じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 半田山植物園で見つけたブドウスズメ。蛾はイモムシも成虫もグロテスクに見えるものが多いが、私は子どもの頃、生家の庭でイモムシを見つけたり飼ったりしたことがあるため、蛾を見つけるとむしろ子ども時代の記憶がよみがえり懐かしさを感じる。

2021年4月23日(金)



【連載】サイエンスZERO『びっくり!魚は頭がいい』その1 魚のオペラント条件づけ

 4月18日に放送されたNHKサイエンスZEROで表記の話題が取り上げられていた。
 リンク先に、
近年、脳や行動の研究が飛躍的に進み、常識を大きく覆すような知能が明らかになってきた。仲間の顔を正確に見分けたり、鏡に映る姿を自分だと理解するなどの高度な認知能力が次々判明。さらに、自分が置かれた状況に応じて、「思いやり」や「いじわる」など異なる行動を選択する理解力を持つことも明らかに!
と紹介されているような、魚の意外な能力には驚かされたが、一般視聴者向けとはいえ、やや擬人的な解釈に偏っているような印象を受けた。

 番組冒頭ではまず、日本に現存する最古の水族館、魚津水族館を浅井理アナが訪れ、お魚ショーが紹介された。余談だが、浅井理アナは大学院生時代にイルカの研究をしていたという。念のためウィキペディアを閲覧したところ、東京大学農学部、同大学院農学生命科学研究科修了、「大学院時代はイルカの遺伝子について研究をしていた」という記載があった。

 番組で紹介されたお魚ショーは
  • イシダイのイシちゃんが、水中にカーテンのように吊された文字盤の列「ようこそ!」を口でひっぱる。
  • ウマヅラハギのウーちゃんが、水中に吊された5つの輪を順番にくぐる。
というものであり、飼育員の泉さんによれば、魚の訓練は、併行して担当しているアザラシの訓練と同様であり、
アザラシはしてほしい行動をしたときにご褒美におやつをあげたりなでて褒めてあげたりするが、魚も同じように褒めてあげる、ご褒美を与えるっていうふうにしています。(アザラシも魚も)学習能力は一緒だと思います。
と説明しておられた。

 ここからは私の感想になるが、イシダイの輪くぐりについては、だいぶ昔、大分・マリーンパレスのイシダイのゴローくんの映像を見たことがあった。こちらの資料には、他にもイシダイの玉運びやバレーボールなどの曲芸が紹介されている。

 上掲の飼育員・泉さんが言っておられた「してほしい行動をしたときにご褒美におやつをあげたりなでて褒めてあげたりする」というのは、行動分析学の核心概念の1つ、オペラント強化に他ならない。番組では、アザラシは賢い動物であるという暗黙の前提に基づいて「魚にもアザラシと同じ学習能力がある、なので、びっくり! 魚は頭がいい」ということを言いたかったようであるが、行動分析学の入門書や、金魚などを被験体としたオペラント条件づけの論文を読んだことのある人であれば、魚の曲芸はそれほどビックリではない【魚を訓練するには並々ならぬ努力が必要であり、訓練士への敬意を怠ってはならないが】。

 要するに、「魚にはアザラシと同じ学習能力がある」というのは、

アザラシも、魚も、オペラント条件づけが可能である。

というだけのことであって、それ以上でもそれ以下でもない。

 もちろん、だからといって、アザラシと全く同じ曲芸がイシダイにできるわけではない。それぞれの動物には、解剖学的、生態学的に制約された種独自の行動リパートリーがあり、そこから逸脱した行動を強化することはできない。また、番組の後半でも言及されていたように、縄張りを作る魚と、常に回遊する魚では、弁別訓練が可能な種と困難な種がある。オペラント条件づけの基本原理は、アザラシにも魚にも適用可能であるが、やはり生物的な制約(biological constraints on learning)には配慮する必要があるだろう。

 なお、もっと高度な学習、例えば刺激等価性の成立に関しては、カリフォルニアアシカが優れた能力を示すという研究があるようだ。いっぽう魚は、たぶん無理、というか、見本合わせ課題の訓練すら、ハトやチンパンジー並みにはできないと思われる。

 次回に続く。