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12月22日の夕刻は雲が多かったものの、前日に続いて、木星と土星の大接近の様子を眺めることができた。前日に比べると木星の位置が左上方向に移動している。【正確には、地球の公転により、木星の後ろにある土星が右下方向に移動していくように見える現象】 |
【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(41)杉山尚子先生の講演(6)「行動随伴性」の困難点 昨日に続いて ●杉山尚子先生(星槎大学)×武藤崇(同志社大学)による対談:「随伴性ダイアグラム」をめぐる冒険 についての感想と考察。昨日は「行動随伴性ダイアグラム」というツールの有用性について考察したが、逆にデメリットもないわけではない。 私が特に困難点として指摘させていただきたいのは、条件性弁別、さらには、関係反応、派生された関係反応が生じるしくみをうまく図式できるのかという点である。 ここからは私の理解した範囲での考察となるので、もしかすると間違いがあるかもしれない点をまずお断りしておく。 まず、オペラント条件づけにおける刺激弁別だが、杉山ほか(1998)の第13章では、 (直前)餌無し→(行動)キーをつつく→(直後)餌あり というダイアグラムを3階建てに図式化し、行動の上のところにはSD、行動の下のところにはSΔが配置され、SDのもとで行動した場合には「(直後)餌あり」という変化が生じるが、SΔのもとで行動しても「(直後)餌無し」のままで変化は起こらない。これによって、SDの時の反応だけが強化されることになる。このことが結果として、正解率の上昇につながる。つまり、何かの弁別課題に正解できるということは、SDのもとで生じる反応が増加し、SΔのもとで生じる反応が減少することと同義となる。 これは、Multipleスケジュールのもとで、反応レート(反応率)の違いを観察する場合には大いに役立つが、ひとつ素朴な疑問が浮かんでくる。それは、弁別課題に正解するということと、単位時間あたりの正反応数が増加するということを同じように扱ってよいのだろうかという問題である。 今回の杉山先生の講演の中でも取り上げられていたが、動物の学習行動は、もともと、走路や迷路といった個別的試行(dliscrete trial)の中で行われ、正解率が指標とされてきた。これに対して、スキナーが開発した実験装置では、被験体は装置の中で自由に動き回ることができ、その中で生じる単位時間あたりの反応数が累積記録として記録される。フリーオペラントの実験では、条件性弁別課題は、通常、被験体がスタートボタンを押してから見本刺激や比較刺激(選択肢)が提示されるが、これは、被験体が見本刺激をちゃんと見ていることを保証するための手段であって絶対ではない。いずれにせよ、弁別課題では、いかに活発に反応するのか、ではなく、いかに正解となる反応の比率を上げるのかが重要な指標となる。 条件性弁別課題や、関係反応、派生的関係反応の説明図式は、それがフリーオペラントの状況で実施されたとしても、基本的には個別試行課題となっている。行動随伴性ダイアグラムでどう図式化されるのかは手元に資料が無いので分からないが、相当複雑になってしまいそうだ。 私が理解している範囲で言わせていただけるならば、「行動随伴性」の論点は、「オペラント行動は弁別刺激なしでも生じる、あくまで結果、つまり直前と直後の変化によって影響される」という点にあった。確かに、標的行動をいかに増やすか、あるいは減らすかという問題に取り組むのであれば、行動随伴性のツールは大いに役に立つと思われるが、日常生活の諸行動は殆どが弁別行動であり、また言語行動の基盤として関係反応、派生的関係反応が重要な役割を果たしていると考えるならば、先行要因を無視するわけにはいかない。オペラント行動は定義上、誘発刺激によって誘発される行動ではないが、一連の行動が生じる過程では、先行要因によって生起頻度が大きく左右される場合もある。 【こういう喩えが妥当かどうかは分からないが】「自動車が動くしくみを図式化するのにあたって、ガソリンという要因は必須ではない。なぜならガソリンを必要としない車もあるからだ」という主張があったとしても、ガソリン車が動くしくみはガソリン無しには説明できないということか。 不定期ながら次回に続く。 |