じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 7月21日夕刻の岡山はよく晴れて、西の空に金星と月齢3.6の月が輝いていた。月の下には火星も見えていた。

2023年7月22日(土)



【連載】チコちゃんに叱られる!「ストレスがたまると甘いものを食べ過ぎてしまう理由」

 7月21日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
  1. ストレスがたまると甘いものを食べ過ぎてしまうのはなぜ?
  2. 彫刻はなぜ裸?
  3. ゴルフボールにはくぼみがあるのはなぜ?
という3つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。

 「ストレスがたまると甘いものを食べ過ぎてしまう理由」について、放送では「腸がカビに支配されているから。」が正解であるとされた。桐村里紗さん(東京大学大学院共同研究員)によれば、人間の腸内には、約1000種類、100超個の腸内細菌が棲息している。それらはビフィズス菌や乳酸菌のように私たちの健康維持に欠かせない善玉菌、ウェルシュ菌のように体に悪影響を与える悪玉菌、さらにカンジダ菌のように普段は特に悪さもしない日和見菌の3種類に分類される。
 ふだんこれらの3種類は腸内で共存しているが、ストレスによる暴飲暴食で糖質をとる量が増加すると腸の中でカンジダ菌が大繁殖する。カンジダ菌は糖質が大好物であり、ストレスがかかった時に甘いものをとりすぎると大繁殖して腸内を支配し、悪玉帝国を作ってしまう。腸内でたくさん増えたカンジダ菌は、アラビノースという血糖値を下げる物質を産出する。そうすると低血糖となりもっと甘いものが欲しくなる。さらにカンジダ菌は、細胞のエネルギーづくりの邪魔をする酒石酸とシトラマル酸を出し、疲れた状態が続く。そうすると脳が体にエネルギーが足りないと勘違いしてさらに甘いものを欲しがるようになり悪循環に陥る。
 カンジダ菌を増やさないためには歌ったりスポーツでストレス発散をしたりバランスのいい食事を摂ったりすることが推奨された。このほか、また甘いものを食べるとドーパミンが分泌されて食べ過ぎの原因となる場合もある補足説明された。




 ここからは私の感想・考察になるが、まず、解説者の桐村里紗さんが、「東京大学大学院共同研究員」というけったいな肩書きで紹介されていたのでウィキペディアで検索したところ、
  • 1980年、岡山県生まれ。東京都港区立高輪台小学校卒業後、港区立高松中学校入学。その後、岡山県立京山中学校【←岡山市立の間違いだろう】に転入、卒業。
  • 2004年、国立愛媛大学医学部医学科を卒業。恩賜財団済生会岡山済生会総合病院を経て、東京医科大学皮膚科から第3内科に入局し糖尿病診療に従事。
  • 2018年2月tenrai株式会社(本社・東京都港区南青山)を設立し、代表取締役医師に就任。
  • 2022年9月 東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員 就任。
という経歴をお持ちであることが分かった。このほかウィキペディアでは、
  • 人の意識変容から行動変容を促す為「薬の代わりに情報を処方する」ことを重視し、テレビ・雑誌・WEBメディア、書籍、講演活動等での情報発信を積極的に行う。
  • 現在は、人だけを最適化するヘルスケアは実現不可能であるとし、生態系や環境問題などへの洞察を踏まえ、人と地球を一体と考える「プラネタリーヘルス」を実現することを提唱している。
  • 「プラネタリーヘルス」実現のため、2021年鳥取県米子市のJリーグチーム・ガイナーレ鳥取と共に、ソニーコンピューターサイエンス研究所指導の下、協生農法(シネコカルチャー)の実験圃場を開き、耕作放棄地など地域課題の解決に取り組んでいる。 人の意識の進化があらゆる病気や地球の病気である様々な社会課題を解決する鍵であるとし、人の意識進化を促す活動を行っている。
  • 東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座、特任准教授光吉俊二らが人工自我プログラムに導入研究している新しい演算子「切算(cut)・動算・重算・裏算(inv/rev)」を広く社会に普及し、人の意識の拡張・変容から様々な分野に応用する活動としてuzwa.jpにて情報発信を行っている。
  • 幼少期から難治な病気であった母親が各大学病院において診断も治療もされず、様々な代替医療を試していたことから西洋医学に捉われず、統合的な視点を重視する。
  • 分子整合栄養医学(オーソモレキュラー 医学)やバイオロジカル医療、腸内フローラ研究などを基にした包括的な治療を行う。
  • 病気になった人を病院で待ち治療することは自分の役割ではないと考え、tenrai株式会社設立と共に一般的な医療活動を辞めている。
  • ホンマでっか!?TVには、当初「ニオイ評論家」という肩書で出演していたが、現在は「腸活評論家」という肩書に変わった。
  • FIGARO.jpにおいて「プラネタリーヘルス」をテーマとした連載を行っている。
  • 株式会社ダイセルのヘルスケアメディアであるWELLMETHODにおいて、総合医療監修並びに執筆連載を行なっている。
といった紹介があった【一部略】。ということで、「東京大学大学院共同研究員」といっても大学院を出たばかりのポストドクターではなく、医師の資格を持ち、かつ幅広く執筆活動やテレビ出演、実践活動をされている方であることが分かった。
 ウィキペディアで紹介されていた「病気になった人を病院で待ち治療することは自分の役割ではない」というお考えは大いに賛同できる。じっさい私なども複数の医療機関のお世話になっているが、殆どの場合は、悪いところがあるから診療・処方するというだけであって、できるだけ悪くならないようにするにはどうしたらよいかについては何も教えてくれない。
 もっとも、これだけの経歴をお持ちであるなら、「医師」、「腸活評論家」という肩書きで十分であり「東京大学大学院共同研究員」と名乗る必要は無いように思われる【しかも、大学院の所属は「工学系研究科バイオエンジニアリング専攻道徳感情数理工学講座」となっていて、今回のカンジダ菌とは専門内容が異なる】。「東京大学大学院」というように権威付けする必要は無いように思う。

 前置きが長くなったが、糖分を長期間摂り過ぎると、カンジダ菌の大繁殖によってアラビノース、酒石酸、シトラマル酸を出し、甘いもの依存の悪循環が生まれることはその通りであろう。もっとも、これはカンジダ菌が殖えたあとの話であって、「ストレスを受けた時に甘いものを食べ始める」というきっかけを説明するものではない。きっかけをもたらしているのは、放送の最後に補足説明された「甘いものを食べるとドーパミンが分泌される」というメカニズムが働いていたためであろう。

 食物の好みについては今から50年以上も前に、

食物選択における学習の役割(1982年、『哺乳類科学』, 22, 29-51.

という論文を書いたことがあった。その中でも言及しているが、雑食性動物の多くは糖類ばかりでなく、サッカリンなどの人工甘味料を好むことでも知られている。しかし、サッカリンはカロリーゼロであり、カンジダ菌を殖やすことにはならないはずだ。であるなら、甘いものの過剰摂取や依存を防ぐには、我慢ではなく人工甘味料による代替のほうが実行しやすい。もっとも人工甘味料の中には発がん性が疑われているものもあり、慎重な対応が求められる。
 このほか、いくら甘味が生得的に好まれるといっても、ノンカロリーの甘味料ばかりを摂取しているとカロリー源が欠乏し疲労を招く可能性がある。そうなった時、雑食性動物では、「甘味は強いがノンカロリー」よりは「甘味は低いが高カロリー」の食べ物を選ぶようになるはずだが、最近の研究がどうなっているのかは調べていない。

 次回に続く。