激」というのは正確には「中性刺激が条件づけを通して獲得した反応誘発機能」と見なすべきであり、可能な限り、こうした機能主義的な表現に書き換えていく必要があるとは思う。

 次回に続く。