じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



9月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
[今日の写真]
昨日に続いて大阪の写真。ダイバージョナルセラピーのセミナーが開催されたビルの近くに、レトロな建物があった。その左奥では高層ビルを建築中。成都の新旧対照を思い出させる風景だった。



9月8日(金)

【思ったこと】
_60908(金)[心理]日本行動分析学会第24回年次大会(5)e-Learning時代のインストラクショナルデザイン

●テクノロジーと行動分析

というタイトルの公開シンポの2番目の話題提供は、Y氏による、

●e-Learning時代のインストラクショナルデザイン〜行動分析学への期待

であった。

 Y氏によれば、「e-Learningの究極の目標は、個々の学習過程を最適化・カスタム化することにある」、この意味でICT(情報通信技術、Information and Communication Technology)の普及は重要。かつて家庭教師を雇わなければできなかったことが、ICTにより万民のものとなり、多様化した興味や関心、いろいろなレベルの到達度、学習環境に対応できるようになった、というような話であった。

 Y氏が強調された新たな学習形態
  • 個を尊重した学習(学習者中心の学習観)
  • 個にやさしい学習(個別学習、学習の最適化)
  • いつでもどこでも(フレキシブル学習、遠隔)
  • 多様化したライフスタイル、メディア環境に対応
については私も同感であるし、行動分析の基本理念に一致していると考えているが、ここでは、敢えて、疑問に思う点を挙げておくことにしたい。




 まず、「個を尊重」とか「個にやさしい」というのはその通りだとは思うが、人間というのは結構まわりに影響されやすいものであり、
  • まわりの人と一緒でないと勉強する意欲がわかない(←行動分析的に言えば、「勉強行動が強化されない」)
  • 集団の中である程度競争し、評価されないと、頑張ろうという気にならない(行動分析的に言えば、「勉強行動には付加的強化、社会的好子、阻止随伴性が必要」)
という傾向がある。

 習熟に著しい差が出るような外国語学習、数学、情報科学系などの分野では個別学習はたぶん効率を上げるだろう。そのいっぽう、生涯学習の一環としていろいろな教養を身につけるような場合は、むしろ、「みんなと一緒に学び交流する」、「講演者の顔や声から熱意を感じる」といった面が大切であり、「個の尊重」は「個別」ではなくむしろ「集団」の中で発揮されるべき、という考えがアリではないかと思う。




 そう言えば、2カ月ほど前、FD関係のセミナーで拝聴した講演の中に学部・大学院と連携したeスクールについての話題があった。ここで紹介された大学は、全国でもトップクラスの規模であり歴史も古い。その報告・感想記事に
その大学が実施しているeスクールというのは、受講生がネット上のコンテンツ(文章や図版などのインストラクションデザイン)にアクセスするという学習形態を連想しがちであるが、ここではむしろ、教員が教室で講義を行っている様子を動画で配信するという形態のほうが重視されているように見受けられた。

 実際、講義の様子を映し出す動画のほうが、教員の熱心さが伝わりやすい。いわゆるパラ言語の提示にもあたる。また、これはあくまで私個人の考えであるが、コンテンツ作成を考えた時にも、講義を録画して編集するやり方のほうが、手間も時間も遙かに少なくて済む、というメリットがあるものと推測される。
と書いたように、そのeスクールではでは、必ずしも多様な個別学習の機会は与えられていない。講師がじかに出演したほうが効果があがるというわけだ。現実にそういうやり方で成功しているわけだから、理屈を並べて反論するわけにもいくまい。

 けっきょくのところ、e-Learningのスタイルをどうすれば効率的かというような議論は、受講生の特徴やニーズ、科目の内容、達成目標、その他、受講生個人のライフスタイルやQOLにまで依存するとしか言いようがないように思う。




 もう1つ、これは雑学的知識としても面白いと思ったのだが、Y氏が紹介したスライドによれば、現代の平均的な若者(米国?)は21歳までに
  • ビデオゲームに1万時間
  • 20万通のEメイルを受け取る
  • テレビ視聴に2万時間
  • 携帯電話通話に1万時間
  • 読書時間は5000時間未満
を経験するそうだ。出典は聞き逃したが、これらの行動は赤ちゃんの時には起こらないので、仮に12歳から21歳までの10年間にこれだけの時間を費やすとして1日あたりの所要時間を概算すると、1日平均1時間費やしてもトータル3652時間にしかならないことが分かる。1日平均3時間でやっと1万時間、平均5時間半でトータル2万時間を越える。これはちょっと長すぎるようにも思うが、ま、こんなものかもしれない。

 このことは若者がe-Learningに向いているという論拠にもなるが、逆に言うと、だからこそ、もっと古典的な教室場面での集団学習を重視すべきだという主張にもつながりそうだ。





 このほか、Y氏の話題提供の中ではEDUCAUSEが紹介された。いずれにせよ、e-Learningの普及の中でスキナーの考えが受け入れられやすくなっているのは確かかと思う。

 次回に続く。