【連載】サイエンスZERO「単細胞の“知性”に迫る 謎多き粘菌の世界」(1)粘菌は情報処理をしているか?
少し前の放送になるが、11月13日に初回放送された、NHK「サイエンスZERO。
●単細胞の“知性”に迫る 謎多き粘菌の世界
についてのメモと感想。単細胞生物である粘菌の「情報処理」能力や、生命進化の謎を探るという興味深い内容であった。
放送ではまず、粘菌の基本的な性質が紹介された。
- 胞子からアメーバ状の単細胞が生まれ移動を始める。
- この単細胞が、自分と異なる性の個体と接合すると、細胞の中の核のみを分裂させることで巨大化し、スライムのような変形体へと姿を変える。
- 変形体は環境が悪くなると子実体を作って胞子を散布し次の世代を作る。
粘菌についてはこれまでにも種々の雑学系番組でも紹介されていたが【例えば、2019年6月19日放送の『又吉直樹のヘウレーカ!「“単細胞”をナメてはいけない?」』】、今回の放送では粘菌(変形体)が持つ「情報処理」能力という興味深い話題が取り上げられた。放送で紹介された実験では、
- 1個体の変形体を分割して迷路の上に配置する。
- 分割された変形体はもともと同じ個体なので、まもなく通路に沿って迷路全体に管を伸ばして体をつなげる。
- 迷路の両端2箇所にエサ(オートミール)を配置する。
- 2つのエサを結ぶルートは複数あるが、しばらくすると遠回りの管は細くなり、最も短いルートは太いまま残り、「最短のルートを解く」ことに成功した。
- このほか、迷路の直角の角の部分を曲がる時に斜めに横断するなど、距離を節約するような変形も生じた。
変形体が迷路を「解決」するための方略は、
- エサから距離の近い管は流れが活発となり自然に太くなる。
- エサから離れている管は流れが不活発となり細くなって最終的には消えてしまう。
となっており「流量強化則」と命名された。これを数式で表すと、
Dij(t+Δt)=Dij+Δt{f(|Qij(t)|)−αDij(t)}
ちょっと未来の管の太さ=現在の管の太さ+流量強化則に則った太りやすさ−流量強化則に則った痩せやすさ
というようになる。粘菌の変形体は、こうして管ごとに情報処理を行い、効率的なルートに体を残しているという。
ここでいったん感想・考察を述べさせていただくが、「強化則」というのは行動分析学である強化の原理にも繋がるところがあり、じっさい、量的分析では、似たような数式化が提案されている論文を見たことがあった(matching法則も似たようなものか)。
もっともこれが、単細胞が情報処理を行っているという証拠になるのかどうかはイマイチ納得できないことがある。
- 植物が地中に根を張る場合でも、水分や栄養分の多い土壌に到達した根は太くなる一方、水分や養分の乏しい場所に伸びた根は細くなりやがて消失する。これと同じことではないか?
- 砂漠地帯に降った大雨が流れ出して川を作る場合も、「低い場所に流れる」「流量が多ければ川底が削られる」といった法則によって、四方に流れた水はいずれ一本の川になる。この形成過程も同じことではないか(但し、川の場合は、しだいに蛇行が進むため、必ずしも最短ルートで流れるようにはならないが)。
ということで、粘菌が情報処理を行っているというなら、植物の根や川の流れも情報処理を行っているのではないかという疑問が残った。
ここで念のため、「情報処理」とは何か?検索したみたところ、ウィキペディアでは
- 情報処理(じょうほうしょり、英: information processing)は、元の「情報」から、計算により加工・抽出などをおこない、別の形の情報を得る手続き(処理(プロセス))である。
- 利用・活用が可能な付加価値を目的とすることが多いが、定義としてはそれが目的でなくてもいっこうにかまわない。
- 法などでの定義としては、日本の情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)の第2条第1項において、「情報処理」とは、電子計算機(計数型のものに限る。)を使用して、情報につき計算、検索その他これらに類する処理を行うことをいう。』(一部抜粋)という規定が見られる。ここで「計数型」と限っている理由は(「計数」とはディジタルの意)、アナログコンピュータ(アナログ計算機を参照)を除くためである。
となっていた。狭義の「情報処理」の定義からは、粘菌が情報処理を行っているとは考えにくいように思われる。但し後述するように、粘菌の特性を模した、新しい形の情報処理を行うことはできそうである。
次回に続く。
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