じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
【思ったこと】 _a0825(水)[心理]『行動理論への招待』に招待された私 §§ 行動分析学の第一人者の佐藤方哉先生が23日夜、京王線新宿駅のホームで電車にはさまれてお亡くなりになったという。酒に酔った男が、電車を待っていた人たちの列によろめきながらぶつかり、最前列に立っていた佐藤先生が押し出されて入線してきた電車とホームに挟まれたということであった。 このニュース自体は24日から伝えられていたが、亡くなられたのが佐藤先生であったということを知ったのは、25日の朝になってからであった。まことに残念なことであり、謹んでご冥福をお祈りしたい。 それにしても、この事故に関するネット記事の見出しは、あまりにもひどい。かなりの見出しでは、佐藤先生は「佐藤春夫氏の長男」というような紹介をされているが、これでは佐藤先生ご本人のご功績は完全に無視されてしまっている。肉親の中にご当人よりももっと有名な方がおられて、その血縁関係をもってご当人を位置づけようとするものであり、死者を冒涜するようなものだと思わざるを得ない。念のため、ネットのニュース検索で関連記事の見出しを拾ってみると、
私自身が佐藤先生の御著書を始めて拝読したのは1977年の春であった。ハトのオペラント条件づけの実験で卒論を書いたこともあり、実験的行動分析関連の本や論文は1974年頃から英文で読んでいたが、日本人が書いた行動分析学の入門書としては、『行動分析学への招待』が最初であったと思う。書き込みによれば、読み始めは1977年4月7日、読み終わりは同年5月18日であった。1977年と言えば、3月に修士課程を修了し、博士後期課程に進学してこれからの研究の方向を考える時期にあたっており、この本を通じて受けた影響はきわめて大きかった。当時、私は、京都市北区に下宿しており、大学に用事の無い時は、近くの京都府立植物園に回数券で入園し、園内のベンチで本を読むことが多かった。この本は、読みやすかったこともあって、最初から最後まで園内のベンチだけで読了した。このこともあって、今でも植物園を訪れると、この本の記述内容の一部が頭に浮かんでくるほどである。 その後、佐藤先生とは、学会の年次大会、各種講演会、学会期間中の昼食時などでご一緒させていただいたことがあった。(こちらに相当昔の記念写真あり。) 佐藤先生の偉大な功績については別の機会に改めて取り上げさせていただくこととして、ここでは今回の事故に関連することをもう少しだけ書かせていただくことにする。 上掲の『行動分析学への招待』には「行動分析学的留学記」という付章があり、そこでは、1974年にカンザス大学およびメリーランド大学を留学されたさいに2つの方針を立てたことが記されている(277-278頁)。
今回の事故をきっかけに電車ホームからの転落を防ぐためのさまざまな施策が講じられることになるかとは思う。ホームに柵や透明壁をつけて電車が完全に止まるまではドアが開かないようにするという方策が有効であることには異論はないが、行動分析学的な発想から言えば、改善の第一はやはり行動を変えることにあるだろう。駅ホーム上において、事故防止のためにはどういう行動を強化、どういう行動を弱化したらよいのかをまず点検し、そのために必要な弁別刺激を用意することが先決。行動を観察せず、設備だけで事故を防止するというのは行動論的とは言えず、有効性に限界があるように思う。 |