【連載】『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(1)
12月から特命教授として「言語行動論」という授業を担当させていただくことになっている。授業の準備の一環として、少し前に拝読した
針生悦子『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』
について、感想と私なりの考えをまとめておくことにしたい。
この本は、新書版200ページ前後の一般読者向けの内容で、先月、ジパングクラブ割引【←「のぞみ」には乗車できないので時間がかかる】で上京した時に、岡山を出てから読み始め、新横浜を過ぎたあたりでざっと読み終えることができた。
大ざっぱな感想は以下の通り。
- さすが、この方面の第一人者の書き下ろしだけあって、緻密に組み立てられた構成になっている。
- カバーのところに「認知科学や発達心理学の研究に従事」と記されているように、行動分析学者の端くれであった私とは立場を異にしているため、発想や解釈の面で若干しっくりこないところがあった。特に、関係フレーム理論に基づく言語行動の研究に目が向けられていないのはまことに残念。
- 「赤ちゃんは耳にした『音』をどうやって『ことば』として認識する?」というように、音と言葉の関係がメインテーマになっているが、音の弁別と言語の習得は別の問題ではないか?という部分がある。例えば、エル(L)とアール(R)の聞き分けができないからといって、直ちに英語の習得が困難になるわけではない。英語と日本語の本質的な違いは、「する」と「ある」の違いや、文脈依存の表現(例えば主語の有無)の違いに起因しているのではないか。
- (日本人の子どもが)幼い時期から英語教育を受けることの問題点についてはほぼ共鳴できる。
さて、この本は、全体として5つの章と、「はじめに」、「おわりに」から構成されている。
「はじめに」のところでは、巷で言われている3つの神話:
- 子どもはみなその言語の完壁な使い手になる
- 子どもの言語習得は速い(短期間で完成する)
- 子どもはラクをして言語を身につける
に疑問が投げかけられていた。確かに、仕事の都合などで数年間、家族と一緒に海外に移り住んだ場合、子どもがあっという間に現地の言葉を覚えてしまうが、大人は苦労してもなかなか身につかないという話を耳にすることがある。しかし、実際は、子どもはそんなに楽々と言葉を覚えているわけではないし、完璧な使い手になっているわけでもない。海外在住経験のある親からの体験談だけを信じたり、そういう生活をした子どもがどの程度のレベルまで習得しているのかを客観的に測定したりすることなしに、「言葉の学習は早ければ早いほど身につきやすい。だから、早期の英語教育が必要だ」といった論調がまかり通ることはやっぱり問題が多いように思う。
不定期ながら次回に続く。
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