じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 11月11日の日没後の赤い空。ちなみに私が小中学生の頃の『天文年鑑』では「黄道光観望の好機」というような記載があったが、最近は殆ど耳にすることが無くなった。リンク先には「天候の安定した日本の太平洋側では、夕方の黄道光は1月から3月の厳冬期に見やすい。明け方の黄道光は澄んだ空となる秋の9月から11月に見やすい。空の条件が極めて良い日本国外の未開拓地では、黄道に沿った黄道光の一周全体を見ることができる。」と記されているので、どっちにしても11月夕方には見えにくいようだ。


2022年11月12日(土)



【連載】チコちゃんに叱られる!「サケが生まれた川に戻れるしくみ」

 11月11日に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この回は、
  1. なんでサケは広い海から生まれた川に戻ってこられるの?
  2. ポリフェノールってなんなの?
  3. なんでサッカーのスローインは両手で投げるの?
という3つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。

 さて1.の鮭の話題だが、放送日の11月11日は「鮭の日」であるという。放送でも紹介されたように、これは「鮭」という漢字の旁の部分を分解すると「十」と「一」が2つあることに由来している。ウィキペディアのリンク先によれば、
  • 1987年、新潟県村上市が11月11日を鮭の日に定めた。
  • 1992年に大阪の卸売市場の卸業者と仲卸業者が母体になった「鮭の日制定委員会」(「鮭の日委員会」に改名)が同じく11月11日を「鮭の日」と制定。日本記念日協会(1991年発足)に申請。
  • 2003年、日本記念日協会から『11月11日は「鮭の日」』と認定を受けた。

なお「サケ」を「鮭」と書くのは国訓であり、中国語では「鮭」はフグをさすという。

 本題から外れるが、一般社団法人日本記念日協会というのは、記念日を「指定」や「制定」する複数の任意団体の1つ。公式サイトはこちら。11月11日は数字の並びが良いため他にもいろいろな記念日として認定されており、この団体による認定数は59にのぼっている。その中には「介護の日」、「めんの日」、「おりがみの日」、「鏡の日」、「サッカーの日」などが含まれている。

 元の話題に戻るが、今回の疑問は、

●なんでサケは、広い海から生まれた川に戻ってこられるの?

というものであった。このことでふと思ったが、この疑問が成立するためにはその前提として、

●サケは、必ず自分の生まれた川に戻る

ということを確認しなければならない。この習性については子どもの頃からそのように教わっていて当たり前のように思っていたが、その確認は容易ではなさそうだ。というのは、川で自然に生まれ育ったサケが同じ川に戻ることを確認するためには多数のサケに何らかの個体識別票を取り付ける必要がある。そうした作業をいろいろな川で同時に行い、4年後に、対象河川に遡上してきたサケを一網打尽に捕まえて、個体識別票を頼りに生まれた川に戻ってきた比率を調べる必要があるが、これも相当な手間である。そもそも識別票が4年間もくっつけられるかというのが疑問であるし、膨大な調査費がかかるのではないかと思われる。稚魚を放流する場合はいくらか手間が省けるとは思うが。

 ということで、今回の「なんでサケは広い海から生まれた川に戻ってこられるの?」という疑問は、そもそも前提が間違っている可能性があるように思う。近くの別の川を遡上するサケも相当数いるのではないかという気がする。
 なお、ウィキペディアには「遺伝的には地域差より河川毎の差が大きく、同一河川での年級毎(年ごと)の差は小さい。これは、高い母川回帰性のため河川間の交雑が起き難く、回帰個体の年齢にバラツキがあり年ごとの交配が行われていることを意味する。」という記述がある。遺伝的な特性に地域差がありそれが長年にわたって保持されるという証拠があれば、「生まれた川に戻ってくる」ことは証拠づけられるだろう。

