じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa


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[今日の写真] サザンカと時計台。

2月2日(水)

【思ったこと】
_00202(水)[心理]「犯罪心理」を語ることについての私の方針

 1月30日の日記で、新潟県で起きた少女の長期監禁事件に関連して、
【なぜ女性は逃げ出さなかったのか】 という疑問に対して、「当初の恐怖で逃げる気力を喪失していた」とか「心にカギがかかった状態になってしまった」といった心理学関係者のコメントが寄せられているようだが、この手のコメントは

ああ、そのことでしたら、ほかにもこういう事例が知られています。それと同じですよ。

というように、一見不可思議と思われる現象が
ありがちであることを指摘したまでであって、本質的には何も説明していない。
と発言したところ、こころの散歩道(日記猿人登録日記はこころの散歩道 DAY、ReadMe登録名は「こころの散歩道:心理学総合案内:NEW 行方不明少女9年ぶり保護 の犯罪心理」)の碓井真史さんからお互いを更新する掲示板
「ありがち」というのとはニュアンスが違いますが、「人間誰でもそうなる可能性がある」と言ったことをコメントしています。

そういう理解をすることが、「なぜ逃げなかった!」とか、「弱虫!」などといった被害者を責めるような態度を防ぐことになるのではないかと考えているからです。
という書き込みをいただいた【前後の文章省略、改行部分変更させていただきました】。私の発言は、碓井さんの日記やHPを拝見する前に書かれたものであったが、その後、新潟日報の記事などを拝見すると、時間の順序を気にとめずに私の日記と新潟日報を同時に読まれた方は、なんだか上記の「心理学関係者」が碓井さんのことであるように受け止められてしまうタイミングになってしまった(実際は、NHKテレビと朝日新聞記事に寄せられた別の心理学関係者の方々のことを念頭に置いていたのだが...)。

 さて、「ありがち」の件だが、碓井さんが言われているように、「人間誰でもそうなる可能性がある」ことを主張することにもそれなりの意味がある。例えば、オ○ムや統一○会にマインドコントロールされた信者たちは決して自主判断力の無い人間ではなかったし、豊田商事に騙されたお年寄りは決して欲が深かったわけではない。「ありがち」を指摘すれば、被害者への偏見は解消されるし、今後の同種の被害の防止にも役立つ。

 さらに、被害者本人や家族にとって1つの癒しになることも間違いない。交通事故で愛児が脳死寸前の状態になってしまった母親に対して、いくら事故の客観的原因を説明したところで癒しにはなるまい。むしろ「同じようなお子さんがたくさん居るんですよ。もっと悲惨な状況の方もおられます」と言ったほうが、いくらか励ましになるだろう。

 とはいえ、「ありがち」だけではやはり再発の防止にはつながらない。交通事故がありがちでは困る。事故で重傷になった人の治療方針を事情を知らない外部の人間があれやこれや論じても建設的な結論は出てこない。そういう治療は主治医に任せて置いて、むしろどうすれば同じような事故の再発が防げるかを真剣に考えるべきである。今回のケースで言えば、監禁された女性のケアの問題は、スタッフがクローズドな環境のなかで「ひっそり」と行えばよく、むしろ我々がもっと議論しなければならないのは、なぜこのような長期間の監禁を許してしまったのか、引きこもりや家庭内暴力に対して病院や臨床家の対応が適切であったのかどうか、という点にあるのではないかと思う。この点で「精神障害」に関するタブーがあってはならないし、臨床家どうしの庇い合いは決して許されない。

 もう1つ、「ありがち」の指摘は思考停止をもたらす恐れがあるという点も指摘しておきたい。ワイドショー番組や週刊誌などでは、しばしば、子供が殺された事件を「お涙頂戴もの」として取り上げて、大きな謎があるかのように煽ぎたてる。そして、その番組や週刊誌で「ありがち」であるとの説明を聞くことでやっと安心した気持ちになる。行動分析的に言えば、
  1. 事件の詳細な報道。残虐性や異常性を煽ぐ[=確立操作、嫌子の提示]
  2. 視聴者や読者に対して「ありがち」であることを解説[=嫌子除去]
  3. 視聴率増加あるいは読者増加[=情報提供者側に対する強化]
という構図ができあがっており、新鮮味が無くなって上記の確立操作が低下すれば、事件が解決しようとすまいと、もはや省みられなくなる。この2.のところでは、しばしば心理学者のコメントが登場してくるわけだが、私はそういうお先棒を担ぎたくない。

 昨年の11月26日の日記でもふれたように、文京区の事件では、ワイドショー番組などで当初「お受験」が殺人の原因であるかのように騒ぎ立てられた。これなどまさに上記の1.〜3.の構図どおりであった。

 私個人は、「ありがち」を指摘するのではなく、「ありがち」だと思われていることについて、もっと別の可能性は無いのだろうかというクリティカルな視点を提供する立場から心理学者としての発言を続けていきたいと思っている。
【ちょっと思ったこと】
【スクラップブック】
【今日の畑仕事】
大根、人参を収穫。ホウレンソウ種まき。