じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 冬に逆戻りの寒さとなり、阿蘇山では4月の積雪としては1933年の観測開始以来、最も多い28センチ(18日の16時〜17時)を記録した。岡山県北の千屋でも19日朝の最低温度が氷点下まで下がった。しかし季節は着実に春から夏へと向かっており、大学構内では美しい新緑が見られるようになってきた(写真は4月17日朝撮影)。



4月18日(水)

【思ったこと】
_70418(水)[教育]第13回大学教育研究フォーラム(9)大山氏の話題提供(3)自虐的な大学評価と大学危機を語る言説


 大山氏の話題提供:

●専門職化と教養教育の葛藤−問題の所在はどこか?−

の感想3回目。

 話題提供の後半で大山氏は、「大学改革を支える言説は、ほんとうに実態を反映しているのか」に関して、これまで疑う余地の無い「データ」として種々の議論の前提とされてきたいくつかの点についてツッコミを入れておられた。発表のご主旨は専門職化と教養教育の葛藤という点にあったが、その問題を離れたクリティカルシンキングのネタとしても、なかなか興味深い御指摘であった。

 まず、日本の大学は本当にユニバーサル化しているのか?という問題がある。2003年のOECDデータを見ると、日本の進学率は短大レベルを含めるとかなり高いが、学部型[4(6)年型]大学レベルでは40%を多少上回ってた程度であり、16番目にすぎない(1位はアイスランドで85%前後、9位のアメリカで65%前後)。また、1998年と2003年を比較した大学(学部型)進学率は、OECD平均で40%から53%に増加しているのに対して、日本は41%から42%に微増しているにすぎない。つまり大学で「急速な大衆化」が進んでいるという根拠はどこにもなく、むしろ、頭打ちで緩慢な伸びになっていると言うべきであり、「ユニバーサル化による学生の多様化への対応」という言説は、もっと掘り下げて検討する必要があるというのが大山氏の御指摘であった。

 上記の検討にあたっては、フルタイム学生、パートタイム学生、専修学校学生の比率の違いにも目を向ける必要があるようだ。『「教育指標の国際比較」(平成18年版)』によれば、日本のフルタイム学生はアメリカより多い。また、専修学校学生もかなりの比率を占めている。アメリカのような「ユニバーサル化した大学教育」においては、学生の学習履歴は、パートタイム、学位取得までの期間、入学までの履歴などの点で多様化するが、日本の場合は、高校を卒業してすぐにフルタイム学生となり、かつ4年間で学士課程を終える比率が圧倒的に多く、この点では多様化には至っておらず一律性があるということになる。「ユニバーサル化」への対処方略もこのことを考慮に入れる必要がある、という御指摘であった。

 このほか、発表論文集では、日本の大学は、女性の社会進出のためのキャリア形成のパスとして十分に社会的機能を果たしているとは言い難いという御指摘もあった。日本の女性の学位取得率、とりわけ理系分野での率が低い、といった点は、これまで正面切って議論されてこなかった。




 発表論文集(20〜21頁)の中で、大山氏は、
スペシャリストを養成するにせよゼネラルな教育をめざすにせよ,大学教育を支えている言説は,これまでの日本の大学教育は有効でなく国際的にも遅れをとっているという「自虐的な日本人の大学評価(喜多村)」であり,また,グローバル化,ユニバーサル化段階,社会からの要請,国際競争など,大学危機を語る言説である。
と述べておられた。上記の事例にも示されているように、経済財政諮問会議の提言などではしばしば「日本の大学は世界の潮流から大きく遅れている」とされ、「アメリカではの守」が横行しがちであるが、日本独自の教育システムや実態をもう少し精密に分析しなおした上で、日本型の教育改革のあり方を追求していく必要があるように感じた。

 なお、「日本の大学は世界の潮流から大きく遅れている」という点に関して言えば、じつは、いちばん遅れているのは、高等教育への対GNP支出なのである。大山氏のスライドにもあったように、2004年時点で、対GNP支出は米国の半分以下、公的資金は3分の1にとどまっている。

 話題提供の最後のところで大山氏は、大学はどこをめざすべきか?に関して、
  • 専門学校における職業教育との差異化(普通教育充実、狭義の教養教育、「豊かさ」、余白の時間、対話の時間、学生が立ち止まって考える余裕)
  • 大学における専門職の重要性(学生が履歴を形成するための支援、大学マネジメント、図書館など種々のサービス提供)
といった点を強調された。

 今回の4氏の中では、大山氏の話題提供が、学ぶべき点が最も多かった。

 次回に続く。