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【連載】ヒューマニエンス「“天体のチカラ” 絶滅と進化のインパクト」(4)「磁場や重力の影響」 昨日に続いて、2021年12月16日に初回放送された表記の番組についての備忘録と感想。今回で最終回。 放送の終わりのほうでは、天体のうちでも最も身近にある地球の影響が取り上げられた。 まずは磁場の影響。地球上の生物の中には、磁場を方向の手がかりにして移動する磁性細菌、渡り鳥があるが、他にも、昆虫や魚類、爬虫類、哺乳類などで磁場を感じる生物が多くいるという。眞渓(またに)歩先生(広島大学)の研究によれば、人工的に磁場を発生させると脳のアルファ波の振幅が小さくなることから、人の脳が磁場を何らかの形で処理している可能性があることが示唆された。知らない町でなんとなく東西南北の方向が分かるという可能性も論じられたが、これはかなりあやしい。よほど曇っていない限りは太陽の方位と時刻から南の方角は分かるし、日当たりを重視するために街並み自体が南向きに建てられている場合もあり、それらが手がかりになっているように思われた。 続いて取り上げられたのは、重力の影響であった。 まず紹介されたのは、遠心力を利用した人工重力の装置である。重力がない宇宙空間では、筋肉や骨密度の低下などさまざまな身体機能の低下が報告されているが、人工重力で地球と同じ重力をつくればその問題が解消できる可能性がある。国際宇宙ステーションで行われたマウスを使った実験では、人工重力ありの条件では、骨や筋肉の量の低下が見られず、また網膜の異状も起こらなかったという。 ちなみに地球と同じ重力を実現するには、マウスの飼育箱サイズでは1分間に77回転の速さが必要だが、2日くらいすると慣れてくるとのこと。但し半径が大きくなればゆっくりな回転で十分であり、直径1kmの宇宙船であれば1分間に1.3回転で済むという。 上記の研究に関連して検討すべきこととして、地球の重力1Gが最適であるかどうかという点がある。これまでの研究によると、無重力状態で速筋が増えすぎるという現象は月の重力1/6Gでは抑制できないが、火星の重力1/3であれば大丈夫であるという。 重力の影響として次に取り上げられたのは、もし重力が無かったら人類はどのように進化するかという話題であった。地球が崩壊して大型宇宙船で世代を重ねていくようになればその可能性は無いとは言えない。その場合、かつてSF小説の挿絵に描かれていたタコのような火星人の姿になる可能性もある。もっとも、脳は必要なければ使われなくなるため、肥大化するかどうかは分からない。動物の骨格を構成する前後軸、左右軸、背腹軸のうち、重力に関係した背腹軸は無くなるとされた。 ここからは私の感想・考察になるが、国際宇宙ステーション(ISS)ではなぜ無重力状態のままにしておくのか、少なくとも居住スペースは人工重力で補ってもいいのではないかと以前から疑問には思っていた。もっとも地上ではできなくてISSのみで可能になる実験というのはその多くが長時間無重力状態に晒した時の影響を調べる実験であるゆえ、人工重力を作り出してまでお金をかけてISSを維持するメリットは無いのかもしれない。 いっぽう、宇宙大作戦(スタートレック)など、殆どのドラマでは宇宙船の中は地上と同じ重力が保たれている。これはもちろん、撮影が地球上のセットの中で行われているからであるが、実用的に見ても、宇宙船内は一定の人工重力を保つように設計されることになると思われる。 もう1つ、宇宙大作戦では、登場する殆どの宇宙人は、バルカン星人もクリンゴン人も、みな地球人とほぼ同じ体格になっている。これももちろん、撮影上の都合でそうなっているからに過ぎないのであって、ホンモノの宇宙人は、それぞれの星の重力に影響されて、遙かに多様な大きさ、形態になっているように思われる。また、重力以外にも、大気の濃度、構成成分、共存する他生物の影響を受けるはずだ。 |