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【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(8)確立操作の定義と時系列 昨日の日記の続き。今回からしばらく「確立操作」の話題を取り上げる。 『行動分析学入門』(杉山ほか、1998)では、確立操作は、 ●ある特定の好子や嫌子の、行動の獲得や維持への効果に影響を及ぼす操作 として、基本随伴性の枠外に、斜め左上に配置されている。 確立操作の1つ「飽和化」と、随伴性ダイアグラム 以上の部分について、私なりに思うことが2つある。 1つは、上掲の教科書に限ったことではないが、用語に「操作」という言葉が含まれている点である。9月11日の日記で述べたように、行動分析学の用語体系は、少なくとも「手続段階」と「理論段階」という2つがあると思われるのだが、「操作operation」という言葉は、字義的に見ても「手続段階」の用語にしか見えない。但し、定義の一部、「ある特定の好子や嫌子の、行動の獲得や維持への効果に影響を及ぼす」という時の「影響を及ぼす」というのは、分析の結果、あとから確認されるべきことである。ま、実際のところ、ある遮断化操作や飽和化操作が本当に確立操作として機能したのかどうかは、やってみるまでは分からないところもある【ちょっとくらい断食しても食物を欲しがらない場合もあるし(遮断化無効)、甘いモノをたらふく食べても、さらに甘いモノを欲しがる場合もある(飽和化無効)。いずれにせよ、理論段階の用語体系では別の呼称に置き換える必要があるように思う。 第2の点は、上記の図に示されているように、確立操作の矢印は、左斜め上から基本随伴性(直前条件→行動→直後)の枠全体にかかっていることである。これは要するに、確立操作というのは直前条件の一種ではなく、行動が繰り返し強化(弱化)されていく中で、その始まりから終わりまで【実質的には、観察・記録期間の始まりから終わりまで】影響を与え続けているように思われる。このことは、動物実験ではしばしば実感されるのだが、暗黙の前提として無視されるか、もしくは、確立操作の変動の影響を受けないような実験デザインにすることで解消されている。 例えば、ハトを使った弁別課題の研究では、実験セッション開始の時点で、ハトはたいがい、給餌制限という確立操作を受けている。その上で、ハトはキーつつきを始めるが、いずれは満腹になり行動はストップしてしまう。しかし実験目的はあくまで弁別課題の遂行状況のほうにあるゆえ、満腹になった後のハトの行動は関心対象外ということになる。ということで、その日の実験セッションは、ハトが満腹になる前の状態で終了ということになる。 では人間の場合はどうか。例えば、子どもを公園に連れて行くと最初はブランコ、次は滑り台、そしてジャングルジム、というように遊具の対象を変えていく。そのさい、1つの遊具がどんなに好きであっても、いずれは飽きてくる。また、修理でしばらく使用禁止になっていた遊具が使えるようになると真っ先にそれで遊ぼうとする。このあたりの「遊び」行動のバリエーションは、飽和化や遮断化として説明できるように思われるが、重要な点は、それらが、公園到着時から退出時までの全時間帯で影響を与えているという点である。 不定期ながら、次回に続く。 |