じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
夕日に浮かび上がる時計台。西日がうまい具合に当たるとこういう光景が見られる。昨年10月16日の日記にも写真を掲載していたことからみて、どうやら10月中旬〜下旬が適期と言えるようだ。



10月24日(火)

【思ったこと】
_61024(火)[教育]高校で地歴を必修にする必要はあるのか?(1)

 各種報道によれば、富山県のT高校で、学習指導要領上2科目を履修させることが必要な「地理歴史」の授業を1科目しか教えておらず、このままでは197人の3年生全員が卒業できなくなることがわかった。卒業のためには最低でも50分授業で70回分に相当する補習が必要であり、学校では土曜日や冬休みの時間を使って補習を行いたいと話しているという。

 このニュースについては当初、「必修の世界史を受けていない生徒が居る」というように伝えられたこともあったが、詳細を調べてみると次のような点に問題があったようだ。
  1. 学習指導要領では2年生の地理歴史教科は、世界史、日本史、地理各A・Bの6科目の中で2科目を選択するが、世界史はAかBのどちらかが必修で、ほかに日本史か地理を履修することになっている。
  2. 昨年度の授業内容を決める際に「受験に必要な科目以外は勉強したくない」との声が生徒から出たため、各教科代表の教諭でつくる会議で相談、校長も了承した上で、1科目のみの選択を認めることになった。
  3. その結果、生徒197人のうち165人が世界史を選択せず(←必修指定の世界史を選択していない問題点)、残る32人は世界史A・Bのみを履修した(←2科目以上を履修していないという問題点)。
 どうしてこういうことになったのか考えてみたが、19年度の大学入試センター試験では
  • 1月21日 9:30〜10:30 現代社会、倫理、政治・経済
  • 1月21日 11:15〜12:15 世界史A、世界史B、日本史A、日本史B、地理A、地理B
という日程になっており、要するに、どの大学の文系学部であっても、センター試験の得点を利用する限りにおいては、世界史と日本史と地理の中から1科目しか受験することができない、ならば、1科目だけに集中したほうが有利である、という要望が出たためかと思われる。

 何はともあれ、現行の学習指導要領で「世界史必修、他に1科目」と定められている以上は、これに従うほかはない。とはいえ、1月20〜21日のセンター試験まではあと100日も無いこの時期になって、受験に直接役立たない科目のために60時間を費やすというのは、該当生徒たちにとってはさぞかし苦痛になるだろう。また、そんな形で授業をしても果たして「高校でこの科目を学んで良かった」という成果になるのかどうか、かなり疑問である。




 今回の問題は、1つには、センター試験で同じ時間枠に「地・歴」1科目を押し込めてしまった点にあるものと思うが、もっと根本的な問題として、高校でそんなにいろいろな科目を教える必要があるのか、を考え直してみる必要があるように思う。これは、地理や歴史に限ったことではない。数学や物理、化学、生物などについても言える。20歳代、30歳代になってすっかり忘れてしまうようなことは高校で教えても無駄である。授業時間が限られている以上、もっと教えるべきことはないか、例えば、高校の授業科目として心理学を教えておけば
  • 少しは他人の気持ちが分かるようになるはず
  • 批判的思考を身につけることで、カルト宗教や振り込め詐欺から身を守れる
  • セルフコントロールのノウハウを身につけることで、前向きに進路を選択できる
といったメリットがあるはずだ。

 1つの科目、例えば世界史だけを取り上げて必要かどうかという議論をすれば、必要論が勝つに決まっている。しかし、「高校生に対して、限られた60時間の中で、心理学と世界史と地理のどれを教えることが最も意義深いか」というように議論を立てれば、結論は変わってくるはずだ。




 限られた時間の中で高校生に何を教えるべきかは
  • 高校生自身がいま生きていく上で何を必要としているか
  • 将来役立てることのできるような一般学習能力を高めるために何を教えたらよいか
という2点を柱に議論していかなければならない。しかし現実には、それぞれの学校には、社会科や理科の先生が居られて、既存の科目を教えることで生計をたてておられるわけだから、教育内容を根底から変えることは容易ではなかろう。

 次回に続く。