じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 岡山では8月30日の午前中にも短時間で13.5ミリの強い雨が降り、これで8月中の降水日数は16日(記録上、降水量0.0ミリの日数を含む)となり、8月の31日間の日数の過半数を超えた。
 写真は、岡大時計台前の芝地に出現したシバフタケと、半田山植物園近くの芝桜の中に出現したキノコ(種名未確認)。もっとも雨が多いわりにはキノコの数は少ない。猛暑の中ではキノコは顔を出しにくいようだ。

2019年8月30日(金)



【連載】

又吉直樹のヘウレーカ!「独り言をつぶやくのはなぜ?」と言語行動論(3)「メタ認知」実験への疑問

 昨日に続いて、又吉直樹のヘウレーカ! 「独り言をつぶやくのはなぜ?」についての感想、コメント。

 番組の後半では「独り言にはさらに大事な役割がある!?」として、「メタ認知」の実験が紹介された。実演された内容は、
  • 6つのライトが並んでいる。
  • ライトはある順番で点灯する。点灯回数は1回から7回
  • ライトの点灯が終わったら、又吉さんはその課題にチャレンジするかキャンセルするかをボタンを押して選択し、そのあと、ライトが点灯したのと同じ順番でライトにタッチしていく。
  • チャレンジボタンを押して、順番を間違えた場合は10秒間中断する(次の課題提示が10秒間遅延)。正解した場合は飴が1つ貰える。
  • キャンセルボタンを押した場合は、飴は貰えないが、直ちに次の課題が始まる。
というような内容であった。その結果又吉さんの場合は、5分間でチャレンジ12回(9問正解)、キャンセル2回という結果になった。

 岡ノ谷先生によればこの実験は、自分の能力を評価する実験、つまり「自分の心の中の記憶の状態をモニターして行動を変えている」ことを示す目的で行われた。すなわち、
  • メタ認知:自分の記憶や知識を客観視して認識すること。自分が何ができて何ができないのかを判断できる能力。
  • 上掲の実験でキャンセルボタンを押すのはメタ認知できているという証拠。

 番組ではさらに、ラットを使った同様な実験が紹介された。但し、ラットの実験ではライトの点灯は1回のみであった。
  1. ラットはまずスタートボタンを押す。
  2. スタートボタンの後ろ側には9枚のパネルキーが並んでおり、このうちの1つが点灯する。
  3. スタートボタンの右側にはキャンセルバー、左側にはキャンセルバーがあり、ラットはそのいずれかを押す。
  4. キャンセルバーを押せばその試行は打ち切られ、次の課題に進む。
  5. チャレンジバーを押した場合は、後ろ側の9枚のパネルキーのうちの何枚かが点灯し【番組では3択】、上記2.で点灯したパネルキーを押せば正解となって餌が貰える。
【出典は以下の通り。 Yuki, S., & Okanoya, K. (2017). Rats show adaptive choice in a metacognitive task with high uncertainty. Journal of Experimental Psychology: Animal Learning and Cognition, 43, 109-118.】




 以上が番組で紹介された内容であったが、この時点で私が疑問に思ったのは以下の通りであった。
  • 上掲の実験(又吉さんが参加した実験とラットの実験)は「独り言にはさらに大事な役割がある!?」とどう関連しているのか?
  • 又吉さんが参加した実験はメタ認知の証拠になるのか?
  • ラットの実験はメタ認知の証拠になるのか?
 まず、番組を拝見した限りでは、メタ認知自体は独り言の役割とは直接関係していないように見えた。岡ノ谷先生は「言葉は無くてもメタ認知はできる。しかし、又吉さんがすぐに実験に参加できたのに対して、ネズミの場合は言葉で説明することができないので半年くらいかかる。人間は言葉があることでいろいろな思考のスピートが速くなっている。」と解説しておられたが、そうであるならこれはまさにルール支配行動の話題ということになる(長谷川版第7章ご参照】。もちろん、ルール支配行動も言語行動の重要な部分を占めているが、メタ認知課題以外の課題であっても同じ方略がとれるはずだ。(要するに言語的教示があれば、1回目の試行からエラーなしで課題が遂行できるという話。)

 次の、「又吉さんが参加した実験はメタ認知の証拠になるのか?」については、番組で紹介されたような実験だけでは不十分であると私は考える。なぜなら、課題が難しくなればなるほど(ライトの点灯回数が増えれば増えるほど)間違える確率は増えていく。なので、その課題を解ける自信があろうとなかろうと、とにかく、点灯回数が多い課題の時は10秒間の遅延を覚悟の上でそれをリセットして次の課題に進んだほうが全体の強化率を上げられる可能性がある。なので、この実験課題は単純に「課題が複雑な時はキャンセルバーを押し、単純な時はチャレンジバーを押す」という方略でも遂行可能になるはずだ(同様の例として、視力検査でランドルト環の欠けた方向を答える時に、上下左右のキーのほか、「分からない」というキーがあるが、「分からない」を押すのはメタ認知でも何でもなくて、単に見えないということの意思表示に過ぎない。)

 ラットの実験のほうは、番組で紹介された内容だけでは課題の難易度の説明がなされておらず、どうしてあれがメタ認知の実験になっているのかが理解できなかった。原典をチラッと拝見したところでは、どうやら、あの実験では、個体によって、2択の条件と6択(9個のパネルキーのうち6個が点灯しその中から正解の1つを選ぶ)という条件が設定されており、どうやら6択課題でキャンセルバーを押す頻度が増えることをもってメタ認知の可能性を示唆しているように見受けられた【あくまで長谷川の理解の範囲。ざっと読んだだけなので間違っているかもしれない】。但し、この場合も、課題の困難度がキャンセル方略を強化していると解釈することもできるはずで、メタ認知という説明は冗長になる可能性がある。【ま、「メタ認知」という概念と、行動分析学でいう般化概念は定義上そんなに大きな違いがあるわけではないが、認知というレベルで考えるのか、あくまで行動のレベルで考えるのかは、研究の方向や応用可能性を大きく左右することになるだろう。】

 次回に続く。