じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 津山線沿いで見かけたマルバルコウソウとイシミカワ。最近は除草剤散布が徹底しているが、並行する歩道との間の金網にはいくつかの植物が枯れずに残っている。

2022年6月3日(金)



【小さな話題】NHKクローズアップ現代『漫画もドラマも!?“タテ型コンテンツ”が大流行!』

 6月1日の夕刻、NHK-BSで表記の番組の再放送をやっていた(初回放送はNHK総合で5月31日。こちらに取材ノートあり)。

 放送では主としてスマホで視聴するタテ型動画のメリット、デメリットが取り上げられていたが、静止画写真でも同じことが言えるように思われた。

 放送ではまず、映像作品が誕生して127年になるが、それ以来ずっとヨコ型の映像が主流であったこと、ところが最近ではスマホの影響でタテ長の動画が流行しており、動画だけでなくドラマやマンガも縦長、さらには「縦長映画祭」が行われるなど、広がりを見せていると紹介された。

 そもそもタテ型コンテンツが生まれたのは、スマホの形態が縦長であったことによるが、結果として、タテ型の特長が活かされるようになり、縦長にすることで注目を浴びるようになった動画もあるという。

 番組スタッフが、効率諏訪東京理科大学・篠原研究室と共同で行った実験によれば、全く同じ動画を縦長と横長で提示した場合、
  • 横長動画では視線はさまざまなところに動くが、縦長動画では視線は殆ど動かない。
  • 人間の視野は目の構造上左右に200°ほどあるがこれは単に「見えている範囲」。きちんと見えている範囲(有効視野)は中心の30°程度であるという。
  • 横長動画では、視野の端に情報が出るとついそちらのほうに視点が動くが、タテ型動画は30°の視野に収まっており、眼球を動かさなくてもいいので、筋肉に負担がかからず楽に集中できる。内容がすんなり自分のほうに入ってきてその分理解しやすい。
  • ヘモグロビンの濃度変化により脳活動の推移を調べたところ、動画の中の登場人物が話しかけてきた場面で、ヨコ型動画では活動はすぐに低下するが、タテ型動画では高い状態が維持された。これは、タテ型動画のほうが集中状態を維持しやすいことを示す。
  • タテ型動画ではつい集中しすぎてしまうあまり、1つのタテ型コンテンツを見続けられる時間は10分程度が限界。次々とコンテンツを変えたくなる。
  • 縦コンテンツのほうが集中が続きやすいということは無理がかかりやすいとも言える。だから縦コンテンツの方が長い時間見ることにはつらいという意見がある(篠原菊紀さん)
といった違いがあることが明らかになった。

 さらに、テレビプロデューサーの佐久間宣行さんは
  • まず大前提として、縦に持っているスマホを横にするだけで一手間になり視るのを止めてしまう傾向がある。
  • 今のZ世代は子どもの頃からスマホやタブレットに慣れているので、タテ型にしないと取り込めない。
  • タテ型は情報量が少なくなるぶん没入感はあるので、語りかけるワンショットが多くなる。
  • タテ型は「横移動」ができなくなるので画面をパッと切り替えるような映像になる。
  • 会話の字幕を上下に入れるような画面もけっこうすんなりと受け入れてもらえた。
  • お笑いコントの動画では、ツッコミの人が撮影者にまわっているため、視聴者が自分でツッコミに参加しているような感覚になる(二人称感覚?)。
などと述べておられた。

 タテ型コンテンツの効果は昔から知られており、有名な例としてはチェ・ゲバラの肖像写真がある。元は横長で左右に人や植物が写っていたが、ゲバラの死後に左右の部分をカットして縦長にしたことで注目されるようになった。写真評論家の島原学さんによれば、「横長だと情報が増えて解釈を多様にしてしまう。縦だからこそ象徴的な存在になる」と指摘しておられた。いっぽうヨコ型の特長を活かした絵画としてはレオナルドダビンチの『最後の晩餐』がある。加藤磨珠枝先生(立教大学)によれば、関係性などつながりを描くために横の構図をつかっているのではないかと指摘しておられた。バラエティー番組、リッチコンテンツ、紀行番組なども横長でないとうまく表現できない。

 放送では、タテ型動画による住宅情報の例も紹介された。従来、家の中などの動画は広く見せるためにヨコ型が常識であったが、タテ型にすることでよりリアルな肌感覚を得られる。また、ファッション動画を縦長にすることでモデルさんの全体の姿が際立つようになること、さらに教育コンテンツで、タテ型の単語帳とか、ノートの俯瞰映像をタテ型にすることのメリットなども紹介された。

 放送の終わりのあたりで興味深かったのは、野球ゲームとサッカーゲームの違いであった。佐久間さんによれば、スマホゲームでは野球ゲームのほうが人気があるが、これは野球ゲームではピッチャーとバッターの関係をタテ型で提供できるが、サッカーはヨコ型でしか表示できないことに影響している可能性があるという。

 タテ型コンテンツの今後について佐久間さんは、「メディアの進化に合わせて中身も進化するというのは歴史も証明しているところなので、いま、これからタテ型のリッチなコンテンツができてブレイクする前の前夜になっている」というように語っておられた。

 放送の最後のところでは、1枚の絵が切れ目なく繋がり1話分81メートルにもなる「タテ型マンガ」(エスプレッソ佐藤さん)が紹介されていた。




 ここからは私の感想・考察になるが、私自身はスマホを持っていないし、タブレットも滅多に持ち歩かないため、タテ型コンテンツに接する機会は殆ど無い。但し、楽天版に写真を掲載する時などは、タテ型にするか、ヨコ型にするかはけっこう気になるところがある。放送の中でも指摘されていたように、被写体を強調するときはタテ型もしくは正方形型、風景を掲載する時はヨコ型になることは確かである。

 私のようなヨコ型人間が今さらタテ型コンテンツに馴染むことはおそらく無さそう。というか、度の強い老眼鏡をかけてまでスマホの小さな画面を見たいとは思わない。
 いっぽうZ世代がこの先、タテ型コンテンツにどのような影響されていくのかは気になるところである。少ない情報量のもとで何かに没入してしまうことで多面的な見方ができなってしまうと、世論操作も容易となり、少し前のトランプ大統領のような自国優先主義がはびこる恐れもありそう。
 但し、人間の目の特性から言えば、やはりヨコ型コンテンツこそが最も落ち着いて視聴・閲覧できる設計であることは確かであり、いずれはヨコ型に回帰していくのではないかという気もする。