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津山線沿いのイシミカワ。迷惑雑草だが、宝石のように美しい実をつける。9月9日の楽天版に関連記事あり。 |
【連載】ヒューマニエンス「“快楽” ドーパミンという天使と悪魔」その1 9月9日に初回放送された表記の話題についての感想と考察。なお、ヒューマニエンスは、過去の再放送と新しい話題が入り交じって放送されているが、私が把握している放送リストはこちらに挙げた内容であり、現時点で31回となっている。 ヒューマニエンスの番組はどの回も意義深いが、この回のドーパミンの話題は、行動分析学の基本原理である強化と密接に関係しており、特に興味深く視聴した。 番組のタイトルでは「快楽」と言う言葉が使われているが、番組冒頭ではトークパートナーのいとうせいこう氏が、「 ドーパミンは、これまでは快楽だけに結びつけられていたが、今では鬱病とか精神疾患とかにも重要であることが分かっており、ドーパミンが出るかどうかで人間が調子を崩すという点で、血液とかと同じくらい大事なものなんじゃないかと思っている【←長谷川の聞き取りに基づく要約】」と述べておられたように、ドーパミンのさまざまな役割が知られるようになっている。 続いて、カリブ海に浮かぶセントクリストファー・ネービスのセント・キッツ島で、島内に生息する猿が観光客が飲むお酒をかっぱらって酩酊状態に陥る映像が紹介された。さらに、人間の、酒やタバコや買物の依存も含めて、ドーパミンが依存の原因になっていることが指摘された。 ドーパミンはグルタミン酸やGABAなどを含む神経伝達物質の一種で、ドーパミン神経細胞で作られる。なお、ウィキペディアでは、 ドーパミン(英: dopamine)は、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、アドレナリン、ノルアドレナリンの前駆体でもある。運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる。セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンを総称してモノアミン神経伝達物質と呼ぶ。またドーパミンは、ノルアドレナリン、アドレナリンと共にカテコール基をもつためカテコールアミンとも総称される。医学・医療分野では日本語表記をドパミンとしている。と説明されていた。 ドーパミンがなぜ快楽を引き起こすのかについて、坂上先生(玉川大学)は、「大脳基底核の入口にある線条体にドーパミンの情報が送られることが私たちの喜び、快感に繋がっている」と説明された。ドーパミン神経細胞の殆どは中脳にあるが、その軸索の伸びた先に線条体がある。通常の神経細胞のネットワークはいくつもの細胞が連なっているが、ドーパミン神経細胞は1本の長い軸索で直接目的地の線条体に作用している。 進化の過程を見ると、もともとドーパミンは「体にとって栄養があるというプラスの状況になったときに快楽を感じているように使うのが、生物にとって一番効率がよい」(名古屋市立大の木村幸太郎先生)という役割を果たしていたようだ。木村先生が研究しておられる線虫の場合、動き回っているうちに餌の大腸菌に遭遇するとドーパミン神経細胞が反応する、そうすると、線虫は動きを緩めて餌のある場所に留まろうとする。 ドーパミンの役割がこうした原始的な生物に由来していることに関連して坂上先生は、 生物には共通部分がある。それは呼吸をして、栄養をとって、排泄をして生きていくということだが、これは人間でも線虫でも変わらない。自動車のエンジンの開発では、古いエンジンを新しいエンジンに丸ごと取り替えるが、脳の進化では古いものは残され、残した上に新しい脳をどんどん重ねていくという進化するので、生きていくのに最も基本的なメカニズムは多くの生物でかなり共通している。と述べられた。このあたりの考え方は、ラットやハトを被験体とした実験的行動分析学の研究を人間行動の分析に役立てる根拠にもなりうるものであり、だからこそ、まず、人間と人間以外の動物の行動に共通した強化の原理が体系化され、その原理で説明できない部分を上に重ねる形で言語行動の原理を体系化する意義が保証されるのである。もしそうでなくて、車のエンジンを丸ごと取り替えるのと同じように、人間の脳が動物の脳とは全く異なる新しい脳として取り替えられたものであるなら、人間の行動の原理は、動物とは全く異なる形で体系化できるはずだが、これは進化の歴史からみて妥当とは言えない。もちろん、AIのように誕生した時点から原始生物とも人間の脳とも無縁であるものについては、生物進化とは全く無関係な形で開発を進めることもできるはずなのだが、後述するように、実際の研究はそういう形では発展していないようだ。最近のディープラーニングなどのAIの発展が、強化の原理からヒントを得たものに依拠しているというところはまことに興味深い。 次回に続く。 |