じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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[今日の写真] 大阪でダイバージョナルセラピーの研修会があり講師として出席した。会場のすぐ近くには高津(コウヅ)公園があり、ちょうど梅の花が見頃だった。高津宮についての情報はこちら


3月10日(木)

【思ったこと】
_50310(木)[教育]大学コンソーシアム京都 「評価される大学教育」(6)河合塾「学生による授業評価比較調査」の問題点(1)

 3月5日・6日に行われた

●大学コンソーシアム京都 第10回FDフォーラム 「評価される大学教育」

の連載6回目。今回からは、2日目にキャンパスプラザ京都で行われた分科会のうち、


●第1分科会 授業評価のあり方

の参加感想を述べることにしたい。

 この2日目の分科会であるが、私はもともと、第3分科会「FD活動の組織的取り組み」のほうに参加する予定であった。ところが、前日にレジュメ・資料集の冊子に目を通していたところ、第1分科会の話題提供の1つ、

●滝紀子氏(河合塾大学事業本部評価研究部長):学生による授業評価−−−14大学の授業評価制度の総括と今後の課題

において、岡山大学に関する紹介内容に事実誤認もしくは、説明不足がもとで誤解を招くのではないかと思われる記述があることに気づいた。

 そこで実際にその場で拝聴した上で、もしそれらについて訂正や補足がなかった場合には強引に発言を求めてでも訂正をお願いする必要があると考え、急遽、そちらの分科会に参加することを決意した。会場は2〜3の空席を除いてほぼ満席であったので、私が勝手に参加したことでご迷惑をかけたかもしれないが、とにかく、事実誤認に関しては、ご発表の際にも、その後の(フロアからの)質問票に対する回答の際にも一切訂正や補足説明がなされず、私の挙手による発言で初めてそのことが参加者に伝えられたわけだから、私のとった行動は正しかったと思う。とにかく、この種のシンポでは、正確な情報を共有した上で議論を進めることが大前提となる。学術集会ほどの厳密さは要求されないかもしれないが、不正確な調査結果やそれに基づく不当なランキングが広められることは、被調査対象者の名誉を傷つけることになるし、だいいち、河合塾自身の信頼を失うことにもなる。各大学のFD活動について固有名詞を挙げてランキングを公表すること自体は大いに結構であると思うが、とにかく正確な調査と周到な事実確認をお願いしたいところである。




 まず、この調査は、平成15年2月に、「授業評価の先駆的大学を対象」(←分科会コーディネーターの表現)に行われたものであるという。先駆的な14大学の中に岡山大学が選ばれたこと自体はたいへん名誉なことであることは素直に喜びたいと思う。

 しかし、この調査が「平成15年2月」という2年以上も前に行われたことについては冒頭に口答で紹介されただけであって、レジュメのどこにも明記されていない。しかも、「今回の調査では」とか「○○大学では△△をしている」というように現在進行形で語られたため、

●その大学において、調査時点で実施されており、かつ現在も継続されている事柄であるのか(または、その大学において、導入されておらず、現在も相変わらず導入されていない事柄であるのか)

それとも

●その大学において、調査時点では実施されていなかったが、現在では実施されている事柄であるのか(または、その大学において、調査時点では実施されていたが、現在は中止されている事柄であるのか)

が、はっきりしない。

 じっさい、岡山大学では、平成16年度から質問項目を全面改訂しており、また教養教育科目に関しては個々の科目の結果の原則公開(Webによる学内限定公開)を実施している。また、17年度以降は、総合的な評価に関わる結果を教員の個人評価項目に取り込むことが決定されている。

 このように、授業そのものの改善ばかりでなく、授業評価に関わるFD活動そのものも年々改善されているというのに、最新の情報収集で定評のある河合塾がなぜ平成15年2月以降の変化をフォローせず、2年前の「調査結果」ばかりをひっさげて各所で紹介しているのか、理解に苦しむところである。いずれにせよ、他の分科会参加者にとっては、レジュメに書かれてある内容しか伝わらない。調査報告を要約紹介する場合には、最低限、調査年月日を明記し、かつ、その後の変化について但し書きをしておくことが不可欠であると思う。




 誤解を与えると思われる第二の点は、河合塾として、どこを対象に調査し評価したのかという点に関する表現である。

 レジュメ2枚目の調査対象のところで、

●調査対象:岡山大学(工学部ならびに全学共通科目)

となっていることから、「今回」調査されたのは、岡山大学工学部の専門科目(講義中心)と全学共通の教養科目だけであったはず。ところが、レジュメの後半の、

「必要な質問項目についての評価」というところでは

●岡山大学(工学部以外)→7点 【16調査対象中、悪いほうから2番目】
●岡山大学(工学部)→10点

と2つに分けてランク付けされている。これでは、「岡山大学(工学部以外)」が他学部の専門科目を含むのかどうかが分からない。さらに、最終的な「グッド授業評価モデル」の表では、なぜか「岡山大学工学部」は表から外されており、

●岡山大学(工学部以外)→8点 【15調査対象中、悪いほうから3番目】

だけが記載されていた。

 そもそも、本学における授業評価は、

●全学で統一的に実施する授業評価アンケート(マークシート、自由記述)
●各学部等で独自に実施する授業評価アンケート、あるいは各種聞き取り調査

という二本立てで実施している。河合塾が「グッド授業評価モデル」なる評価を行うのであれば、とにかくこれらをミックスして評価していただかなければ公正とは言えない、ところが、河合塾が実際に行った調査対象は、全学で統一的に実施されている部分と工学部独自のFD活動だけに限られており、他の複数学部で実施されている独自アンケートや、各講座の学生代表への聞き取り調査などの活動については全く調べようともしていなかった。工学部のFD活動に限ってのランク付け公正かもしれないが、それ以外の学部の独自の活動を調べようともせず「岡山大学(工学部以外)」とひとくくりにして不十分さを浮き立たせているのはきわめて不正確でありアンフェアであると思う。




 次に明らかな事実誤認が一点。

 授業評価アンケートの実施時期に関して、レジュメには

●事前に配布して期末試験当日に回収(岡山大)

と記されていたが、岡大では従来よりそのような実施方法はとっていない。滝氏が「事務宛てに事実確認をとっている」と言われたので変だなあと思ったが、おそらく、事務方が

●【担当教員宛に】アンケート用紙を配布し、期末試験当日【以降】に回収している

という意味で確認回答したことを

●学生に事前にアンケート用紙を配布し、期末試験当日に回収している

というように取り違えられたのではないかと推測される。ま、このあたりは、こちら側の宣伝・広報不足にも一因があるかもしれないが、調査実施時期が2月であったとすれば、事務方も教員側の責任者も非常に多忙な時期にあたる。押しかけで回答を依頼されてもすぐには応対できないこともある。

 最初にも述べたように、とにかく、固有名詞を挙げて比較調査、ランキング公表などを行う場合には、対象者に調査目的を告げた上で、念には念を入れて事実確認をとることが必要。結果の発表においても、誤解を与えないような正確な記述が求められる。

 なお、河合塾のランキングについては、事実誤認や誤解を与える表現とは別に、問題があるのではないかと思われる点が他にもあった。次回に続く。