 ということで、以下は、「サケは自分の生まれた川に戻る」ということを前提とした上での話になるが、放送によれば、それは「方位磁石を持っているから」と説明された。日本の河川で生まれたサケは1年目はオホーツク海、2年目の春から秋はベーリング海、2年目の冬からは日本から約5000kmも離れたアラスカ湾で過ごす。その後ベーリング海を通って4年目の秋に生まれた川に戻ってくる。また、サケが川から海に出るのは豊富な餌があるため、いっぽう産卵のために川に戻るのは、海よりも川の上流のほうが天敵が少なく穏やかなためであると説明された。要するに、川でずっと育ったサケよりも海に出て遠方まで泳いでいったサケのほうが生存率が高く、かつ海で産卵するよりも川に戻って産卵・孵化した稚魚のほうが生存率が高かったために、結果的に「川で生まれる→海で育つ→元の川に戻って産卵」という習性が形成されたということであろう。
 では、なぜ、自分の生まれた川に戻るのか?ということになるが、放送では「自分が死なずに生まれ育ったことがなによりも安全だから」と説明された。要するに、自分の生まれた川に戻ったサケから生まれた稚魚のほうが、別の川を遡上して産卵・孵化した稚魚よりも生存確率が高かったために、自分の川に戻るという習性が形成されたということであろう。

 では、どうやっておよそ5000kmも離れた海から自分の生まれた川に戻れるのかということになるが、放送によれば、サケは鼻の粘膜で地球の磁力を感知しており、この方位磁石のようなものによって元に戻れるとのことであった。ベーリング海から日本に戻ってくるサケたちの回遊ルートを調べたところ、地球の磁気線に沿って帰ってくることが分かった。川の近くに戻ったあとはに、サケたちは川のニオイを手がかりにして、自分の生まれた川に向かう。それぞれの川には異なる微生物が繁殖しているため、川にはそれぞれ特有のニオイがある。一例として、長流川(おさるがわ)は、グルタミン酸、アラニン、グリシン、アスパラギン酸を含み、天塩川は、セリン、バリン、ロイシン、リシン、というようにアミノ酸の成分が異なる。サケにとってその違いは納豆とカレーのニオイぐらいの差があるという。

 川のニオイは人間でもある程度見分けられる。放送ではソムリエの田崎真也さんに、江戸川の水のニオイを嗅いでもらい、鶴見川、多摩川、荒川、江戸川の4種類の水のどれと同じであるかをニオイだけで嗅ぎ当ててもらうという実験を行った。田崎さんは、4種類のうち、多摩川と江戸川の2種類のいずれかであることまでは当てることができたが、最終的には多摩川の水を江戸川の水であると回答して惜しいところで不正解となった。

 ということで、放送では「方位磁石を持っているから」が正解とされたが、正確には「サケは方位磁石で大まかな方向を把握でき、かつ、自分の生まれた川のニオイを嗅ぎ当てられるから」というのが正しい説明であった。

 なお、ウィキペディアにあるように、地球の磁極は年々移動しており、北磁極は20世紀中に1100kmも移動したという。であるとすると、サケが方位磁石によって大まかな回遊方向を決められるというのは、ある程度、それぞれの年に生まれた個体によって学習されると考えられる。それはそれとしても、地磁気逆転が起こった時にはどうしていたのかが気になるところだ。
 あと、「自分が死なずに生まれ育ったことがなによりも安全だから」という方略と、「自分が生まれた川にこだわらず、ランダムに川を選んで遡上する」という方略のどちらが適応的であるのかもイマイチ分からない。自分の生まれた川だけに固執してしまうことは近親交配の確率を増やしてしまうという点、また、より成育に適した川に棲む可能性を閉ざしてしまうという点で、不適応的ではないかと思われるのだが、いろいろシミュレーションをしてみないと何とも言えない。人間に喩えるならば、「先祖代々、自分の生まれた村で暮らす」という方略と「自分の住む場所は自由に選べる」という方略のどちらのほうが適応的か、棲み分けと競争のどちらが進化を促進するか、といったファクターも入ってくるのでなかなか難しい。

 次回に続く。