じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
岡大・農学部・東西通りのイチョウ並木の西端。雨が降り出す前の薄暗い朝であった。樹木の形から、26年前の石河子の風景を思い出した。


12月9日(木)

【ちょっと思ったこと】

ドアを開けたら別世界

 毎日、昼休みに、事務室近くのレターBOX室に立ち寄って郵便物を受け取ることにしている。この日もいつものように、勢いよくドアを開けて中に入ろうとしたのだが、なっなんと、室内の様子が一変しており、事務長さんがソファに座っておられるではないか。思わず「あれーっ?」と大声を上げてしまった。

 原因はきわめて単純明快。レターBOXの部屋の右隣りにある事務長室のドアを間違えて開けてしまったのであった。

 原因としては
  • 数ヶ月前にこのあたりで部屋の模様替えがありレターBOX室の入り口が変わった(=まだ馴れていない)
  • その部屋と事務長室のドアがよく似ている
  • その日はたまたま、出入りの少ない左隣りの部屋(就職情報室)から某教員が出てきたところだったので、あれ、どうしてあの部屋から出てきたのだろう?と気をとられていた
などが考えられるが、あるいは認知症の初期症状かもしれぬ。事故を起こさないように気をつけなければ...。

【思ったこと】
_61207(木)[心理]日本心理学会第70回大会(13)その安全対策は有効ですか?(5)運転適性検査は妥当か?(2)ミスを起こしやすい人を見つけるべきか、誰でもミスを起こしやすいものだとう前提で対策をとるべきか

 S氏による

●鉄道における事故防止策としての運転適性検査の研究

という話題提供についての感想の2回目。

 昨日も述べたが、電車やディーゼル車などの動力車の運転士に対しては、運輸省令(←当時の呼称)や国鉄技第164号(課長通達)で、適性検査を定期的に受検することが義務づけられているという。検査の中には例えば、クレペリン検査(並んでいる数字を足して1の位を書き込む検査)や反応速度検査、注意配分検査などがある。しかし、
  • 基準関連妥当性がない。→事故数は極端に少なく、事故数を基準とした妥当性評価には限界がある。
  • 内容的妥当性に問題がある。→そもそも運転適性検査は何を測っているのか。各検査が運転の何と対応しているのかが曖昧である。
という問題点のあることは、話題提供者の御指摘の通りであると思う。




 ところで、上述のクレペリン検査(正式には「内田クレペリン検査」)だが、だいぶ前、某看護系教育機関で、就職前にこの検査対策の「練習」をしていると聞いたことがあった。クレペリン検査というのは、ウィキペディアの解説にもあるように、1分ごとの作業量の継時的な変化のパターンから性格や適性を診断する作業検査であって、計算力のテストではない。練習したところでパターンが変わるはずがないと思っていたのだが、仮に

●できるだけ速く、ミスのないように計算をする

という練習をしておいて、本番の検査の時は、「全力で作業をする」のではなく「ある程度スピードを抑えて、理想型のカーブを描くように毎分の作業量を調整する」というように振る舞えば、結果的に「適性である」と判定される可能性が高まる、という可能性もあるかもしれない。練習しないで作業曲線のカーブを調整しようとすると、作業量全体が低くなるため「知能が低い」と判定される恐れがある。

 そういう練習が採用に有利に働くかどうかは不明だが、とにかく、ああいう検査結果だけで職種を固定されてしまうというのは、本人にとってはまことに不本意と言わざるを得ない。




 今回紹介された新しい適性検査の概要については、医療安全の心理学研究会のサイトの、「主催企画」→「2006年度日本心理学会公開シンポジウム」を辿るとパワーポイントファイルが閲覧できるので、ここでは詳細を引用することは控えさせていただく。一般化、抽象化してこれらをまとめると、以下のようになるかと思う。

 まず、運動適性検査というのは

●運転業務で事故を起こしやすい人を同定する

ことを目的としている。事故を起こしやすい人としては、少なくとも
  1. ヒューマンエラーを起こしやすい人
  2. 違反しやすい人
  3. 知識・技能が身についていない人
という3つのタイプ(およびそれらの重なり)があるが、今回はこのうちの1.をターゲットとする。

 そして、上述のクレペリン検査のようなものではなく、運転の何と対応しているのかが明確であるような作業課題のセットを用意するというのが、今回の主眼であると理解した。これは、ヒューマンエラー課題(資源分割不活性、ヴィジランス不活性など...)とシミュレータ課題との作業成績の相関を調べることで検証できる、というように理解した。

 ヒューマンエラー課題の妥当性については翌日にさらに詳しく発表されるということであったが、私は別の会場に参加していて拝聴することができなかった。




 今回の話題提供を拝聴して、なお疑問として残るのは、「運転業務で事故を起こしやすい人を同定する」という方略が本当に有効であるのかという点である。昨日も述べたが、この議論は

●世の中には「運転業務で事故を起こしやすい人」というのが存在しており、そういう人は業務から排除しなければなない。

ということを前提としている。確かに、1000人に1人くらいは、何らかの事情により、どのように注意しても、どのように努力をしても事故を重ねてしまうという人がいるかもしれない。その一方、本当は「事故を起こしやすい人」ではなく、適切にトレーニングを重ねればその職種で十分に活躍できる人というのもいるはず。そういう人までも排除してしまうようであれば、適性検査を開発することは結果的に、不適切に人を排除する道具と化してしまう恐れもあるように思う。

 人は誰でもミスを犯すものである。「事故を起こしにくい人」を選び出す努力をするよりは、(極端なケースは別として)ミスは常に起こるものだという前提で、それを防ぐような安全システムを二重・三重にセットしておくことに重きをおいたほうがよい場合が多いように思う。

次回に続く。