じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
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日本心理学会第73回大会で特別講演を行うアグネス・チャン氏。私と3歳しか違わないのに、私より25歳は若く見えた。ただし、講演の中では、年齢による就職差別の問題についても言及しておられた。 ※肖像権の問題があると思うので、モザイクをかけさせていただいた。 |
【思ったこと】 _90826(水)日本心理学会第73回大会(1)心理学への訴状/TEMによる質的研究の可能性の拡大/アグネス・チャン氏の講演 立命館大学で開催されている日本心理学会第73回大会に参加した。なお、過去の学会・研究会等の参加記録はこちらからリンクしてある。この数年、私の参加感想文の文字数が400字詰め原稿用紙で200枚以上というように長大化してしまっているが、今回は9月2日以降に海外に出かける予定があり、とりあえずはメモ程度の記録で完結させたいと思っている。また、特別に必要が無い限りは、発表者や討論者の方々の固有名詞は記さない方針である。 さて、初日に参加したワークショップ、講演の中で特に印象に残っているのは以下の3件であった。
1.のワークショップでは、日本心理学会年次大会などの一般研究発表や国内学術誌の論文で、調査対象者が大学生に偏りすぎているという問題点が指摘された。他の社会科学の研究と比べると、心理学では、大学生を対象者とすることは「やむを得ない事情」として黙認される傾向にあるが、産業・組織系の研究者や大学院生から見ると、どうして大学生を対象としているのかということは重大な疑問になる。さらに、結論の過剰な一般化(大学生しか調べていないのに人間一般を論じる、など)をしたり、尺度構成にも影響を与える恐れがある。このほかにも、原典をあたらないことの問題点、質問紙調査に対する回答態度、自分の関わっていない問題を外からの目で研究対象とする傾向、実践的意義を強調する必要性などが指摘された。 これらのご指摘はまことにごもっともであると思った。ただし、フロアからのディスカッションの中で発言させていただいたように、学会のポスター発表(大会発表論文集)のようなものは、研究成果の交流・活用の場というよりもむしろ、大学院生の教育訓練の場という性格が強いように私は思っている。卒論生や大学院生が限られた年限の中で様々なスキルを獲得し一人前の研究者として育っていくための教育訓練として考えた場合、サンプリングや一般化で苦労するよりは、とりあえず身近な大学生を対象に調査する中で研究遂行能力を磨き、さらに学術誌に投稿する中で研究発表能力を高めて学位を取得するという過程を学会として用意することにはそれなりの意義があると思う。 とはいえ、すでに職に就いた研究者が相変わらず大学生だけを対象に調査や実験を行い、論文をたくさん掲載して、科研費を獲得していくという研究スタイルが妥当であるかどうかは大いに問題。メタ研究に利用できるような「学術的研究」と、研究者養成の一環として発表される「教育訓練的研究」はある程度区別していく必要があると思う。 2.の「TEMによる質的研究の可能性の拡大――TEMによってどのような地平が開けるか」は、話題提供自体よりもそれをめぐる指定討論のあたりが大変参考になった。 TEMというのは、「Trajectory and Equifinality Model」のことであり、 等至性の概念に注目し、等至点に至り、そこから分かれていく、時間とともにある発達径路・人生径路の多様性・複線性を他の可能性を考えて描くための、思考的・実践的な分析・記述の枠組みである。と定義されている。日本では『TEMではじめる質的研究‐時間とプロセスを扱う研究をめざして‐』という本が2009年3月に刊行され、質的心理学者のあいだでも注目されるようになってきた。 私自身はこの概念については全く素人であるが、 ●行動分析学の基本原理である行動随伴性を、数十年にも及ぶような長期的な視点に立って、単一の行動の分析から、日常生活諸行動の連関の分析へと拡張する試み に取り組んでいるところでもあり、今回はTEMの手法や問題点を勉強する目的でこのワークショップに参加した。 特に参考になった点を記憶やメモに残っている範囲で列挙すると、
3.のアグネス・チャン氏の講演は、学術的な内容ではなく、ご本人の生育体験、子育て体験、さらに香港や、後にアフリカを訪れた時のボランティア体験などに基づくものであった。身振り・手振り、表情豊かに語りかけるスタイルは、システム化理解というより共感的理解に訴えかけるような講演であり大いに参考になった。 特に印象に残ったのは「周りを見てみる」ことの大切さということ。辛いと思う時はたいがい自分のことしか考えていない。子育てにおける褒める、叱るという問題、あるいは、いじめの問題については、行動分析学の原理が活かされた御主張であるように感じた。 次回に続く。 |