じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 「接写で楽しむ雑草の花」。今回は、タガラシ。ウォーキングコース沿いの用水路各所で繁殖している。
 よく似た黄色い花に、ウマノアシガタ、キツネノボタンなどがあるが、痩果や花の形、生息環境などで区別できる。【こちらに比較写真あり】。

2021年4月26日(月)



【連載】サイエンスZERO『びっくり!魚は頭がいい』その4 ホンソメワケベラのミラーテストと「自己認知」

 昨日に続いて、4月18日に放送された『びっくり!魚は頭がいい』の感想と考察。

 幸田正典先生による、ホンソメワケベラの実験は、以下のように紹介された【長谷川による聞き取り、要約】。
  1. 鏡像認知ができるようになったと思われる【鏡に映った姿に攻撃せず、あたかも、自分と同じ動きをしているのを確認しているような行動が生じている段階】個体の喉に、注射器から色素を注入して寄生虫そっくりの茶色のマークをつけ、鏡のある水槽に戻す。
  2. ホンソメワケベラは、鏡に映った喉のマークを頻繁に確認し、喉を砂にこすりつけて取り除こうとした。
  3. さらに統制条件として、
    • マークをつけずに鏡のある水槽に入れた場合。
    • 注射器で透明の液を注入し【←マークは見えないが、何らかの触覚的な違和感はあるかも】、鏡のある水槽に入れた場合。
    • 茶色のマークをつけるが、鏡の無い水槽に入れた場合。
    を比較したが、これらの条件では、喉を砂にこすりつける行動は生じなかった。

 ここからは私の感想になるが、まず、私がよく分からなかったのは、自然環境のもとで、ホンソメワケベラは自分の体についた寄生虫をどうやって取り除こうとしているのか、という点である。上掲の3.の統制条件では、ホンソメワケベラは、【少なくともこの実験で着けられたマーク程度のレベルでは】触覚的な違和感を手がかりだけは、自分の体についた寄生虫を取り除くことができないことが示されている。そうは言っても、自然環境には鏡は存在しない。となると、ホンソメワケベラは、自分の体についた寄生虫を検知できないので、永久に寄生虫を取り除くことが不可能、もしくは、寄生虫の有無にかかわらず定期的に体を砂にこすりつけて、結果的にそれを予防することしかできないはずだ。このように考えると、それまで一度もやったことのなかったはずの「寄生虫を取り除く行動」が、鏡に映った姿にマークがついていたのを見ただけで突然自発されるというのはまことに奇異であると言わざるを得ない。
 いっぽう、ホンソメワケベラは大きな魚の体の表面などについた寄生虫を食べて掃除をする習性があるという。また、もしかすると、時々、じぶんの体を砂でこすって、偶然に剥がれ落ちた寄生虫を食べていた可能性がある。となると、鏡に映ったマークが、自分の近くにエサとなる寄生虫が存在するという弁別刺激となり、捕食行動のレパートリーに含まれる「砂でこする」という行動の自発頻度が増えた可能性も考えられる。いずれにせよ、これらのケースでは、ホンソメワケベラの行動は、「寄生虫を取り除く行動」ではなく、「すぐ近くにある寄生虫を食べる行動」ということになる。

 番組の映像では、ホンソメワケベラは、鏡像の位置情報を手がかりにして喉を砂にこすりつけていたように見えているが、例えば、背中にマークした場合、あるいは腹部や尾の近くにマークした場合など、それぞれの位置に一対一に対応して、背中をこすりつけたり、腹部や尾をこすりつけたりする行動が生じるのかどうかも確認する必要があるように思う。もし、位置に対応せず、いずれの場合も喉をこすりつけるとするなら、これは自己認知ではなく、「自分の近くに寄生虫がある → 捕食行動のレパートリーの1つとして、喉をこすりつける行動の自発頻度が増える」ということを示しているのかもしれない。

 ところで、今回紹介されたような実験は、ミラーテストとして知られている。じつはスキナーも、Epsteinらとの共同研究で、ハトの「自己認知」の実験を行っている。また一連の実験は動画としても公開されている。

●Epstein, Lanza, & Skinner (1981). Self-awareness" in the pigeon. Science, 212,695-696.

但し、スキナーたちは、別段、ハトに自己認知の能力があることを実証したわけではない。むしろ、自己認知の証拠とされるような行動は、自己認知という概念を使わなくても、行動分析の原理に基づく基本的な手法の組み合わせの中で実現可能であると主張している。

 こちらの記事【動画へのリンクあり】では、この点について、
We often attribute behavior to intelligence, problem solving skills, or reasoning. However, much behavior is a direct result of our interactions with our environment. With the right prerequisite skills or teaching procedure, many simple behaviors can combine or expand, resulting in some highly complex behaviors.
We often use mental processes to explain highly complex behaviors, such as language, imitation, awareness of self, and problem solving. However, this still doesn’t explain what causes the behavior. As Epstein and Skinner demonstrate, by using what we know about reinforcement, shaping and basic behavioral processes, an animal as lowly as a pigeon can perform many of these highly complex skills.

私たちはしばしば、行動を知性や問題解決能力、あるいは推論のおかげだと考えます。しかし、行動の多くは、環境との相互作用の直接的な結果です。前提となるスキルや教え方が適切であれば、多くの単純な行動が組み合わされたり、拡大されたりして、非常に複雑な行動が生まれます。
私たちは、言語、模倣、自己認識、問題解決などの複雑な行動を説明するために、しばしば精神的プロセスを使用します。しかし、それだけでは、何が原因でその行動が起こるのかを説明することはできません。エプスタインとスキナーが示したように、強化、形成、基本的な行動プロセスに関する知識を用いれば、ハトのような下等な動物でも、これらの非常に複雑なスキルの多くを行うことができるのです。
と解説している【日本語訳は、DeepLを使用。ほぼ正確に翻訳されているところがスゴい!】。

 幸田先生の研究にケチをつけるつもりは毛頭無いのだが、ここに警告されているように、
  • 行動の多くは、環境との相互作用の結果として生じる。
  • 認知的なプロセス、あるいは擬人的な解釈では、何がその行動の原因となっているのかを予測したり影響を与えることができない。
という点に留意する必要があるように思う[]。
]オリジナルの論文を拝読していないので、いろいろ誤解があるかもしれない。

 次回に続く。