じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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岡山大学構内でお花見(56)ヒマワリ畑その後

 9月16日の楽天版に、農学部農場のヒマワリ畑の写真を掲載したが、その後2週間が経過し、種が熟するにつれて頭が重くなり、項垂れた花が多くなってきた。


9月30日(火)

【思ったこと】
_80930(火)[心理]日本心理学会第72回大会(8)乱数生成課題研究の応用的展開に向けて(8)乱数生成課題における音声認識・分析のシステム化

 今回のワークショップでは、もう1つ、伊藤憲治氏による

乱数生成課題における音声認識・分析のシステム化に向けて

という話題提供があった。

 タイトルから、被験者が発声する「乱数」をデジタルに認識するシステムの精緻化のお話かと予想していたのだが、実際には、ソーシャル・スキル(SS)のお話から出発されたため、少々面食らってしまった。

 伊藤氏によれば、SSは
  • 他者の同様の権利、要求、謝罪、恩義をなるべく傷つけずに果たす
  • 願わくば、これらの権利等を他者と無償で隠し立てなく交換するために必要
という意義があるという。この定義は、少々打算的で利己主義的な定義ではないかと思ったので、念のためネットで「ソーシャルスキルとは」というキーワードで検索をかけてみたところ、
  • (はてなキーワード)対人関係をマネジメントする能力。人間関係を上手くやっていく能力。
    精神医学界では自閉症に対する治療などで使われ、対人関係能力に加え、料理、公共機関の利用など、社会生活を営む上で必要な技術のことを指す。
  • ソーシャルスキルとは「社会性」のことであり「体験を通して学んだ人づきあいの. やりかた」である(小林,2001 )。
    いじめ、不登校、軽度発達障害の問題は、子どもたちのソーシャルスキルの稚拙さが大きく関連。
  • ソーシャルスキルとは,人間関係. を構築したり,維持することを適切かつ効果的に行うための「人付き合いの技術」であり. (相川,2000),人事労務で日常的に使用されているところの「対人対応力」を表す概念. といえる。
  • ソーシャルスキルとは、良好な人間関係を作り維持していくための「人づきあいの技術」 です。
  • ソーシャル・スキルとは、相手を理解し、自分の思いや考えを適切に相手に伝え、対人関係を良好にしていく技術である。
といった説明がなされていることが分かった。これらの定義の大部分は、「良好な人間関係を築くことは良いことだ」という暗黙の前提の上に成り立っているように思える。ま、大多数の人はそれを信じて疑わないとは思うが、中には、できるだけ人との接触を避け、自分の世界や時間を確保したいと思う人もいるはずだ。「良好な人間関係を築くことは良いことだ」を前提にしてしまうと、それを必要としない人にはSSは必要無いということになる。いっぽう、伊藤氏の定義は、むしろ、人間が利己主義的であることを前提として、そういう人の間で円滑な関係を維持する必要性を説いているようにも見える。

 喩えて言うならば、ある人がアフリカのサバンナに置き去りにされ、どうにかこうにか生き延びようと思った時には、野生動物との「お付き合い」がどうしても必要になる。その場合、何も、猛獣と仲良くする必要はないが、お互いを傷つけることなく、どうにかこうにか共存していくというスキルが求められるのである。

 伊藤氏の定義がオリジナルのものなのか、何かの書物・論文等からの引用であったのかは確認できていない。




 さて、とにかくソーシャルスキルは、言語と非言語の2つの下位部門に分かれるという。このうち発話行為に関してはSSに絡む文の構造があり、これは日本語と英語の間でも異なっているとのことであった。例としてあげられたのは、英語の「Please」と「Do」の違いである。前者は「申し訳無いが私のために〜してください」、後者は「遠慮しないで、あなた自身のために〜してください」というような意味になる。よって、部屋に入るのを遠慮している人に対して「Do come in」と表現すべところを「Please come in」と誘うのは妙な表現ということになる。←日本語で言えば「どうぞお入りください」と「どうか入ってください」の違いのようなものか。

 次に伊藤氏は、音韻的特徴を除く音声情報のうち、ほぼ安定なものと変動性成分に分けて詳しく説明された。前者には、グループ(コミュニティ?)に共通な差と、個人特有な差がある。また後者には発話行為(発話内行為、発話媒介行為)と、態度や気分や情動に関するものがあるという。

 さらに伊藤氏は音声プロソディ(イントネーション、ラウドネス、テンポ)についても言及された。冒頭のSSと関連づけると、要するに、文字情報と異なり、発話情報では、声を荒げたり、口早に喋ったりすることがSSにも影響してくるということであろう。プロソディ条件の働き方には一定の法則性がある。

 発話ではもう1つ声質(嗄声、緊張、地声など)の影響が出てくる。但しこれらは特定の情動・気分・態度とは1対1には対応しないということであった。

 ということで、この研究領域に関する新しい知見を得ることができたが、乱数生成課題との関連についてはイマイチよく分からなかった。

 なお、ワークショップ終了時の質疑の中では、乱数生成課題の動機づけの不足の問題、ダイグラム(連続する2反応の組)の出現頻度ばかりでなく、3個以上の反応を組にしたときの独立性についても検討すべきであるといった意見も出された(実際には、このあたりの議論は、過去にも多数行われているが)。

 以上、とりあえず、このワークショップについての参加感想は最終回ということにさせていただく。次回は、午後2番目のワークショップの感想を述べることにしたい。