じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真] 3日前のことになるが、大学構内でパタパタと音を立てて飛ぶ大型の蝶を目撃した。図鑑で調べたところ、ヒオドシチョウ(緋縅蝶)であると確認。右上は羽根を開いた瞬間。蜜を吸うときは羽根を閉じていて裏側しか見えないことが多い。花が多いこともあって、その後も3日連続で同じ個体?を目撃している。ヒオドシチョウは長寿の蝶として知られているそうだが、どのくらい長生きするのだろうか。


6月12日(月)

【思ったこと】
_60612(月)[教育]シニア大学院はどこまで団塊世代の心をつかめるか

 6月12日の朝日新聞(大阪本社)に、

●大学、団塊世代へ照準 シニア大学院・中高年学部 少子化で生き残り策

という見出しの記事が一面トップで掲載されていた。「少子化で学生の確保に苦しむ全国の大学が、近く定年を迎える団塊世代の獲得に動いている。」という内容。具体的には、
  • 中高年をねらった学部
  • 東京経済大の全国初の試み!――経済学研究科修士課程でシニア大学院生を募集 学力テスト免除。
  • 関西国際大:シニア特別選考
  • 広島大:学部、大学院に50歳、60歳以上に限定した高齢者枠を導入
  • 東京の有力私立大:団塊世代をねらった新しい学部開設の動き。国立大の大学院と連携して、趣味として多くの中高年が取り組むテーマに関連した授業を展開。
の動きがあるという。

 シニア大学院に関しては私の大学でもすでに検討課題の1つになっているようだが、個人的にはイメージが今ひとつわかない。

 というのは、団塊世代のうちのどのくらいの人たちが、大学院で「研究して」、修士号を取るという道を選ぶだろうか、見当がつかないからである。私自身、毎年、何らかの形で、自治体の生涯学習講座、大学の公開講座、あるいは放送大学の非常勤講師などをつとめているが、確かにシニア世代の方々は、ある意味では若者以上に「学ぶ」意欲が強いとは思う。しかし、大学院というのは基本的に、学ぶ場ではなくて研究をする場である。研究をすることは学ぶこととは違う。まずは、それぞれの学問領域の基礎を学び、最先端の研究方法を身につけ、さらに、先行研究の到達段階を踏まえたうえでオリジナルの研究成果を示さなければならない。これにはかなりの時間と努力が必要だ。

 もちろん、定年前の経験を活かした研究、例えば、中学や高校の先生が教育の傍らで取り組んでいたテーマを修論や博論にまとめあげたり、企業の中で経営や人事に携わってきた人がその経験を活かして独自の理論を体系化するということはありうると思う。しかしその種のニーズに対しては、従来型の大学院でも十分に受け入れ可能であって、シニア世代急増によって新たに対応しなければならないというほどでもないように思う。

 要するに、「少子化で学生確保に苦しむ大学が、何とかして経営を立て直そうとして、シニア世代に照準を合わせる」というような緊急避難的な手段でこういう問題に取り組んでも、団塊世代の大量定年退職が一段落した時には再び定員割れに苦しむのは目に見えている。やはり大学としては、「若者枠」の中で定員割れに陥らないような魅力ある大学づくりに取り組むことが先決であろうと思う。

 シニア世代の多様なニーズの1つとして「大学院で研究する」という選択肢を増やすこと自体には異論は無いが、必ずしもそういうスタイルだけに囚われることなく、
  • シニア世代の豊富な経験やスキルをどうやって若者世代に伝えるか
  • 地域社会においてシニア世代が活躍できる場をどう確保するか
  • シニア大学院、中高年向けの専門学部、自治体の生涯学習講座、各種カルチャーセンターなどをどう整備していくか
ということを総合的に検討していく必要があるのではないかと思っている。